第27話:闇の塊

「デス・ペナルティ喰らうぞ!」

悲鳴撒き散らしながら冒険者さん達のみならず、僕たちNPCも慌てて、観覧会場から逃げ出した。

何かあったとしても冒険者さん達なら、再び同じ状態でこの世界に戻ることはできるかもしれない。

でも僕たちNPCはあの闇に飲み込まれたら一体どうなるのか?

「おい!ぼやぼやするな!」

ホーウェンさんが大きくなる闇に魅入られていた僕に呼びかけてくれた。

「行こう!」

ローリアさんも背中を押して僕がここから離れる様に促す。

彼女のもう片方の手はカレンちゃんとつながっている。

「もう!一人で逃げれるわよ。」

カレンちゃんは相手がイケメン男性じゃ無いのが残念なのだろう。

反射的とはいえそんなに、嫌がらなくてもいいと思うんだけど・・・

「そっか、じゃぁヒールは脱いで、コレに履き替えて!」

ローリアさんは少し寂しそうにしながら予備の靴を出した。

カレンちゃんは急いでハイヒールの靴を脱いで、ローリアさんの靴に履き替えた。

「走って!」

そういうと僕たちは拡大する闇の領域から、急いで走って逃げた。

「もう!あの靴気に入ってたのに!」

脱いだ靴を拾う余裕はなかったので愚痴った。

「靴と自分とどっちが大事なの!!」

おっしゃるとおりですローリアさん。

アナハイムさんも老人の見た目によらず、軽快に障害物を乗り越えて走っている。

目の見えない、ミハエルさんはキョウコさんに手を引っ張ってもらいながら走っている。

「ワープアイテム!使えないのか?」

目が見えないけど、足取りしっかりしている。

「ダメ!何かが干渉しているみたい。」

キョウコさんがミハエルさんを引っ張る手と反対の右手でワープアイテムを出したが、ただの石になっている様だった。

「ん〜なんだろうね〜」

ヤヒスさんが逃げるホーウェンさんの脇に抱えられながら、魔法を唱え闇に向かって炎を撃ってみる。

が闇にぶつかる直前で粒子になって消えていった。

「魔法も全くダメ。あれ触れたら復活できなさそう。」

「マジ、後ろみる余裕なんてないんだけど・・・そろそろ自分で走れよ!」

「ホーさん、もう少し分析したい・・・」

「だー!!我がままちゃんめ!」

「4大精霊魔法全部ダメ。光闇系も全部ダメ。」

鏡で後ろを確認しながらミランさんも走っている。

同時に、魔法アイテムを撒き散らして走っていた。

その魔法アイテムも発動してもそのまま闇に吸われた。

「それ以上は・・・辞めとくんじゃ!別の・・・影響が出るかもしれん」

アナハイムさんは片手で魔法使いのトレードマークの帽子を抑えながら喋るのも辛そうな程息が上がっていた。

法務局一帯、さっき僕たちのいた場所も真っ黒くなりもう見えない。

「魔法がダメならちょっとあんた自慢の筋肉でアレとめてよ!」

キョウコさんが手を引っ張っているミハエルさんに言った。

「目が見えない俺にアレっていってもなぁ・・・やってみるか?」

「ダメダメダメ!冗談よ冗談!」

振り返ったら僕たちの居た会場からやっと逃げだしたNPCも、ここでログインしてきた冒険者さんも一緒に粒子化されている。

「見ちゃダメッ!」

ローリアさんが言ってくれたが遅かった。

その光景は頭に焼き付いて恐怖が押し寄せた。

必死に足を動かしているけど、飲み込まれた時の恐怖を想像して足がすくみそうになる。

頑張って意識を保ってローリアさんの歩速に合わせる。

でも一瞬、彼女の速度が落ちた。

一緒に走っていた一人が足を引っ掛けて倒れた!

「カレンちゃん!」

僕はとっさにローリアさんの腕の支えを振りほどき、彼女に駆け寄る。

「ジョナサン!」

一瞬、ローリアさんの寂しそうな顔が見えた。

ローリアさんごめん!でも僕は・・・

カレンちゃんの元にすぐに駆け寄った。

「大丈夫?カレンちゃん?」

「っつう!」

僕の声には答えず、痛みを抑えてすぐに立ち上がろうとした。

僕は彼女の体を支え、腕を自分の肩に回して立ち上がる助けをした。

「ジョナサン・・・」

彼女らしくない上がった息で、弱々しく僕の名前を言う。

「急いで!」

ローリアさんもカレンちゃんの腕を抱えると、足の痛みに響いたようだ。

そして1歩前に歩こうとしたところでローリアさんとカレンちゃんの足が絡み、引きつられた僕も2人に続いて地面に倒れた。

「後ろ!!」

ホーウェンさんが叫んだ。

僕達が振り返るともう闇は目の前に迫っていた。

最初見た時よりその闇の拡大は加速していて、今から逃げても間に合わない場所まで来ていた。

闇の方から、前も感じた引き込まれるような感じが徐々に強くなっていった。

女性二人の髪がもうそっちの方に流れている。

ダメか・・・

僕もカレンちゃんも、きっと同じ気持ちになっていただろう。

でも一人、諦めていなかった。

ローリアさんは僕とカレンちゃんの上から覆いかぶさり、僕とカレンちゃンの手を取る。

「大丈夫!大丈夫だから!安心し・・・」

そんな声が聞こえたけど、そのまま僕たちの3人は吸い込まれる様に闇に飲み込まれた。

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