69話 雷と戦闘狂

 とある無人島。

 一つの大きな山に森が広がり、きれいな砂浜と断崖絶壁で囲まれた小さい島。

 森の中に不自然に出来上がっている草原には人間の死体が転がっており、生々しい戦闘の爪痕が残されていた。


 そのような島の上空では複数の大きな爆発が起き、小さい無数の光のが宙を舞いうち一つの上に立つ青年が居た。


「……つ、つまんないなぁ」


 四方八方から襲いかかる銃弾の雨を、まるであしらうように全て光の球体から発せられた閃光で撃ち落とした。

 彼は大きなため息を付きこう叫ぶ。


「シェリー! き、君はやる気があるのかな!?」


 彼の直上に突然、数百個に及ぶ数の爆弾が生成され降り注ぎ始めた。

 慌てる様子もなく、光の玉の一つが薄く傘のように広がり落下してくる爆発物から身を守る。

 面白くなさそうな表情を浮かべ、周囲を見渡していく。


「そ、そっちがその気なら……ぼ、僕にも考えがあるんだからね?」


 攻撃を安々と防がれる姿を見て嫌そうな表情を浮かべ、浮遊しているセントリーガンの一つに座っているシェリーの姿があった。

 距離を取って闇夜に姿を隠し、立ち回っているものの有効打を与えられずにいた。

 始めから分かっていた事とはいえ、こうも通用しないとなると逃げ出してしまいたくなる。


「大分遠くに飛んだとはいえ、放っとくとその後が怖いし面倒だし」


 ナイフで空間に小さい切れ込みを入れ、別の空間と繋げる。

 ゆっくりと手を翳し次の兵器を生成していく。


「予定通り適当に相手でも……」


 しかし異変はすぐに訪れた。

 生成した兵器が片っ端から光に射抜かれ、爆散していく攻撃が広がり彼女は瞬時に立ち上がり、セントリーガンから飛び降り、他の場所に彼を取り囲むようにして配置している兵器の一斉射を始めるが。

 次の瞬間、空間の裂け目から無数の光が通り抜け、拡散。彼女の周辺に無数にあった兵器類全てを破壊していった。


「あぁ、もう! こっちのやり口を熟知してるヤツとやるの本当に!!!!」


 彼は彼女が空間を繋ぎ、武器を生成。本人が何処に居るかわかりにくい状況を作っていた事を承知の上であった。

 その上でフリな戦いを敢えて受けていた。だが、それも彼女が本気で戦う。この一点があって成立していた。

 故に、本気で戦ってくれないのであれば彼は。


「……そ、そこだね? そこに居るんだね。シェリー!」


 自分の土俵へと彼女を引きずり下ろそう。そう考えた。

 まず攻撃を受けつつ攻撃の周期を確認し目星をつける。次に、目星が付いた箇所を全てに1撃づつビームのような物を射出する。何かに当たれば重点的に攻撃。そして、あるであろう空間の裂け目を狙って拡散させる。更に分散したモノをそれぞれ拡散させていた。


 別の場所で光があれば成功し、その場所にシェリーがいる。当たりがなければ、同じ手順で成功するまで繰り返すだけ。本人が移動しながら生成するなら彼もまた移動しながら探すだけ。接近されたくない彼女を"罠を張りながら"追い回すだけの話だ。

