第38話 恋慕の鉄道遺跡 メトロ



 古代文明が生み出した遺物スフィア、それは今を生きる人々にとって超便利アイテムとして重宝されていた。飛空艇という大型のものから、消しゴムのような小さなものまで、その形や大きさは様々だ。だが大抵は、厳重な防護を固めた遺跡の中にそれは眠っている。

 しかし、そんな場所に眠っているスフィアを、遺跡から発掘して生計を立てる者達がいた。

 これはそんなトレジャーハンターの新人の物語であった。





――鉄道遺跡 メトロ


「チカさんチカさん! 迷子になりました!」

「さっそくかよ! 」


 鉄道遺跡メトロの中で絶賛迷子中の二人がいた。

 一人は治癒士のラルフィナという少女で、もう一人は拳闘士のギィチカという少年。


「せっかくの、新生トレジャーハンター、シロネ団の記念すべき初活動なのにフィナ達迷子しちゃってますよ!」

「それは、主に、お前のせいだけどな。好き勝手走り回ってんじゃねーよ」


 鉄道遺跡に並んでいる車両の間をさっそく走り回ってはしゃいでいるフィナに、チカは苦い顔をして注意を飛ばす。


「だって、こんなにもすごい四角形さんたちが並んでるんですよ。楽しくなりませんか?」

「なんねーよ。だから言ってるそばから、走るなって」

「わぁ、すごいですねー。あっちにも」

「……言ってんだろうが」


 フィナは迷子の自覚ゼロだった。


「だあああっ、はぐれたらどうすんだ!」

「チカさん……、私の心配を……」


 ぴたりと足を止めたフィナは、瞳を感動で潤ませる。


「してねーよ。お前が勝手なとこ行くと俺が迷惑すんだよ」

「そんな、チカさんあんまりです。冷たいです。冷たい人なんですね、チカさん。お前の行くとこならどこだってついてってやるぜ、とか言っていたかっこいいチカさんはどこにいってしまったんですか」


 一転して、よよよ、と泣きだすフィナ。チカはその頭に拳を叩き込んだ。


「どこにもいねーよ。記憶改ざんしてんじゃねえよ。おめでた脳」

「いたた……。そ、そんなあ。じゃあ、ここにいるチカさんは偽物……」


 わなわなと体をわざとらしく震わせて、フィナはチカから距離をとりだす。


「どういう思考回路してんだ」

「なんちゃって、私がチカさんを見間違えるワケないじゃないですかー。もー」


 あわてんぼさんっ、と慌てた様子のないチカの頬をつんつんっ、とリズミカルにつつく動作。

 チカの周囲に殺気にも似たオーラが漂い出す。


「お・ま・え・はぁぁぁぁ!」

「きゃー、チカさんが怒ったー」

「……お前ののわがままに付き合ってこんなとこに来るんじゃなかったぜ、まったく」


 シュッシュッシュ。ポー。


「あれ、チカさんこの鉄道、何か煙上げて動いてますよ」


 えいっと、遺跡内を走る鉄道におそらく何も考えずに乗りこむフィナ。


「馬鹿、乗んじゃねぇ。どこ行く気だアホ」

「むっ、バカって言う方がバカなんですよ。チカさんのバカッ! 乙女心が分からないチカさんは置いてっちゃうんですから」


 シュッシュッシュ。列車は遠ざかっていった。


「あーあ、行っちまった。もうこのままでいいよな? つーか、乙女心どこに関係してんだ」


 追いかけることを早々に諦めるチカ。

 シュッシュッシュ。列車は戻ってきた。


「あ、戻ってきちゃいました。ただいまですチカさんっ」

「ずいぶん早いお戻りだな」


 線路はループしていたらしい。


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