第16話:王座

謁見の間に入り、ローリアさんが無理なく付いて来れるようにゆっくりと、正面向いたまま歩く。

ローリアさんの横顔は、緊張して見れない。

まじまじと見るのもなんか恥ずかしい。

本当は少し見とれたかったけれど、正面にある玉座も目が離せなかった。

王が居ない王座。

普通に考えても、王がわざわざ僕達を待って待機している事は無い。

どのタイミングでやってくるか解らないので浮ついた気持ちではいられない。

この重厚感のある謁見の間も、僕の緊張感を上げてくれる。

入り口からなバレられたいくつもの柱は透き通ったいろいろな色の宝石がモザイク状にバランス良く埋め込まれていて、その柱が支えるアーチ型の天井はお碗を逆さにしたような形でその中に天使達が踊っている絵が書かれている。

外壁のステンドグラスは表の太陽光を受け色鮮やかに輝く。

そしてそれを刺繍とレースが施された赤い布が上部を覆う。

何処をとっても、ものすごく格式が高く品性を求められている場所だ。

僕が今まで見た事の無い、きらびやかな装飾があちらこちらにちりばめられている。

そして何よりも、王座までの絨毯の左右に並んでいる衛兵達。

キッチリとシワひとつない衣装を着こなし、乱れ無く綺麗に整列している、彼らの目には、

僕がどんな場違いなNPCなんだろうと思われていそうな気がする。

つまりそれだけ厳格ある場所。

そんな想像に負けそうなので、顔の向きを変えずに目端だけで部屋の様子を探っていた。

その中で、一緒に部屋に入って来た紋章官ウォーレンさんと同じ様で細部の刺繍が違う衣装の3人。

きっとあの人たちも紋章官さんだろう。

王の玉座の左下立っている、武官の様な男性がきっと総督。

その右に、老中的な感じな6人の白髪の男女。

そしてさらに、後ろから冒険者さんを含む僕たちの装備を預かっているメイドさんとボーイさんが6名、距離を置いて出口扉前にて何も言わずに待機している。

所有者限定レア武器は、直接武器を使用できないように飾り台に載せているなら、人にも持たせられるんだと初めて知った。

それもでも、あんまり距離は置けないらしい。

わざわざ、若いメイドさんとボーイさんに持たせて、ペナルティ受けるリスクを犯す必要はないんじゃないかと思ったけど、王と会うのにも武装解除は必要があった。

それもそうだ。

王様の首を狙っている冒険者さんもいるかもしれない。

この借りた衣装も、元々貸し出すつもりだったのだろう。

魔法全般封じられている布だって事は僕でも気がついた。

徹底的に、王様の御前で暴れられないようにする為の謁見手段の一つ。

そんな中、僕の緊張よそに冒険者さんは各々自由にしていた。

もともと冒険者さんは、王と同等かそれ以上の地位がある。

ランクが高ければ王様とどっちが偉いか分らない程だ。

シャナンさんとヤヒスさんそしてミランさんの若い3人はキョロキョロそわそわしている。

この場所に入るのは冒険者さんでも珍しいのかな?