 幾ら偽装しようとも、幾ら攻撃パターンを変えようとも彼は武器の生成タイミング、制限はよく知っている。


「ほ、本気にならないとッ!」


 狂一は跳んで別の光の玉に乗り移ると更跳び移っていき、空間の裂け目を通ったと思われる光の示す方へと高速で向かっていく。

 同時に四方八方から行われる銃撃を避け、発射されるミサイルを撃ち落とし、一つの大きな球体を造り出していた。


「死んじゃうよ!!!」


「まずっ!?」


 彼女の目に大きな光の球体が写り、足場に1枚、盾にするように数十枚の合金の鉄板を出現させ右手にナイフを生成する。

 数瞬後、大きな光の玉が大きな1本の光線となり閃光を撒き散らしながらシェリーに迫っていく。

 鉄板に接触するが瞬時に穿ち、次々と貫通していく。


「……奥の手使うしか無いか」


 空間の裂け目を作って通り抜けて逃げてもいい。だが、同じことの繰り返しだ。狂弌を空間の裂け目を使って飛ばす事も難しい。読まれる上、"避けられる"のだ。

 相性が悪い。寄られれば勝ち目は更に薄くなる。シェリーの使う手は大方知られている。逃げるにしても不可能。


 彼女はナイフを振り下ろし、空間の裂け目を作り出し最後の鉄板を突き抜け吸い寄せられるようにして裂け目を通っていく。

 繋がっていた先は無人島の直上であり、周囲を明るく照らすほどの閃光と共に轟音と地鳴りを引き起こしつつ着弾した。


 シェリーは後ろに大きく飛ぶと周囲に光の球体が眼球に映り、遅れて狂弌の姿が視界に入る。

 だが、使う手を大方知っているのは、何も彼だけではない。


「お、王手だよ。シェリー!」


「それはどうかしらね!」


 シェリーの右目から一筋の血涙が流れ、照射された複数の光は彼女を覆うようにして球体を象るようにしてに裂けた。

 だが、彼はそのような操作はしていなかった。ましてや、殺すつもりで行った攻撃を防がれていたのだ。


「ふせ、がれた……!!!!」


 狂弌は喜びに口元が緩みながら、次の攻撃と防衛の準備を行っていく。

 次の瞬間、嫌な予感がし足を止めると、鼻先を目で追えない速さで何かが通過し無人島に着弾した。


「っち、勘が相変わらずいい事で!」


 傘になるように光の玉を広げ、上空からの攻撃を防ぎ距離を取ろうとする彼女を捉え静かに笑う。

 これまでに使った事のない武器。これまでに使ったことのない防壁。

 "現代に存在し得ない"装備。


「や、やっと、本気……がちょっと見れた、かな。ぼ、ぼくもさ」


 鼻血が流れ、球体の1つが彼の右腕にまとわりつくように形状を変化させていく。


「あ、新しいの、見せないとね?」 


 そして、まるで獣のような腕へと変化し迫る銃弾を薙ぎ払ってみせる。


「……もう、昔のノリをあたしに押し付けんなっての! こんの美矢のお気に入りが!」



 戦闘開始から遡ること34時間前。

 航空のカフェテリアの窓際の席には小説を片手にコーヒーを飲むチクタクの姿があった。

 向かいの席には小野々瀬がテーブルに項垂れ、唸り声をあげていた。


「はぁ、君はもう少し朝に強くなれないのかい?」


「無理言うなや。一体誰が護衛しとると思っとるんや? んー? 言ってみー?」


「うっ、痛い所をついてくるね」

 

「護衛の人数増やして来れたらなー? 僕も楽なんやけどなー?」


 チラッ、チラッと彼の方を見て、増やせ。増やせ。と軽く圧をかけるがダメ。と一蹴されてしまう。


「そんな僕が取られるのが嫌なん?」


 棒付きキャンディを取り出すと、包み紙を取り口に咥える。


「嫌だね。女性であってもだ。で、話は五郎の事に戻るんだけども、得てる情報からすると多分大惨事になる一歩手前って所なんだよね」


「仕事とは関係ないっちゅーとったけど、助けるん?」


「勿論。古い友人なのもあるけど、ソレ以上に隠れ蓑になるからね」


「疑われへんのは確かに魅力的やけど、見合うだけのリターンあるんか?」


「あるよ。私には、ね」


「はぁー……ちゅーっとあれやんな? 僕はまーたしわ寄せかー。やってられんで、ほーんまやってられんわ~♪」


 まーまーと宥め、サンドイッチを一口食べるとこう続ける。


「第一世代の子も一緒だから、君にとっても不利益ではないはずだよ」


「今は興味ないっちゅーねん。会ってどないせいと? 昔話に花咲かせろっちゅー分けにもいかんやろ? 何処まで弄くられたん? ん~? 言ってみ? とか聞いたら地雷原に核爆弾落とすようなもんやで」


「核の方が威力高いからね? おっほん、まぁ会って損はないと思う。それと一つだけ守って欲しい事があるんだ。聞いてくれるかい?」


「なんや? って、どうせ面倒くさい事なんやろ。やったるさかいはよ言えや」


 彼女は投げやりな口調なものの、表情や態度に変動はなかった。


「そう面倒な事でもないよ。日本だし。だから、ね。五郎が居る前で」


━━━━絶対に、人を殺してほしくはないんだ。



 現在、商店街の裏手。

 全力で走り抜ける五郎の姿があった。

 作戦は簡単。五郎が囮となりつつ居るであろうもう一人の敵を探し出す。

 ただそれだけだった。


「大雑把すぎる!!!!」


 思わず叫んでしまっていた。

 どうやって探し出せと言うのだと、頭を抱えたい状態であった。オーラ系のしかも相手に付与するタイプとはこれまで戦った事がない。つまりは情報が皆無だ。

 それに加え潜伏場所の目星もないが、周囲には"死体が"まばらに転がっていた。


 情報統制の一貫で処理したのだろうが、徹底しすぎている。まさか、逃げている最中も同じことやってないだとうな。と考えつつ行く先が見えないまま足を動かし続ける。


「まさかとは思うが囮ってのも」


 重しを外す体の良い言い訳にされたのかもしれない。

 そう考えていると、上空に電で出来たネットのようなモノが広く展開された。直後、ネットに何かが接触し激しく電撃が迸る。そして、数秒の間隔を置いて一つの銃声が五郎の耳に届いた。


