第36話 追想の人造遺跡 ホムンクルス
古代文明が生み出した遺物スフィア、それは今を生きる人々にとって超便利アイテムとして重宝されていた。飛空艇という大型のものから、消しゴムのような小さなものまで、その形や大きさは様々だ。だが大抵は、厳重な防護を固めた遺跡の中にそれは眠っている。
しかし、そんな場所に眠っているスフィアを、遺跡から発掘して生計を立てる者達がいた。
これはそんな者達、三人のトレジャーハンターの過去の物語であった。
――人造遺跡 ホムンクルス
抜き足、差し足、忍び足。
研究遺跡ラボラトリーを抜け出した子供たちは、現在併設する人造遺跡ホムンクルス内を移動中だった。+一名の人数を増やして。
「脱走だってー。自ら脱走―。おもしろいねー」
ケイクという名の少年は、文通用の通気口からやってきて何故だか今現在、脱走中の一団に加わっていた。
「笑ってないで静かにせんかっ、雰囲気的にこいつが例の手紙人間なのは分かるけどさあ、レジーナぁ、こんなのくっついて来て大丈夫なの?」
叱って、困惑して、大いに不安になってと、忙しいミリはレジーナに尋ねる。
「だ、大丈夫だと思うよ。悪い人じゃなさそうだし、前の文通でも、この遺跡の機械の動かし方とか、内部構造とか教えてくれてたし」
「あー、許可がないと勝手に触ったり知ったりできない機械のやつ。それは興味あるけど……ってか、何で、そんな事知ってるわけ、こいつが。怪しい、めっちゃ、怪しい……」
内部にいる自分たちが知らないことを、外の人間が知っている。ミリは大いに怪しんだ。
「あははー、怪しまれてるー」
ケイクはまったく、気にしてないようだったが。
他の子供達と会話しているらしいポロンが、喧嘩でも仲裁しているのか、タイミング抜群に「人を簡単に疑ったら、めっ、だよ」と発言していた。
「永久福笑い人間はともかく、ちょっと静かすぎんじゃない? 見張りとか全然いないし、さっきの部屋だって、慌ててどっか行ったみたいに散らかってて、もぬけの殻だったし……」
と、ミリは話題を変えて不審そうに辺りを見回す。
「え、ミリさっきの部屋入って来ちゃったの!? 外で待っててって言ったのに」
「入口付近だけだけど。何で、この福笑いはよくてうち等は駄目なのさ」
「そっか、じゃあ中の方は見てないんだね」
レジーナはものすごく、ほっとしたようだ。
「何すんごいほっとしてんの、意味深な事言わないでよ、何かすごい気になんじゃん」
レジーナはミリの言葉に取り合わない。
彼女が思い出すのは、つい先ほど訪れた部屋の事。
『カプセルに子供達が……、やっぱり、私の思った通りだったんだ』
『この液体、生命維持用のじゃなくて……あくまで腐敗防止とかそういうやつだねー』
部屋の中にならんだ、無数のカプセルの中にはレジーナ達……自分たちと同じ 顔をした子供たちがぷかぷか浮かんでいた。
そして、カプセル表面には文字の掘られたプレートが、一人ずつ必ずついている。
『ここに書いてある文字……。これ、皆には秘密にしてくれないかな。あなたの依頼主さんには話してもいいけど』
レジーナはそれを読んで、そうケイクにお願いした。
『うん、おっけー。ボクもお願いされたこと以外は無理にやろうとは思わないしねー」
ケイクは了承する。
『もしかなうなら、この事がずっと皆知らされませんように』
そしてレジーナは部屋の秘密に、鍵をかけて皆と合流したのだった。
しばらく、子供たちがわいわい脱走していると遺跡内に警報が鳴り響いた。そしてアナウンスがかかる。
『緊急事態発生、緊急事態発生。無視できない遺跡の損傷に伴い、当遺跡はこれより機密保持のため300秒を持って自爆します。遺跡内の方たちは、最寄りのエレベーターシャフトへ……』
「あー、思ったより別動隊の侵入が早かったなー」
ケイクがそんなことを呟いたが、アナウンスの声にかき消されて子供達には聞こえなかった。
「ど、どうすんのさ、これ! 何かやばくない」
「ここを出よう、皆! 研究員さんたちなら大丈夫だから」
「レジーナ!? 何急にやる気になってんの? 脱走ばんざいになったの? え、どういう事?」
かつてない事態に慌てだすミリと子供達は、かつてない強い口調で話すレジーナに戸惑う。
「そーだねー。五分じゃ、引き返して戻ってくる時間は無いしねー、先に進もっかー。そこのポロンちゃんも、心配しなくて大丈夫だからねー」
そう言いながら警報の鳴り響く遺跡を進むことに決まった。
何が何やら分からないが、一時的脱走が永久的脱走になってしまったのは間違いがないようだった。
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