第5話

 決意を胸に、李桜は一度立ち上がり、リーナの目の前に来る。そして、そのままその腕に抱きしめる。暖かな腕の中で、リーナは涙腺が弱くなり、ぽろぽろと涙が溢れてきた。

 あやすように手が背中を優しく叩いたり、撫でたりを繰り返す。

 それに安堵したいのに、支配される恐怖に、涙が止まらない。

 心配しないで、大丈夫だよと、繰り返されるその言葉に、声に、少しずつ落ち着きを取り戻していく。


「……ごめんなさい。私が弱気になっていてはいけないわね」

「そう、君の仕事は笑っていること。そして。僕を安心させてくれることだ」

「まぁ……」

「だから、泣かないで。泣き顔なんて見たくない。いつでも、どこでも、どんな時でも、笑っていて。リーナ」

「…………あなたが大変な時に笑うことは無理だわ。だから、それ以外の時はできるだけあなたの言葉に従います」

「さすが。僕の奥さん。それで良いよ」


 お互いに微笑み合いながら、彼らは抱きしめあっていた。そして、時間を見て李桜は仕事に行かなければといい、身支度を軽く整えて、リーナに見送られながら、仕事に出かけていった。

 リーナも、仕事があったため、身支度を整え、軽く化粧をしてから莉緒に声をかけるため、莉緒の部屋に一度赴く。ノックをしても返事がないため、勝手に部屋の中に入ると、莉緒は自分のベッドの上で丸くなっていた。

 穏やかな寝顔を見れば、娘が悪夢に脅かされている心配はない。そのことの安心して、リーナは莉緒の頬に口付ける。

 小声で言ってきますと囁いて、そのまま仕事に出かけたのだった。



**



 けたたましいアラーム音で目を覚ました莉緒は、体をむくりと起こしてうとうととする目をこすりながら行動をする。

 決めておいた衣服に素早く着替えて、歯磨きをして、薄く化粧を施す。鏡を見て身だしなみをチェックし、大学用のカバンを持ってすでに誰もいなくなった家に向かっていってきますと言葉をかけて家を出た。

 実家通いのため、公共交通機関を使って移動をして、30分ほどで大学に着く。

 広い学内をてくてくと歩いていると後ろから声をかけられた。


「莉緒ー、おはよー!」


 そういいながら、背中からガバッと抱きついてきた友人に莉緒はわっと声をあげながら返事をした。


「おはよう、あけちゃん。……どうでも良いんだけどさ。後ろから抱きつくのやめない?」

「え、なんで?」

「いや……驚くでしょ?」

「それが目的なんだから、やめないわよ」

「……あけちゃん……」

「このくらいのコミュニケーションとらないと、莉緒って淡白だからすぐに離れちゃうじゃない」

「……よく、私の性格をご存知で」


 そういいながら、莉緒は自分にしがみついている彼女をひっぺがして、自分の隣に来てもらう。

 茶色の髪はセミロングでハーフアップにしており、髪よりも少し濃い茶色の瞳は莉緒をじっと見つめる。そして、友人が莉緒の顔色を見て眉をしかめた。

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