夏帆サイド

第31話 三島を協力者として

私はお兄ちゃんの事が大好きだ。

だからお兄ちゃんだけを溺愛したい。

何故に好きかって言われたらお兄ちゃんは先ず優しいんだ。

だから大好きなので有る。


だけど、今、私に最大の問題が起こっている。

お兄ちゃんが好きであって尚且つ悩んでいるお兄ちゃんは好きじゃ無いのに、お兄ちゃんが色々と悩み、変わっている点だ。


断言するなら今のお兄ちゃんは完全にお兄ちゃんのお父さんが乗り移っている様な感じに見えて仕方が無い。

だから今のお兄ちゃんの人格を戻すのも私の役目だと思っている。


今のお兄ちゃんを敢えて言うならまるで、十字架を背負った人にしか見えない。

いつまでお兄ちゃんは.....その大きな十字架を背負うのだろう。

私じゃ駄目なのだろうか.....。


私は歩くお兄ちゃんの背を見る。

この背を何時迄も追い駆けたいと思っている。

だから全てを差し置いてでも.....取り戻す覚悟だ。


それはきっと、天秤の様な私達兄妹に課せられた使命だと思う。

お兄ちゃんは.....否定もするけど絶対に.....このままじゃ駄目なのだ。

私は.....お兄ちゃんを.....。

今度は私がお兄ちゃんを救ってあげたいのだ。


「ごめんな。夏帆。付き合ってもらって」


「ううん。お兄ちゃんの為なら.....」


「.....何て言うかまだ違和感が有るな。そのお兄ちゃんっての」


「.....え?じゃあ名前で呼んで良い?」


いやいや、それは如何なもんだろうな。

その様にお兄ちゃんは小さく笑みを浮かべた。

だが.....この笑顔も今は偽りなのだろうかと。

そんな事を思ったらいけないのだろうけど.....思ってしまう。


お兄ちゃんのお父さんの真似をずっとしているのだろうかとその様に、考えてしまって私は.....少しだけ悲しい。


それではまるで、自動巻人形だ。

ただ単に人間の真似をしているだけの。

多分、心の中で相当なストレスになっている筈だ。


駅まで歩きつつお兄ちゃんの事を考えながら私は真正面を見る。

電車を待っている。

隣街の少し都会な感じの場所に行く為だ。

以前、山下はるか、として遊園地に向かった場所に近い。


懐かしくも感じれば.....山下はるかになったのは良かったのだろうか。

と考えてしまう。

そんな考えを浮かべているとお兄ちゃんが私の方を見てきた。

電車が来た様だ。


「じゃあ電車に乗ろうか」


「.....そうだね.....」


目の前に大きな音を立てて電車が停まる。

考えが頭を駆け巡る。


この様になったのが人間ならそのお兄ちゃんの邪魔な人間を排除するべきだ。

だけど違うのなら。

お兄ちゃんの性格を.....私がどうにかしないといけない。


「おい。夏帆。.....もしかしてまだ考えているのか」


「.....うん。えっとね、私は.....お兄ちゃんが大事だから」


そうだ、私はお兄ちゃんが.....悩む姿を見たく無いから。

だから私は.....お兄ちゃんの性格を.....治す。

私が犠牲になっても、と、そう考えていると。


「あれ?佐賀さんだよね?」


「.....げっ」


目を見遣ると、電車の角の席に誰か乗っていた。

見ると、髪の毛を結った、出掛け着の白の可愛らしい服装の三島で有る。

私は汚物を見る様な目でその女を見つめる。


学級委員長だったな、コイツ。

それはどうでも良いが、何でコイツが居るんだ。

私はその様に思いながら見つめる。

その様な感じで仏像の様に立っているとお兄ちゃんが?を浮かべて私に聞いてきた。


「.....この人はなんだ?知り合いか?」


「あ.....いや」


「この人は?佐賀さん」


「.....えっと.....」


私は三島が邪魔と思いながらも暫く考え込み、そして利用の手立てを考えた。

それからハッとして思い付き、笑顔を見せる。

今が利用の時かも知れない。


私は笑顔で反応する。

満面の笑顔で、だ。


「私の兄だよ」


「.....お兄さんが居たの!?」


目をパチクリして驚愕する、三島。

私は少し面倒と思いながらも、対応した。

電車のドアが閉まる。

チェスで言えばポーンが駒を進ませた感じか。


.....って、ん?でも確かコイツ.....孤児だったよな?