「ほら、主役は前。」

王座に近づくと、ドゥベルさんと他の冒険者さんが道を開けて、前に出るように勧めてくれた。

ローリアさんもエスコートしていた手を離して笑顔で送り出してくれる。

僕はその冒険者さんと2歩ほど前の位置で足を止め、かかとを揃える。

2歩、それ以上離れると、緊張を通り越して不安が大きくなる。

そして少し晒し者にされる感じ。

だけど、色々と気を揉んでいる暇もなく事は進んだ。

「傾注!オーフェン・ベルツ三世の出御である!」

部屋に最初からいた紋章官が声をはり、改まって背筋を伸ばした。

左右の近衛兵は勿論、王座近辺にいる総督、老中及び、紋章官達も立ち上がり背を正した。

僕は片足で膝まづき、頭を下げる。

ちなみに冒険者さん達はさっき言った通り、王さまと対等な立場なので頭を下げる必要は無いので男性陣は仁王立ち。

だけどシャナンさんを除く女性陣はスカートの裾を上げ、お辞儀はしているような気配を感じた。

一人だけ布をバタバタしているのはシャナンさんだろう。

慌てて周りの人に合わせてようとしているのも気配で感じる。

僕は学校で学ばされた礼儀作法を、記憶絞り出すように思い出していた。

ゆっくりとした足音と、王座に腰掛けた布の擦る音が聞こえた。

「表をあげよ。」

王様の声のようだ。

ゆっくりと僕は顔を上げ、王の顔をおそるおそる覗いた。

白く整った髭が印象的だが、顔の方には対比的に皺がそんなに多くは見当たらない。

年齢は40代後半ではあるようだが、それ以上の年齢は検討が着かない。

ただ、美しい王冠と羽織り物、そしてどこからか溢れる威厳は王そのものだ。

「これから、オーフェン・ベルツ国家元首オーフェン・ベルツ3世が、お前たち直々に話がある。心して拝聴し、嘘偽り無く受け答えよ。」

続いて紋章官が形式張った威圧的な声を張る。

だけど、目の前の王様はハッフェルと言われた紋章官に静止するように、掌を向けた。

「固い事は良い、ハッフェル。それでは相手が萎縮して、本来聞きたい事が引き出せん。そなたも片膝をつかずにほれ、立ち上がれい。」

「はっ!」

僕は言われた通り、ゆっくりと立ち上がった。

立ち上がっている最中も僕のことをジッと見ている。

「主達が、魔王討伐隊のメンバーで、討伐を目撃したクランで間違いないな。」

「そうじゃ。」

アナハイムさんが答える。

「そして、そなたが魔王を倒したNPCジョナサン・グリーンリーフで間違いないな?」

「はい。・・・・・・そのようです。」

「そのようです。とは曖昧だな。なぜだ?」

「恥ずかしながら、あの時、私は泥酔してたようで、私が倒した相手が本当に魔王かという確信は持てておりません。」

気を使いながら喋っていてるつもりでも、宮廷言葉なんて全く知らない僕には少し砕けたいいまわしになってしまった。

「酔っぱらってか・・・ふむ。」

何か納得したようなため息が王様から聞こえた。

「それは冒険者Aに想い人を奪われた事に関係しているのか?」

「はい・・・はひっ?」

つい、何も考えずに肯定してしまったけど、なんで王様が僕、個人の事について知っているの!?

疑問符が出て変な返答になってしまった。

そして、そう言われて、改めてカレンちゃんが他の男に取られた事に影響された行動なんだって再認識させられた。

「ふっ、はははは。そんな顔をする必要はないぞ!グリーンリーフ!」

王様は笑いながら立ち上がった。

「ワシの趣味はな、お忍びで城下町に出向き市勢を知る事なのだ。」

王様がドヤ顔を僕に向けた。

「各国の王妃達との話題作りは大変でな。話題に事欠かないように、恋愛話『恋バナ』という情報も集めているのだよ。勿論それだけでは無いがな。」

「そういやぁ、半年ほど前にカルヒルブで居合わせたなよ?」

ドゥベルさんが聞いた。

ん?それは、武器屋の近所を歩いていたの?

そんな話は聞いた事なかったけど?