「……囮ってのは本当っぽいか」


 囮となることはいい。彼らには悪いが足枷も同時に外す事にもなる。

 死体が転がっている方に迎えば目標が居るかもしれない。そう前向きに思考し、十字路に差し掛かった所で"生きている人間"が急に視界に入る。


 そして、その人間は日本人ではなく、外国人であり懐にはホルスターに収まっている拳銃のグリップがちらりと見えた。


「まじ、かよ!?」


 何処かに隠れている。そう考えていたが案外と堂々としていた事にびっくりしつつも、スモークグレネードを放り投げすかさず身を隠す。


「運がいいんだか、悪いんだか」


 見つけたはいいものの真正面からやりあった所で、勝てる可能性は低いと考えて差し支えないだろう。

 ともなればまずは仕込みからである。

 コートのポケットから一挺の拳銃を握った。


「……ん?」


 何かの閃光が上空で発せられ思わず、吸い寄せられるように視線を向けてしまっていた。


「なんだ、あれ」


 上空、1分前。

 無防備に移動する五郎を狙撃した銃弾が防がれ、移動を開始するバードの姿があった。


「秀一さん達と戦ってるのは、やっぱり21位の人か。不味いな。昔話から考えてこのまま空を取ってたら」


 半信半疑だった敵の増援の人物に確信が持て、援護を一旦中断し迂回して地上に降りようとした。

ちょうどその時、雷を迸らせながら急上昇してくる物体が複数視界に入り、うち4つが彼より高く打ち上がってきたのだ。


 何かの攻撃か? そう考えた矢先の出来事であった。

 打ち上がったソレは急停止すると、幾つかの細い線となって広がり始めていた。


「不味い」


 呟きつつ離脱を試みようとするも、線は幾つにも分岐し線と線が繋がっていき、まるで彼を閉じ込める檻のような形状へと変化していく。

 お次は眩いばかりの光を撒き散らし始める。


「くそっ!」


 銃撃をしこじ開けるようとするが意味はなく、グレネードを投げるも此方もなんの意味も成さない。


「閉じ込められ━━━━」


 急に吸い込まれるような、吹き付けられるような感覚を感じ、振り向くと視認出来るほどの風で出来た球体が瞳に映った。


 東國会総本山前、同時刻。

 風を破裂させた衝撃音によってわざと情報を伝え終え、移動を開始しようとしていた。が、彩乃は急に足を止めると右手を天高く存在する雷で出来た檻に向けかざしていた。


「彩乃ちゃーん? 移動いなきゃっしょー?」


「要請、"大事な人"の」


 翳していた手を握りしめると、炸裂音が発生し数瞬後追うようにして周囲一帯に衝撃波が到達した。


「……娘、何をした」


 檻は崩壊を始め、複数の細い白い煙が上がっていた。


「使っただけ、能力を。尤も知らないけど、誰が居たかは。まぁ、敵なんじゃない? 多分」


「曖昧だな。もし味方だったらどうする気だ?」


「戒斗の敵はうちの敵、そっちの味方だろうが協力者だろうが関係ない」


 彼女の目は曇りもなく相棒を信用している。そういった目であった。


「なるほどな。まぁ……今回は外敵が一緒だった。というだけで味方ではない故な」


「そう云う事。じゃぁ行こうか」


「えっ!? 彩乃ちゃん味方じゃなかったの!?」


 同時刻、商店街。

 衝撃波が到達し、戒斗の口元が笑っていた。


「さっすが彩乃。まずは、一人目。なぁ、秀一?」


 雷を巧みに使い飛来するコインや銃撃を防ぎ、迫りくる土壁を破壊しつつ戒斗は話を続ける。


「どうする気だ? 俺を殺せねぇ倒せねぇまともに止めれねぇ。それはてめぇが1"以前のままなら"過剰投与した所で変わらねぇし、部下を使った所で焼け石に油だ」


 思わず、水だ。とツッコミを入れようとするが秀一はいい留まり首を横に降った。

 ペースに飲まれるなと自分に言い聞かせ、思考を巡らせる。

 有効打を与えようにも、再生能力が厄介すぎる。殺せるだけの火力もない。

 身動きを止めようにも手段がない。変幻自在の雷で全ての拘束を破壊される。

 故に戒斗の言う通り、このまま戦った所で端から削られてしまうだけだ。


 一旦引こうにも小野々瀬側の2人と連動する必要もある。だが、そうなると逆に戒斗は彼女と合流して十中八九狩りに掛かってくる。シェリーなら兎も角、あの2人は何の躊躇いもないだろう。

