宗介サイド

第18話 (仮の)仲直り

夏帆が激しい過呼吸で倒れ、救急車で運ばれた。

既に救急車に運ばれた時は意識が飛んでいて、俺は青ざめていた。


近所の総合病院に運ばれた。

俺と母さんは病院にて静かに治療中の夏帆を待ちながらという感じで前を見据える。

まさか過呼吸が起こるとは.....。


「.....宗介。.....顔色が.....」


「.....俺は何時もの通りだよ。母さん」


「.....そう?でも.....青ざめる以外にまるで何か.....悩んでいる様な.....」


「母さん。大丈夫だって」


でも本当は大丈夫じゃ無い。

心配は心配だが。

はっきり言って、何故、という感じだ。


俺を弄ぶ様に騙してまで義妹が山下に変装していたのは何故か、と。

ただひたすらに思う。

何か.....嫌だ。


「.....母さん。例えばなんだけど」


「.....?」


「.....えっとね、友達の話なんだけど.....普段は余り友達を心配しない感じで兄弟が接している.....だけどたまに変装してまでその兄弟が友達を心配に見ている.....と言うか、まるで表の姿を見られない様にこっそりと内面に攻め入ろうとしている.....それはどういう心理だと思う?」


俺は不安そうにしている母さんに申し訳無い感じだが、聞く。

横に臨床心理士が居るのを忘れていた。

聞いてみれば良いじゃ無いか。


そう思いながら、だ。

母さんは目をパチクリして顎に手を添えて、考える。


「.....うーん。それはただ嘲笑っている訳じゃ無さそうね。.....何かその兄弟さんには表向きじゃ恥ずかしい何かが有る.....のかしら。.....と言うか.....もしかして夏帆ちゃんの事?」


「.....いや、友達だよ。大丈夫。夏帆じゃ無い」


「.....そう?」


母さんは笑みを浮かべる。

そうか、夏帆は何か.....恥ずかしいのか?

俺はその様に思いながら、少しだけ安心した。


余りやましい事は.....無いと言う事か。

でも、何かが、という事は、全く無いという意味では無いという事だ。

それはつまり.....夏帆には若干にやましい事が有る。

そういう事だろう。


だがこのまま心底安心して警戒を怠る訳にはいかない。

俺を仮にも騙したのだから、絶対に何か.....有りそうだから。

その様に考えていると、扉が開いた。


ガラッ


「.....あ.....」


「.....えっと、ご家族の皆様.....」


お医者さんと看護師さんだ。

俺と母さんは現れた二人を見ていると診察室に呼ばれた。

そして俺達は顔を見合わせて診察室に入る。



この激しい過呼吸は一時的なものだろうという事にはなった。

落ち着く呼吸法などを教えてもらい。

薬など有るのかと思ったが、そうでは無いらしかった。

そのまま俺達は帰る事になり。


「大丈夫?夏帆ちゃん」


「.....はい」


「.....」


帰る車の中で俺は静かに夏帆を見つめる。

夏帆は俺を見て、俯いた。

あまり.....良い空気では無い。


「.....何か.....悩みが有ったら話してね。夏帆ちゃん」


「.....はい.....」


「.....」


静かに窓から外を見つめる。

そして考えていると、夏帆が俺に話し掛けてきた。

顔を悲しげにしながら、だ。


「.....お兄ちゃん」


「.....何だ。夏帆」


「.....騙すつもりは無かった。勇気が出なかったから」


「.....だけど俺は騙された。.....だけど.....俺も俺だ」


俺の声に悲しむ夏帆。

複雑に思いながらも夏帆の頭に手を置いた。

そして少しだけ笑む。


何時迄もみみっちく怒っていても仕方が無い。

仮にも夏帆は義妹なんだ。

俺はその様に思いながら、撫でた。


「.....夏帆.....その、仲直りしてくれ」


「.....!.....うん!」


だけど.....俺は.....コイツを完全に信頼した訳じゃ無い。

どうしても.....信頼が出来ない。

まだ戦いは続くだろう。


義妹として.....心の底から信頼出来る日が来るまで、だ。

俺はその様に思いながら、赤面する義妹を見た。



翌日の事、日曜日。

午前10時。

俺はデートをどうするのかと思いながら、考えていた。

まぁ中止だろうけど。


「.....ふあ.....」


だが、山下が.....義妹か。

仮にも恋をした相手が.....義妹か。

血が繋がってない.....。


「.....」


その事にボッと思いっきり赤面した。

義妹は義妹、他人は他人。

つまり、血は繋がってない。

このまま付き合っても問題は無いという事になるが.....駄目だ。


コンコン


「.....は、はい!?」


「.....お兄ちゃん。私だけど」


「.....あ、ああ。夏帆。どうした?」


「.....その.....」


扉が開く。

そして夏帆が.....袖無し白のワンピース姿で立っていた。

髪の毛を2つに結って、だ。

俺は眉を顰める。


何だ.....これは?

夏帆は何故、この格好をしている?


「.....似合う?」


「.....あ.....ああ。どうした?」


「.....その.....あの。これから先.....嘘を吐かない様に.....ありのままの姿を見せたいと.....宣言する為に着たの。あと来たのは.....ラノベ貸して。漫画でも良い」


決意の表れとその様に話す夏帆。

その姿を見ながら、そうか。

と少しだけ安心して言って、ラノベと漫画を貸した。


夏帆は笑みを見せてくれた。

俺はそれを見ながら少しだけ柔和になる。

まだ戦いは終わらない。

それでもいつか。

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