第36話:帰還

「あ〜疲れた疲れた。」

「やっと戻ってこれた。」

ミハエルさんとホーウェンが武器屋の扉を開けるなり開口一番そう言った。

実際筋肉と股関節が痛む。

「若いのにだらしない。」

アナハイムさんは見た目年寄りなのに意外と背筋が伸びてしっかりしている。

僕たちは、夜も遅いので魔王の間から一旦戻ってきた。

「お帰りなさいませご主人とその後一行様と、変態二人。」

クラリスさんの目が二人に向けられる時だけ薄目で様子がオカシイ。

「特別枠扱い、ありがとう!」

「クランの品位が落ちる一方・・・。脱ない!」

二人が一眼を気にせず脱ごうとしたのでシャナンさんが止めた。

「1日の終わりは筋肉のケアが必須」

店の中でそれは困ります。

「2階に行きましょう!2階に!」

僕は二人を2階の階段へ押しやった。

「主人。店の売り上げ報告は後程、ご報告します。」

「ありがとう。ところで、カレンちゃんは?」

「上で在庫整理をしているようなので、叩き起こして貰えますか?」

「叩き起こす?」

2階に上がって分かったがカレンちゃんはソファーで寝ていた。

こじんまりと寝ていたら、少しは可愛いと思えるかもしれない。

でも大口を開けてよだれを垂らし大股を開いていた。

「豪快ねぇ。」

「酔っぱらったオヤジの寝相に似ている。」

疲れてたのか、仕事を途中で投げ出したか・・・

裸の二人に囲まれて寝ているカレンちゃんは如何にも獣に襲われる直前にも見えた。

彼女のだらしない姿をこれ以上他の人に見られるのも嫌だったので毛布を掛けつつすぐに起こした。

「カレンちゃんカレンちゃん。」

「うん・・・あふっ・・・あれ?」

大きなあくびをすると、まわりを見渡し

「あれ?帰ってきたんだ。」

「帰って来たんだじゃ、ありませんよ。このぐうたら娘は・・・」

2階に上がって来たクラリスさんがそうそうにカレンちゃんを叱責した。

「小言を言いに来たわけ?」

「ご主人に用があったからです!」

そういうとクラリスさんが、発注書類のサインを求めた。

「ん・・・これちょっと多いい気がするんだけど。」

「ええ、最近の国税調査からロッドと盾の数を減らして、剣の比率をあげた方が店の売り上げには良いかと。実際、過去の帳簿と昨日今日の売り上げを参照させて戴きました。量を多めに発注する事で、発注元から値引きを引き出す事も可能かと思われますので、是非ご検討いただけませんでしょうか?」

「なるほど。いいとおもうよ。発注元へは問い合わせてみるよ。」

こういった助言を貰う事は中々無いので、クラリスさんが経営のノウハウを知っているのはとても助かる。

「魔法使いの需要が減ってるのは寂しいのぉ。」

アナハイムさんは椅子にゆっくりと腰掛けながら残念がった。

「そうとも言い切れないがな。」

「そりゃ、なんでまた?」

ミハエルさん装備と服を脱ぎながら言った。

「今は詳しくは言えない。」

ドゥベルさんは何か核心が在るようにはっきりと言った。

「魔法使いの利点なんて遠方攻撃と、堅い敵へのダメージぐらいだけど、その2点に関しては創造主(運営側)が決めることだもんなぁ。」

「てことは、また上(政府)からの規制か?」

「まぁそうかもな。」

「それは、この爺のライバルが増えるでは無いかの!?」

「さっき『寂しい』言うてたでしょう?」

「需要が減っているのに、人ばっかり増えてもしょうが無いよ。」

ミランさんがクラリスさんが手渡したお茶を受け取った。

クラリスさんは経営もさることながら気が利く。

「ドゥベルが言うって事は多分、僕たちの世界でのゲームの運営ルールが政府からのお達しで変わるって事だよね。」

「それ以上は深掘りするな。俺の立場が危うくなる。秘密保持だ。」

「了解。」

「ドゥベルが降臨(ログイン)禁止になってクランを抜ける事になっても困るわよ。程々にしておきましょう。」

「お前らが話を広げすぎなんだ。」

正直僕には創始たる最上世界(現実世界)のことは全く解らない。

僕たちを作った人達の世界でも色々ルールがあって大変だなーと思うぐらいしか出来ないけど、後々この事が僕たちの世界に大きな変更を余技されると事になるとは思いもよらなかった。

クラリスさんは全員にお茶を配り終えると、一礼をして階下へ降りようとした。

「クラリスさんもお疲れだよね?僕の方で店閉めするから、ここでゆっくりとお茶しなよ。」

「いえ、そんなにお気遣いなさらずに。・・・」

そう言った目がある方向に向いて暫く止まった。

「いえ、やっぱりお願いいたします。そちらの寝起き娘も十分休憩を取ったでしょうから手伝って来なさい!」

「だから、なんであなたが命令するのよ。」

カレンちゃんは頭をかきながら仕事を渋った。

「あなたは今日、少しも働いて居ないですよね?ご主人のご友人とは言え甘え過ぎなのでは?」

クラリスさんが眉間に皺を寄せて、静かに怒鳴りたいのを我慢しているのが解る。

「働かずに、利益だけ享受するような人はろくな目に遭いませんよ。」

「ろくな目に遭う前に、あなたにどうにかされそうだわ。」

カレンちゃんは諦めたようにゆっくりと立ち上がった。

それに多分クラリスさんの気遣いだと思う。

だるそうにカレンちゃんは僕の後をついてくる。

階下に降りながら、ふと思った事を彼女に聞いた。

「そういえばカレンちゃんは実家には連絡したの?」

戻らないのかとは聞かなかった。

カレンちゃんの母親は躾に厳しく、品行方正な人だ。

彼女が何かしでかしてはちょくちょく怒られていた。

僕も時々巻き込まれては、怒られた事もある。

だからカレンちゃんは小言を言われるのがイヤでお金稼ぎが出来る年齢になってすぐ、一人暮らしを始めた経緯がある。

父親はカレンちゃんが若い頃に離婚していた。

冒険者Aとの結婚式の時も彼女の母親も来ており、一応ご挨拶に伺ったけど、あんまり話さなかった。

あの時は自分の精神状態もどん底だったから、逆にそれで良かったと思っていた。

「ん〜。」

言いにくそうに口を開いた。

「実はまだ。離婚した話もしていないのよね。」

マジですか?

「面倒臭いからしてないんだけど、そのうち噂話で耳に入ると思う。」

「その方が逆に面倒になると思うんだけど・・・」

「ジョナサンも分かっていると思うけど、どうせあのママに小言責めにされるのが落ちじゃん。」

その様子は想像が付く。

でもそれは、小さかった僕たちにちゃんと理解をしてもらう為の親としての説明だった。

ただ、全体的に話が長い。

「それに、なんか今日はママの話を少しでもすると現れそうで・・・」

「そんな事あるわけ・・・」

「ジョナサ〜〜〜〜ン!いる〜〜〜〜!?」

閉店看板を掛けようとした店の入り口を少し開けたところで、ドアが外側へ引っ張られた。

開いたドアの先にその人が居た。

「あるわけ、あったわね。」

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