第12話:武器屋閉店中2

お茶の用意を、ローリアさんが手伝ってくれた。

こうしてキッチンに並んでいると夫婦っぽい感じかな?とほんわかした気分になる。

カレンちゃんとこういう生活に憧れたけど、もう彼女は人様の妻になり多分この先会うこともない。

もう、ローリアさんを切っ掛けにして、彼女の事を諦めてるしかないか?

カレンちゃんを諦められるのか?

「ジョナサン?」

深いため息をついた事で、ローリアさんが気にして心配してくれた。

考えてた事を悟られた?

そう思ったけど、他の事を気にしているように見えていたようだ。

「大丈夫!そんなに心配しなくても、私達がついてるよ。コップはここ?」

移動の際の恐怖はもうどこかに行ったらしい。今は鼻歌を歌いそうで、少し楽しそうでもある。

表とのドタバタの対応の方が楽な対応のようだった。

「ええそこです。あの、一つ聞いても良いですか?」

「ん?」

「ドゥベルさんやシャナンさんは何となく解るような気がするんですが。」

ドゥベルさんは魔王討伐の経緯の確認の為、シャナンさんは楽しい事の追求の為。

だけど、改めて考えると魔王討伐の現場にいたとは言え、NPCの僕を介護までしてくれる事は無いんじゃないかとも思った。

そもそも他の冒険者だったら、へろへろの状態でもあちこち連れ回され、半分拷問される可能性だってあった。

「ローリアさんは、なんで僕にやさしくしてくれるんですか?」

ローリアさんは、驚いたように、ぱっと体ごと僕の方を向いた。

目があって固まった。

彼女の頬が少しづつ赤くなって、目をそらした。

えっなにこの、この状況!?そんなに変なこと言った!?