「おおっそうだその店だ。あの店の従業員の娘。それが冒険者Aのイベント報酬の婚約で、おぬしの思い人だったのであろう?」

「えっ、あっはい・・」

王様への返事は曖昧になったけど素直に答えてしまった。

もう忘れようと思っている事をさらに心をほじくり返された。

しかも何となくローリアさんにこの話を聞かれるのも嫌だ。

「おぬしの事は、他国の王妃並びに姫達と良い話題作りにさせて貰ったぞ。」

正直その話はここまでにして欲しいです。

穴の空いた心がえぐられるような気分。

でも、辞めて下さいとは言えないし・・・

こんな場所でなかったら顔を隠して退場したい。

自分でも、顔が赤くなっているのを実感した。

「この王様、人をいじるのが好きなようだねぇ。」

シャナンさんは王様に聞かれないようにつぶやいた。

「で、中の人は市勢の調査はそんなに頻繁に行っているんか?」

「ふむ、度々な。だが、中の人とは何の事であるかな?」

王様は少しにやついた表情で答えた。

「ちっ、引っかからなかったか・・・」

ドゥベルさんは舌打ちをした。

その様子だと王様の存在を気にしているようだった。

各都市の王はNPCのマークが付いていない特別な存在ではある。

だからこの世界の神(ゲームマスターと呼ばれる運営)につながっているもしくは運営そのものではと噂はあった。

「王族は自由恋愛がないのでな。君達の様な身分が羨ましくて仕方ない。」

きっとこれは王様の話術なんだろう。

王様である事を誇示せず、話相手と対等だという印象をもたせる。

それでも、冒険者さんだからであってNPCである僕にはどうなんだろう?

「しかし、変装は完璧だったはずなのに良く気がついたな。」

変装がバレていた事に王様はショックを受けていたようにもみえる。

「そりゃまぁ、店から離れていたとはいえ、あんだけ警備網が厳重に敷かれ、武装は最小限。そして、今対面して聞いた話し言葉だな。」

「ああ、なるほど。あの時話した、冒険者であったか。今後は気をつけないとな。」

これはつまり、ドゥベルさんは他の人より観察眼が良くて気がついたって事のようです。

「他の冒険者には、この事は話しは、したのか?」

「いんや。特に触れ回る必要もないだろう?」

「え〜私達には教えてよ〜。」

シャナンさんが頬を膨らまして抗議した。

「お前に言えば、いろんな所に触れ回るだろう?」

「ちょっと!私はそんなに口軽く無いもん!」

「そうだな、この件が広まると、わしも行動範囲が限定されてしまう。」

王様は人差し指を口あて、ウィンクをした。

「ここだけの話にしてもらいたい。」

シャナンさんの目が光る。

「お代官様、口止め料はいかほどに?」

「ちょっと、やめなさいシャナン!」

ローリアさんがシャナンさんを制した。

「ははははは。口止め料ではないが、お楽しみは用意してあるぞ。」

「うひょ!やったぁ!」

シャナンさんのその喜び方に、ローリアさんは手で顔を押さえため息をついた。

世間話しで盛り上がっていたところ、紋章官ハッフェルさんの咳払いで話が途切れた。

「王!そこらへんで。」

「うむ、そうだの。では改めて」

王様は咳払いをし、表情から先程の優しい笑顔が消えた。

「まずはNPCジョナサン・グリーンリーフよ。魔王の討伐、ご苦労であった。

誰もがなし得なかった、永年の民を苦しめ不安にさせてきた、最大要因の排除に自らの命を省みず勇敢に立ち向かった。」

僕は王様が改めて話を始めたので頭を下げ、王様の言葉を噛み締めながら拝聴した。

けど『命を省みず』とか、背中がむずかゆい。

さっき王様に話した通り、酔った弾みなんです・・・

酔った弾みなんです!

酔った弾みなんです!

