第11話 成功
「ギャア! 死んでる!?」
「警察だ! 救急車だ!」
学校はパニックになった。火油の殺された翌日の朝。高校の正門には、新たに5人の生徒の惨殺された遺体が並べられていた。
「夢は叶えられるんだ。」
夢の世界で殺した、いじめっ子5人の遺体が正門に並ぶ。無残な光景に目を背ける目撃者たち。その中で僕一人だけが死体たちを見て興奮していた。
「夢の世界で人を殺せば、現実世界の顔のソックリな人を殺すことができることは理解した。だが、これは完全犯罪。僕が人を殺したという証拠はどこにもない。クックック。」
僕は何か特別な力を手に入れ喜びと、自分しか殺人事件の真相を知らないという状況に、狂気にも似た笑いを浮かべていた。
「キモイ。」
笑っている僕の顔を、登校してきた佐藤美姫に見られ、冷たい言葉を浴びせられる。異世界では姫役の佐藤には、現実世界では相手にもされていないのだが、僕の心は傷ついた。
「キモイよね。佐藤くん。俺と一緒に教室に行こう。」
「そうね。」
「あばよ、いじめられっ子くん。」
佐藤と男は正門から学校の中に消えていった。
「誰だ? あいつは? なんて嫌味な奴なんだ。」
「伊藤黒夢だ。」
「お、鈴木。おはよう。」
「おはよう。夢見。」
鈴木火炎は、僕の友達である。親切で、いい奴だ。そして、なぜか情報通。
「伊藤は、最近、転校してきたらしい。そして、直ぐに佐藤に近づいたらしい。あの気の強い佐藤が、伊藤の言うことには言いなりらしい。まるで催眠術でもかけられたんじゃないかって、噂だ。」
「催眠術ね。」
「まあ、気にするな。俺たちは元から佐藤には相手にはされていない。」
「そだね。悲しい~。」
「ハッハハハ!」
これが僕と伊藤の出会いだった。結局、度重なる殺人事件に学校は休校となった。僕は自宅に帰ることになる。
「夢で姫を犯せば、佐藤美姫も僕の女になるはずだ!」
僕は第二の犯行を計画する。もしも夢の世界で人を殺せば、現実世界の人を殺せるのであれば、夢の世界で姫役の佐藤を手に入れてしまえば、現実世界の佐藤も僕のものになるはずだ。
「これは夢の話だ。僕の夢なんだ。夢の中で僕が何をしても許されるんだ! 夢の世界の出来事は、現実世界で現実になる。」
主人公は、学校では、佐藤美姫に相手にされない。主人公は夢の世界で、姫役の佐藤美姫を襲おうと考える。
「僕を冷たくあしらった女を許さない。」
僕の精神と思考は醜い狂気に支配されている。今までの惨めな自分には無かった、初めて強大な権力を手に入れた者の「自分の思い通りに行動する。」という強い自己顕示欲が。その思考には「他人を傷つける」ことに抵抗はなかった。
僕は僕である。例え、僕の中に、もう一人の僕がいたとしても。
つづく。
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