ただ今、絶賛彷徨中です 2

「うあ~……いくらなんでもありえないでしょ……はぁぁ~……」


 ちょっとのつもりが、盛大に寝入ってしまっていた。

 スマホの時刻を確認すると、なんとたっぷり4時間ほども経過している。


 油断したつもりはなかった、なんて言い訳も利かないほどの爆睡だった。

 暗闇の中、スポットライトばりに燦々と日光を浴びた状態で、無防備で寝息を立てる獲物――狩る側にとっては、これほど据え膳なシチュエーションもなさそうだ。

 無事でいられたのは幸運としか言いようがない。


 猛省するも、結果としてはここ3日間でもっとも長く深く取れた睡眠だった。

 硬い地面の上だけに身体の節々は若干強張っているが、疲労回復の面ではこれまでと段違いだった。

 さっきまでの自分が、いかに疲れていたのかよくわかる。


 上空から差し込んでいた陽光もすでになく、外界ではすでに日が暮れたらしい。

 穴倉だけに時間経過の判断はしづらいが、スマホに表示された時刻では20時を回っている。

 充電率は50%、これでなんとか命は繋がった。


 いつまでも、ここにこうしてもいられない。

 動ける今のうちに、少しでも先に――というか上に進みたい。


 最後に胸いっぱいに大欠伸をする。

 冷たい空気を吸い込むことで、寝ぼけた頭も冴えてきた。意識が覚醒していく。


(あれ……これ、光ってないか?)


 抱いたまま寝てしまっていた卵の存在に、今さらながらに気づいた。

 卵自体がぼんやりと光を放っている。しかも、なにやらほんのり温かい。

 日が落ちて寒さが厳しくなる中、熟睡に貢献してくれたらしい。


 実際、なんの卵だろうね、これ。

 普通なら真っ先に浮かびそうな疑問だが、さっきまではそんな余裕すらなかったから仕方ない。

 脳が休まって、いくぶん判断力が増した頭であらためて考察してみる。


 卵生の生物といえば、思い浮かぶのは鳥か爬虫類。ここに来てから鳥には出会ってないので、後者の可能性が高い。

 ただ、浅い知識では、トカゲなどの卵は柔らかかったと思う。この卵の殻はいかにもな硬質で、以前に見たことあるダチョウの卵に近い気がする。


 ひとつしかないのも変だ。

 捕食者に狙われやすい生物は、生存率を上げるために一回の産卵で多くの卵を産むはず。

 周囲に孵化した形跡もないからには、産み落とされたのはこれひとつだけなのだろう。


 背筋が凍るのでぞっとしないが、もしやあの地竜の卵だったり?

 それならいろいろ頷けるし、親竜を恐れてこの巣(?)に他の生物が近寄らないとも考えられる。


 とりあえず、卵を持ち掲げてみた。

 重さはボウリングの球くらい? せいぜい5キロ程度。大きさはバスケットボールちょっとほど。

 果たしてこのサイズから、あの巨大な生物にまで成長できるものか悩みどころだ。


 卵の表面をぺしぺし叩いてみるが、当然のように反応はない。

 耳をくっ付けても、なにも聞こえない。


「ふむ……」


 しばらく悩んでから、これを持っていくことにした。

 なにも興味本位だけのことではなく、スマホの充電も炎の魔法石も節約したいこの現状で、カンテラとカイロ代わりになる卵はそれだけで有用だった。


 倫理面ではどうかという気がしないでもないが、置かれた状況が状況。

 もし孵化しそうになったり、危険があるようなら、置き捨てればいい話だと割り切ることにした。


 せっかくなので移動前に簡単な食事を取り、保温バッグの空いたスペースに卵を押し込んでみると、測ったようにおあつらえ向きのジャストフィットで、卵はバッグにきれいに収まった。

 これなら肩かけで重さも気にならないし、明かりを消したいときにはバッグの蓋を閉めればいい。


 事態は好転とまではいかないが、横ばい程度までには回復した。


 そろそろ出発しようかと、保温バッグを担ぎ直したそのとき。


 どぉぉぉん……


 空気が震え、地響きと共に、もはや聞き慣れた崩落音がした。

 反響具合からして、やってきたのとは反対側の方向で、距離もさほど遠くはないようだ。


 崩落現場なら、落ちた瓦礫を利用して上手いこと上層に登れる可能性もある。

 闇雲に上へ繋がる道を探すよりは、効率としては幾分マシだろう。ただし、地竜などが一緒に落ちてきてなければの話だが。

 こればかりは運に頼るしかない。


 スマホの充電に余裕が出たので、景気づけにちょっとだけ、スマホのおみくじアプリを起動してみた。

 出た結果は――小吉。うん、びみょー。


 ○願望 心配多くして其功すくなく急ぐな

 ○待人 来るとも遅し 思わぬ処より

 ○失物 届けられる 隣人より

 ○旅行 計画を十分にたてよ

 ○商売 利あり 売るによし

 ○学問 雑念多し全力を尽せ

 ○争事 勝がたし 時をまて

 ○恋愛 深入りするな

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る