 彼は店の壁から出現させた土壁の上に立ち、大きく深呼吸をする。

 また覚悟をしなければいけない時が迫っていると。


「秀一さん。わたくし達は大丈夫ですわ」


 彼の考えを察しストーンツリーは声をかけ、リングは付け加えるようにしてこういった。


「そうだぎゃ、どうせ元は死んただろう身。それが遅れただけ」


「ストーンツリー……レール……」


「狂弌さんの無茶はとても楽しかったですわ。と、お伝えくださいまし」


「その辺の生ゴミが此処まで来たんだぎゃ。いい夢を見たいい土産話が出来た。十分すぎるほどに」


「行ってくださいまし!」「行け! 副隊長!」


 2人は一斉に戒斗へと攻撃をし、足止めを始める。


「……ッ! すまん、狂弌の我儘わがままで!」


 そう言い残すと秀一は自身の足元から新たに土壁を生成すると、飛び上がり戦線を離脱する。


「我儘? 何をおっしゃますの。わたくし達の総意ですのに」


 五郎達と猪上の接敵は不幸なめぐり合わせだろう事は分かって居た。

 正義があるとするならば、五郎達である事も承知の上であった。だが、それでも。


「あらま。この動きって事は、やろーは俺への対抗手段は未だ持ち合わせてねぇって分けね。警戒して損したじゃねーか」


 雷で剣を作り出し、左手で握ると距離を取っていたリングに急接近していく。

 迎撃しようと硬貨が襲いかかるが、その全てを顔色一つ変えずに防いでいく。


「やらせませんわ!」


 盾になるように剣を幾層にも組み上げ、壁のようなものを作り出す。


「悪いがな」


 右腕から雷の刃が伸び、振るわれると剣の壁を一刀両断。そして、破壊した壁を足場に跳び懐に飛び込混んだ。

 直後、一閃がリングを襲い声を挙げる間もなくその場に倒れた。


「もう容赦はしねぇからな? 恨みたかったらどうぞ勝手にしてくれや」


「レーッ、……だとしても!!!」


 彼女は走って移動し投げ飛ばされる雷撃を避けていく。同時に地面から剣を生やして彼を貫き動きを鈍らせていた。

 有効打にならぬとも、1分でも1秒でも。彼女はそう考え時間稼ぎを行っていく。


「あぁそうそう」


 急に足に違和感が生じ、違和感の正体が分からぬまま雷撃が彼女の身体を駆け抜けていった。


「さっき俺を拘束した時、俺から見てお前らの動きが分からなかったように」


 身体が傾き掠れる視界の中、ストーンツリーの瞳に先程彼を拘束していたはずの瓦礫が映る。


「お前らからも俺の"し掛け"が分からない。秀一はそれを分かっていた。分かっていたからこそ、自分を囮にし過剰投与してまで使わせようとしていた。拘束した時に注意してたはずだぜ。近づくなってよ」


