第57話 性格
「どうせ僕なんか。」
人間の性格は、そう簡単に変わるものではない。夢見叶は、自分に自信の無い性格だった。自分へのコンプレックスが強ければ強い程、自分と他人を比べる性格であればある程、自分の心の殻に閉じこもってしまう。
「よく眠れたな? 新しい枕やマットレスのおかげかな。最近、何も変わらない同じ毎日の繰り返しなのに、何かが違って見えるような。」
朝、僕は目が覚める。自分の部屋で、自分のベッドで。でも、でも何だか、以前に比べれば清々しかった。
「ああ!? まずい!? 遅刻する!?」
ふと時計を見ると、もう朝食を食べなければいけない時間になっていた。急がなければ学校に遅れてしまう。
「あわわわわ!?」
僕はパジャマを制服に着替えて、家族の待つ食卓へ向かう。
「お、おはようございます。」
「おはよう。叶。」
「叶さん、寝坊ですか? いつになったら時間通りに起きてこれるのやら。あなたは、もう高校生になったんですからね。いい加減にしっかりしていただきませんと。」
「すいません。」
父親の夢見勝と母の夢見杉。父は病院や学校を経営している夢見グループの社長である。母は、小言ばかりで毎日、息子である僕をいじめている。偉大な父親のプレッシャーを受けたというよりも、母のいじめに僕が委縮している、または「どうせ文句を言われるなら。」と何をしても同じだろうと、人生を諦めたら、今の自分になった。正確には、今までの自分になった、というべきか。
「まあまあ、お母様。最近は、叶も赤点を取らなくなってきたわけですし、それに朝食を食べさせないと、学校に遅刻してしまいます。」
「心さんが言うなら。叶、早く朝食を食べなさい。」
「は、はい。」
おまえが邪魔してたんだろう! 僕は心の中でお母様に文句を言った。口から言葉にして声として、お母様に文句が言えないからだ。
「心お兄様ありがとう。」
「叶、早く食べないと遅刻するぞ。」
そして、僕なんかに救いの手を差し伸べてくれるのが兄の夢見心。頭脳明晰、スポーツ万能、才色兼備の優しい兄である。医学部を卒業し、父の夢見病院で医師として働いている。
「おかしい。最近の叶お兄様は何かがおかしいわ?」
「何をブツブツ言っているんだよ?」
「だって、以前の叶お兄様は、お母様にサンドバックにされたら、今にも死にそうな顔をしていたもの! 今のお兄様は何事もなかった様に平然としているんだもの!」
「慣れだよ、慣れ。」
「そういうものですか? 信じられない!? 叶お兄様から、そのようなお言葉が出てくるなんて!?」
「僕は、いったいどんな人間に思われていたんだよ?」
「ゴミ、虫けら、落ちこぼれ、負け犬、それでも兄。」
「あのな!?」
「叶さん! ご飯は静かに食べなさい!」
「すいません。お母様。」
黙れ! サンドバッグ! と僕は心の中で叫んだ。当然、僕の心の声はお母様には聞こえない。
「ごちそうさまでした。お父様、お母様、病院に出勤致します。」
「うむ。私も後から行く。」
「行ってらっしゃい。心さん。」
「待って下さい!? 僕も行きます!」
「私も行く!」
「はしたない! 口に食べ物を入れて席を立たない!」
「すいません。」
とくに毎日の生活が変わる訳でもないし、急に性格が変わる訳でもない。
「それでも夢の中で、救世主様、やってます!」
言いたい! 誰かに心の声を言葉にして言ってみたい! 何かが変わり始めた。夢の中の僕が、現実の僕を凌駕し始めていた。
つづく。
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