そんな気持ちも汲み取ってくれず、王様は話し続ける。

「恐怖にも打ち勝ち強い精神力を持って・・・」

特に、ここにいる冒険者さんはみんな経緯知っているので、さらに恥ずかしくなってきた。

顔を手で多いたい気持ちがあったが、顔を下に向けるだけで精一杯。

冷や汗も出てきた。

罰を受けている気がしてきた。

「永年の民の平和への思い成就させた事、改めて国の最高責任者として礼を言う!」

目線は下向きでも王様の大仰な身振り手振りは目端で見える。

だけど、すぐに小さな間を開け、ゆっくりと言葉を吐いた。

「NPCジョナサン・グリーンリーフよ。ありがとう。」

王様の身振り手振りが収まり、ゆっくりとした口調で次の言葉で締めた。

「そしておめでとう!」

そこまで言うと、この部屋にいる皆んなが拍手してくれた。

むず痒い。

自主的では無いのに、ここまで祝われると言うのは色んな所がむず痒い。

王様はきっと用意した原稿を暗記して言っているのでしょう。

だけど、その仰々しさもピタリと止まった。

王様が臣下に合図をした。

「そして、魔王討伐の勝利と平和の祝祭パレード(エンディング)がお主の栄光と称賛の場として、本来なら用意されるはずであった。」

「残念な事にそれを行う事が出来なくなった。」

パレードと聞いて畏れ多すぎ!と焦ったけど、無くてよかった。

「冒険者の手前、終わった事を示さなければならないが、お主の身の安全も考えなければならぬ。だが皆な、魔王を我先にと倒す気で居たのに奪われた怨みが少なからずある。」

やっぱりそうですよね。

「街のたかが武器屋のNPCに冒険者に寄ってたかられるのも、都市の風紀上よく無い。警備体制も強固にしなければ成らぬが、やはり不安が残る。」

さっきの店の状況を思い出した。

もう懲り懲りです。

「そこで、パレードは行い、当日は替え玉に出てもらう事にした。」

ちょっと残念ですが、ええそうでしょう、その方が僕も安心できます。

「代わりにお主には、後に十分な報酬を与える用意はしておる。」

「いえ、私めには勿体ないご配慮です。どうか私の事案よりも、街の平和と安全を優先していただけたらと思います。」

「ふむ、謙虚であるな。我々も助かる。」

王様は紋章官ハッサンに目配せで合図をした。

「だが、今回ここに来てもらったのは、この話が主では無い。」

キタ!

お褒めの言葉と配慮だけで、さようならは無いとは思っていた。

本来なら冒険者さん達に倒させるはずの獲物の横取った行為は何かしら、お咎めがあるに違いない!

「NPCジョナサン・グリーンリーフ、おぬしは冒険者Aは知っているな?」

想像した事と違う質問がきた。

「正直に申せ!」

紋章官ハッフェルが威圧的に返答を求めた。

正直言ってあんまり思い出したくはない。

「はっ!先のイベントで最優秀成績を収め最高ポイントを獲得しランキング1位になった冒険者Aでございますね。」

「それは、皆知っている。それ以外はないのか?」

紋章官ハッフェルが王の替わりのさらなる答えを求めた。

僕は、わかりやすく話を端的にまとめられる様に注意しながら口を開いた。

「半年ほど前、私が経営しております武器屋、オルス・フラに訪れて来ました。その時は初心者用武器講座(チュートリアル)を受けるつもりかと思ったのですが、それも受けずに、何も買わずに帰って行った冒険者と記憶しております。」

壺を割ったりあっちこっち商品を引っかき回した事は話さなかった。

私怨を持ち出して、話す事でも無いだろう。

「彼の冒険者登録証はチェックしたか?」

「はい。登録を済ませたばかりで、初心者用講座も受けていない駆け出しでした。」

その場に居たみんながどよめいた。

ん?どういうこと?