 彼女は音を立てて倒れ込んだ。


「まぁ誘導するように攻撃したんだがな。さて、つれない秀一を追いかけないとな」


 一方。

 小野々瀬側は再び戦闘が止まっていた。


「そう言えば、逃げるな。と言ったが、戦略的撤退とでも呼べば敵前逃亡にはならんのだろうな?」


「時と場合によるんとちゃうか? 少なくとも今回は僕を止めんと不利になるのはそっちやで」


「だろうな。言ってみただけだ。で、お前はなぜ攻めに転じない?」


「どうしてやと思う? また"相棒"の救援待ちだったりしてな?」


 悠長に会話を弾ませては居るものの、両者はお互いの動きを警戒し視線を一切外してはいなかった。

 故に一名フリーとなる人物が生まれるが。


「必要はなかろう? 重しは既に外している」


「せやけど、万が一っちゅー事もあるやろ?」


 言葉を紡ぎ、同時にノールックで銃口をもう一人の人物に向けトリガーを引く。

 彼は手に持っている棒で銃弾を弾き数歩後ずさりをし距離を取る。


「これで10発」


 話の間攻撃を匂わせ銃撃を行わせて防ぐ。という行為を繰り返していた。

 悠長に構えてくるならば、事前に少しでも削って隙を作る。そういう腹づもりであった。

 弾切れとなりリロードともなれば気休め程度には有利に事を進められる。


「慎重なのだな。まぁあの御仁の護衛ともあれば慎重に動くのも頷ける」


「せやろ? ま、大胆にも行かなきゃいかん所が辛い所なんやけどな」 


「今回とかな。全くもってお前も大変だな。無茶を強いられる」


 再び一つの銃声が鳴り響き渡る。


「お互い様やろ? せやけど、満更でもない。……ちまちま削ろうってのは分かるんやけど、ちまちま過ぎへんか?」


「コレくらいがいい塩梅だ。急いで我々に損はあるが得はない」


「時間稼ぎ込みやんな。ま、律儀につきおうとる僕も僕って所なんやけども、もうええやろ」


 ベレッタを放り、こう続ける。


「あいだわ」


 姿勢を低くし、低くそして鋭く前へと跳んだ。


「スネーク!!!」


 彼の援護をするためリングも数瞬遅れて走り出す。


「っく!」


 咄嗟にチェーンで迎撃をしようとするも、淡く光るウィンチェスターの銃身で全てを逸らされてしまう。

 距離を取ろうにも圧倒的に足の速さは彼女の方が上。

 銃声と共に撃ち出された銃弾は、張られた防壁を複数枚貫通した後地面へと落下した。


「柔軟な対応は流石やな」


 振り下ろされたチェーンを避けつつ、コッキングして後退するオロチに更に近づいていく。

 彼は自身の身を守る行動を、選択を取らなかった。それ所かカウンターを入れるようにして攻撃してきていたのだ。

 つまり、仲間がフォローを入れてくれると信じての切り返しだったのだ。


「やはり逃げ切れんな、ならば!」


 わざと大振りに横に薙って跳んで避けた彼女に向けて、別のチェーンの鉾を彼女に合わせて突いた。

 当然安々と銃身で軌道を逸らされるがライフルを絡め取り、2本ほど使用して地面へと突き刺し身体を固定する。


「おっと、得物が狙いか!」


 彼女は着地すると思いっきり引っ張った。すると、彼の身体が少し浮きピンッとチェーンが張る

 更に金属が擦れる悲鳴と共に、複数のひび割れが発生していた。


「ぐっ、はっ……!?」


「おんや、思ったより硬いやね」


 彼は力負けする事は始めから分かりきっていた。事前に地面に差したのはこのためだ。

 近づく足音に小野々瀬は視線を送り、一瞬の隙が生まれる。


 狂弌と同レベルの反射神経に戦闘能力を有し、範囲内に入れば問答無用で強制的に無力化される能力。

 まともにやりあって勝てる相手ではない。始めから百も承知であった。


 彼はその隙を見逃さず、すかさず非常時の防衛に残していたチェーンを一斉に彼女に向けて突いた。


「いいタイミングやけど」


 まずは体を捻り片足を振り上げ、薙られた棒を足裏で受け止め踏みつけた。

 棒は音を立ててアスファルトへと叩きつけられ、リングの体勢が前のめりに崩れる。

 そして彼の服を掴み、ライフルを思いっきり引っ張りながら掴んだソレを肉壁にするため前方へと放るようにして投げた。


「なっ!?」


 急には攻撃を止める事はできず、突かれた鉾達は肉壁の身体を貫いた。

 得物を拘束していたチェーンもひび割れた箇所が砕け散り、自由を取り戻す。

 同時攻撃のはずだった。身動きを取りづらくしていたはずだった。無理矢理隙も作っていた。だが。


「やはり手数が……」


 物言わぬ肉の塊が滴る血と共に地へと伏せ、ライフルの銃口がオロチへと向けられる。


「全然足りぬか」


 乾いた銃声が静かな商店街に鳴り響き、放たれた銃弾は一人の能力者の命を散らしていた。


「いい線はいってたで」


 利用されると踏んで使用を本来の目的である防衛のみに絞ったピンポイントバリアに、他者によるオーラ系能力で異様に上がった身体能力。

 チェーンを駆使しての変幻自在な中距離による攻撃と、支援。

 小野々瀬の電能力と戦闘能力を理解し対抗出来る人員を、能力の穴を突いた人員適切に当てていた。


 棒付きキャンディーを何処からともなく取り出し、袋紙を開けると口に咥える。


「もしも、身体を弄くり回されて似た状態だったなら、勝利の女神とやらが微笑んだのはあんさんらーだったかもしれんで」

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