「まだかローリア、ジョナサン?」

「あっはい!今すぐ。」

声かけられた、ローリアさんはすぐさま振り向き向こうに行こうとしたが、足下のに転がっていた包みに足を引っかけた。

「あっあぶなっ!」

思わず彼女の倒れそうな彼女の体を引っ張り、お茶を入れたお盆もうけ取った。

「ふぅ。ちょっとしかこぼれてないよかっ・・・」

僕の腕の中にローリアさんがいる。

ふわっと舞い上がる彼女の髪の中から女性の匂いが鼻腔をやさしく包み込む。

また目があった。

目は驚き見開いているが長いまつげが長くて綺麗だって感じた。

頬はさっきと変わらずやさしいくピンク色で、ゆっくりと落ちてくる髪は彼女の綺麗な顔の輪郭を少しづつ隠していった。

時間が少しゆっくり流れているような気がした。

「まだかなぁ〜?」

シャナンさんが僕らの様子をのぞき込むと、ぱっとローリアさんは僕から離れて、お盆を受け取る。

「はいはい。」

そう言うとすぐに、紋章官の居る方へ向かった。

僕の腕には彼女の体温が少し残っていた。

それを少し感じていたくもあったが、みんなを待たせても悪いので、すぐにローリアさんの後に続くことにした。

「どうぞ。」

ローリアさんが、紋章官にお茶とお菓子を出した。

「なんだ。オレの茶はないのか?」

「あなたは自分で注げといつも言ってるでしょ?」

さっきの様子とはうって変わり、ローリアさんがドゥベルさんに向ける目がすわっている。

紋章官はその様子を見てクスリとわらった。

「外の賑やかさに負けないぐらいこちらも賑やかですね。」

紋章官ウォーレンさんはよく見ると若く大体20代後半ぐらいのイメージで、金色の髪の毛と眉毛そして切れ長の目のイケメンだ。

「はいはい、その外の事も気になるので、さっさと用件を聞きましょうか。」

「今居るメンバー以外のログインは、後3時間ぐらいしないと来れないらしい。全員集まるには4時間て言ったところか。」

魔法玉からの声でそう反応が来た。

「では、こちらにいる方に先に用件を伝えておきます。」

そう言うと紋章官ウォーレンさんは胸元から招待状を5つ取り出すと、僕を含むこの場に居るみんなに手渡しをした。

「用件は、当国家の王オーフェン・ベルツ3世にお会いして話を聞いていただきたいのです。詳しいことは王宮にて皆さんが集まった時に説明をいたします。」

「新しいメインイベントか!」

「詳しくは王宮にて、お話をさせていただきますので一先ずはお越し頂きたい。」

「お越し頂くも何もこの状況では表に出られるかすら少し怪しい。出たとしてもうちらの後をずらずらと行列が出来て冒険者が全員王宮に訪れる事になるぞ。」

「紋章官殿もちゃんと出れるか解らないのでは?」

「ご心配なさらず、王宮に戻れる魔法石がございます。最大8名まで王宮の中庭にご案内できるので、皆さんが宜しければご一緒に行きましょう。」

「この移動にワープアイテムとはずいぶん羽振りが良いんだな。」

そう、移動の魔法アイテムは結構高価なアイテムだ。

この前は何も考えずに使っちゃったけど、魔王の部屋前に移動した物となれば、多分売れば相当高価だったはずだ。

「ええっ今回の騒ぎで、簡単には戻れない事は想像しておりましたから。」

「すみません・・・騒ぎにして。」

「気にすることはございません。皆さんをお連れするの私どもの役目。これから集まれる方は、門衛に話しかけて頂ければ中にお通しいたします。」

「わかった、では皆に声を掛けて向かうとしよう。」

魔法玉からの男性の声をそれを最後に音が途絶えた。

「あっでも、3時間後ですか?王宮に呼ばれる用の服がそういえば無い。」

「大丈夫です、それもみな王宮にて用意しております。冒険者の皆様の分も。」

「ドレス!?ドレスで王宮だよ!ローリア!」

シャナンさんは嬉々として、ローリアの手を取り喜んだ!

「パーティがあるわけじゃ無いわよ。」

「ええ残念ながら。」

「ちぇ〜」

「それよりも、シャナン。マナーは大丈夫?」

「マナー?何それ?食べ物ならいくらでも〜」

ローリアさんはやっぱりと言いたげな、あきれ顔で言葉を続けた。

「さすがに知ってるでしょ?マナー、ぐ・ら・い!」

目線を外すシャナンさんの頭を両手で挟み強引に自分の方に向けた。

「大丈夫大丈夫!いざという時は何とかなるのがシャナンさんなのですぅ〜。それより他の人が心配じゃない?」

冒険者さんは基本的に、王族や貴族に頭を下げなくても、本来は問題ない。

でも王族貴族に不評を買うと情報の出し渋られたりするなど、多少やりづらい事もあるのでそれっぽく対応している人がほとんどだ。

「ミラン君は心配していないけど。ドゥベルあなたもよ!」

「そんなの適当でいいだろ?」

「もう。シャナンは私がみるから、ジョナさん、ミラン君。男性陣の事はお願いね。」

「はっはい・・・」

言われるがままに返事をしたけど多分、このドゥベルさんが言う事を聞いてくれるか解らない。

「オーフェン・ベルツ王はマナーについても気にされるような方ではございません。どうぞ、ありのままの姿勢でご対応下さい。」

ウォーレンさんは、そういわれますがちょっと心配です。

「では、そろそろ移動しましょうか。これ以上ここに居ると外の者達がさらに騒ぎを起こしかねません。」

確かに、さっきより、表の喧噪が大きくなぅている。

「玄関からは、ちょっと無理そうなので、屋根上から移動しましょう。」

「えっ!屋根!」

ローリアさんはまた高所に出るとは思わなかったらしい。

「ガンバレー、ダレニモタヨラズ、ジブンデナ。」

ドゥベルさんは結構突き放すタイプ。

ローリアさんは泣きそうな顔で僕の方に訴えてきた。

「大丈夫です、しっかりと支えますから。」

「うっうっ高いのキライ・・・」

「ただ移動するだけでは群衆はここから引かないので、ちゃんと私達がここに去った事もアピールしないといけません。面倒ですが、おつきあい下さい。」

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