「王!」

紋章官ハッフェルは不安な顔を王様に向ける。

何があったのか?こっちも不安になる。

「ふむ。」

王様は少し考えると落ち着いて口を開いた。

「つまり、たった半年で先のイベントで最高ランクを獲得するまでに成長した冒険者と言う事か。」

「不正禁忌(チート)執行者か!」

ドゥベルさんは驚いて、声を上げたが、その周りのクランメンバーもその単語に反応した。

「最近、上位冒険者の参加が少ないとは言え、たった半年でイベントで最高得点を獲得できるまでに成長出来る冒険者は居ない。

いや、居なかったはず。」

「最初の上位ランクへの限界解放も、冒険者登録所で支給品(ログインボーナス)を1年受けてないと許可してくれないだろ?そこ変わってないよな。」

王が冒険者並びに周りに居る家臣たちにも聞こえるように口を開いた。

「変更はしていない。そんな事を許可をした覚えもない。」

一瞬沈黙が訪れた。

「そいつを逮捕連行して、追放(アカバン)にはしないのですか?」

今度は紋章官ハッフェルが口を開いた。

「我々も、彼を連行するべくセーフティーハウスや潜伏場所を探したが、一度見つけ、逃した後、痕跡を見つけられずにいる。」

「痕跡追跡情報(ログ)を辿っても?」

「詳しくは言えぬが、追跡が不可能のようだ。」

「GDPR(General Data Protection Regulation)の範囲内からのアクセスかのぉ?」

アナハイムさんも王の言葉尻から推測を図った。冒険者さんの世界の言葉らしい事は僕も聞いている。

再び沈黙が訪れ、周りの王の家臣達が、ひそひそ話を始めた。

落ち着かない。

「他に、冒険者Aで知っている事無いか?」

「いえ、他にはございません。」

「そうか。」

王は深いため息をつき、王座に腰掛けた。

「ひょっとして王は、今回の魔王討伐の件、その冒険者Aに関係すると考えておいでですか?」

不安そうに王に尋ねたのはローリアさんだ。

「まだ想像の範囲内ではある。関連性も原因の特定も出来てはいない。少なくともNPCジョナサン・グリーンリーフにはチート行為の意思やバグは無ように思える。

だが、何かの切っ掛けではあるかもしれない。そう、彼の幼なじみのNPCカレン・コートルームが冒険者Aの嫁となった事もただの偶然とは思っていない。」

王様の替わりに紋章官ハッフェルさんが答えた。

カレンちゃん!そうだ!カレンちゃんは大丈夫なのか?

そんな、無法者の元に嫁に行って大変な目にあってないかな?

急に不安になった。

「先の武器屋オルス・フラで集まった冒険者達は、これからのイベントの切っ掛け(フラグ)の可能性もあると考えているのだろう?もちろんおまえたちも。」

アナハイムさん、ドゥベルさんを含めその場にいた冒険者はみんな沈黙で肯定を返した。

下手な答えがこの先、王様の話にも影響が及ぼすことを恐れたらしい。

その前に王様の意図が見たい。

「主が用意した切っ掛けなら、何も不安がないのだが・・・」

「ハッフェル!」

王様が紋章官ハッフェルさんの言葉を抑制した。

それになんの意図があったかはわからないが、聞かれてはまずい事もあるようだ。

「こちらも色々ある。公にしたイベントにしてうやむやにする事も可能かもしれんが、不安材料が残る今、大きな問題になる前に対処したい。」

「どうなされるおつもりでしょうか?」

無礼かもしれないけど、王様に尋ねてみた。

すると、その言葉を待っていたかのように王様はにやりと口端をあげた。

うっ。なんかやな予感。

王様は僕たちを指すように腕を伸ばし、言い放った。

「商家NPCジョナサン・グリーンリーフよ!お主に冒険者としての使命を与える!

『冒険者A』の動向を調べ、この世界、この王都に仇を成すなら彼を抹殺処分(アカバン)せよ。」

はい!?

名前に『商家』をわざと付けて、商人だと認識しているのに冒険者になれと言うのですか!?

「あの。力量もそうですが、冒険者さんを殺す(PK)なんて・・・」

オドオドが王様の目に映ってはいると思う。いや、でも人殺しなんてしたくはない。

普通なら勅命に文句を付ける事は出来ないが、流石に素直に受け入れられない。

「出来ぬか?」

王様は何かを探るように僕をみたて何かを察した。

「出来なければ。拘束した上で。ここにつれて参れ。」

王様は僕との話を強制的に終わらせ、目線を冒険者さん達の方に向けた。

「そして、魔王討伐の見届け人としてその場に居た冒険者にも同様の使命を与える。

彼をサポートし、お互いの利益優先をするのでは無く、どうか、この世界を救って頂きたい。」

「王の勅命である。必ず遂行するように。」

紋章官ハッフェルさんも王様の言葉を念押しするように、命令で在ることを添えた。

冒険者さんはみなそろえたように敬礼をすると、アナハイムさんが口を開いた。

「必ずや遂行して見せましょう。」

そう言うと冒険者さん達は皆そろって敬礼をした。

1人取り残されたけど、なんかかっこいい。

でも、これは僕も拒否する事が全く出来なくなった。

冒険者に転職ですか!?

お父さんゴメンナサイ、あなたの大事にしてきた武器屋は畳む事になりました。

しかし、いきなり冒険者になれって言われたって、僕には必要な体力とスキルが無い。

王様はそこら辺も考えているのだろうか?

その思いを察してくれたのか、王様が指示を出した。

「ウォーレン!彼らの支度準備を手伝ってやれ!」

「はっ!」

冒険者にする準備を怠らないお気持ちはありがたいのですが、やっぱり確定ですか?