私はその様に考え、見つめる。

何をやっているんだ?


「そうですね。初めまして。佐賀宗介です」


「あ、えっと.....三島かなほって言います。宜しくお願いします」


「.....三島さんはクラスメイトですか?」


「あ、はい!」


まるで花が咲く様な笑顔。

そうなんですねとお兄ちゃんが反応する側で私は聞きたくなって、聞いた。

この女は何をやっているんだ、と。


「.....あん.....じゃ無くて、三島さんは何をやっているの?」


「え?あ、私?私は.....家族の墓前に.....」


「.....家族の墓前?」


「.....あ、はい。私、実は.....」


三島はこの人なら大丈夫かな、と言う顔をして壮絶な過去を話し出した。

そんな中で私は考えていた。

殺す気持ちを何時も揺るがすねコイツは、と、だ。


「.....そうなんですね.....」


「.....はい。それで.....私は墓前に墓参りに行ってました」


それ以外にも有る。

悲しげな感じを見せるお兄ちゃんの顔を見ながら私は考える。

大切な人を失った者で有る、三島。

つまり、もしかしたらお兄ちゃんを元に戻す方法を知っているかも知れない。


「.....三島さん。ちょっとこっちに来てくれませんか?」


「.....え?」


そして私達は別車両に2車両目を追い越して行った。

扉を開けた先、3車両目。

そこで私は振り返ってキョトンとしている三島を見る。

コイツの利用方法が分かったのだ。


「.....ごめんね、三島さん」


「え、いや大丈夫だよ!全然!」


「ごめんね、本当に。.....その、2人だけで話したかったの。えっと聞いて良いかな。三島さんは性格を安定させてるよね。どうやって?」


「え?」


目をパチクリする、三島。

良いから答えろ、早く。

私はその様に苛立ちながら急かす様に見つめる。

三島はうーんと言った。


「.....私は.....性格は安定してないよ。あの日から」


「.....この前、私に殺された事を話してくれたよね。お兄ちゃんも実は.....大切な人を失っているの。電車の事故で」


「.....え.....」


「.....お兄ちゃんは.....自分の人格を安定出来なかったから.....今でも贖罪している。それで.....三島さんなら.....治す方法が分かるかなって」


顎に手を添える、三島。

私はそれを見ながら答えを待つ。

すると、三島が真剣な顔で言った。


「.....一緒に行って良いかな。私、佐賀さんのお兄さんの様子が見たい」


そこまで話が飛ぶか。

私は.....女がついて来られるのが嫌なんだが.....だが。

今回は.....仕方が無い。

私はそう考え、三島に言った。


「.....構わないけど.....」


「.....お兄さんのその様子は良くないよ。亡くなった人も.....浮かばれない。だから.....私も行くよ。友達の為だから!」


私は見開いた。

友達、と言う言葉に、だ。

コイツ.....。

調子が狂う、やっぱりと思った。


コイツには何かの力が有る。

お兄ちゃんを変えれるかも知れない。

協力者になるかも知れない。


そして、私が殺すの意味を知る機会になるかも知れない。

もう私には.....変えられない気がするから。

そして学ぶのには限界が有る気がするから。


お兄ちゃん。

全ては貴方の為に。

だから今は貴方を溺愛するのをやめておきます。


だから。

変わってお兄ちゃん。

お願いだから。

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