なし崩し的に決められて、ため息も出ない(出せない)状況にただ、僕は困惑した。

王様はそんな僕の心中を察したのか?僕の顔に嫌々な気持ちが出ていたのだろうか?

「そんな顔をする事もない、そこに居る冒険者を頼り、お互い協力しあって任務を遂行するとよい。」

いや、そこじゃないんですよ。お店をどうするかです。

後ろを振り返るとローリアさん、ドゥベルさんを始め冒険者さん達は、任せろと胸を張っている。

駄目だ。これは。反対意見を言う事も出来なさそう。

「短期イベントの一つだと思って、軽くこなしてくると良い。」

王様にそう言われて、一時的なのかと少し安心した。

「ああそうだ。もう一つ。おぬしが魔王を倒した戦利品を見せてはくれぬか?」

そう言うと、後ろで僕の武器を持っていたメイドが前に出て、一度僕に武器を取るように促された。

やっぱり王様も気になりますよね。

一先ずメイドから「真跳び」を受け取り、王様の前に掲げるように差し出した。

ただ、王様にペナルティーを与えるわけには行かない。見て貰うだけになるのだろう。

王様はゆっくりと僕の前まで歩いてきた。

同じ位置にいると王様の方が身長が少し高く体格も良いように感じる。

さすがに僕も王様に、失礼の無いように頭は下げたままでいた。

「王、お手を触れては・・・」

紋章官ハッフェルが不安そうな顔で制止する。

「わかっておる。」

王様もペナルティを受けたくは無いだろう。

身を乗り出し、まじまじと武器を隅々まで見つめた。

だけど、それだけでは済ませなかった。

ちょんちょん!

一差し指で突いた。

「王!」

紋章官ハッフェルは驚いて王に制止を求めた。

「大丈夫だ、大丈夫だ。これぐらい。それにペナルティを喰らったところで、公務はおまえたちにがやってくれれば良いことだ。」

「それぐらいにして止した方がいいですよ。そこの者がさっき試しましたが、視力障害に掛かりました。完治まで1週間と見ています。」

ドゥベルさんはミハエルさんを親指で示した。

ミハエルさんは目が開いているけど、始点がさまよっている感じで立っている。

「ふむ、それはなかなか強いペナルティだな。公務もボイコット出来るかと思ったが、ここまでにしておくか。」

「しかしそんなに特殊な武器には見えないな。強そうにも見えん。威力効果を試してはみたのか?」

王の横に居た。総督が初めて口を開いた。

「いえ、まだです。私の武器スキルも十分では無いかと思いますので。」

「そうか。おぬしは商人であって、アフェリエーターでもサポーターでも無かったな。」

そう言うと、王は紋章官ハッフェルさんに耳打ちをした後、再び僕の方に向き合った。

「武器の威力の報告は後で王宮にでも連絡をして欲しい。文官どもが記録を残したがっている。」

多分それは、一般にも公開される王都のニューストピックスにも利用されるのだろう。

載ったら載ったで、行列がさらに増しそうな気もする。

やだなぁ。

「では、用件は済んだ。私はこれで失礼するぞ。」

その部屋に居る全ての者が敬礼し、王はマントをひるがえすと舞台袖にある扉から部屋を颯爽と出て行った。

紋章官ハッサンさんも王に続いて退出をする。

二人が退出したのを確認すると紋章官ウォーレンさんが声をすぐにかけてくれた。

「では皆様こちらに。」

僕たちを謁見の間の外へ案内された。

なし崩しに、全てが決められ僕の意志とは関係無く物事が進んだイベントだった。

魔王を倒したのが冒険者では無くNPCの僕だった事については、特にお咎めも無く、バグと認定されたわけでも無いって事は、何だか安心した。

王様もその件について少しは憂慮していたのだろうか?


その頃、僕たちとは別の出入り口から謁見の間を出た王様は、別の部屋に行く途中急に足を止めて少し考えた。

「そう言えばあのことを伝えておくのを忘れていたな。ハッサン」

「王が気になさることではありません。」

紋章官ハッサンさんも急に王様が足を止めたので何事かとおもったのだろう。大した事では無くて安堵していた。

「・・・まぁよいか。」

その言葉は僕達には全く知る事はなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る