第3話

 目の前に並べられている朝食を黙々と食べ続けていく。と、母親が話しかけて来た。


「莉緒、あまり元気ないわね? どうしたの?」

「……ん、んー…………夢見が悪い、というか……」


 少し反応に遅れながらもそう言葉を紡ぎ出す。すると、今度は父親が心配そうに声をかけて来た。


「怖い夢でも見るのかい?」

「怖い、といえば……怖いのかもしれなけど……ちょっと違う気もする、みたいな……?」

「……どういうことだい? 怖い夢だけど怖い夢じゃないって」

「私にもよく分からないの……でも、なんだか、悲しい、ような……そんな感じの、夢……」


 と、その時、耳元でリィン、と鈴が響くような音がかすかに聞こえる。

 莉緒はとっさに空いている左手で左耳を澄ますようにする。しかし、もう何も聞こえない。気のせいかなと思い首を傾げていると、再び父親から声がかかった。


「莉緒?」

「あ、うん。なんかいま、不思議な音がしたと思ったんだけど、気のせいだったみたい」

「…………そう」


 心配そうな表情で、それでも渋々と納得してくれた父親を見て、莉緒はかすかに笑った。


「大丈夫だよ、お父さん。心配しないで」

「莉緒……わかってはいるんだけどね」

「お嫁に行くわけじゃないんだから、そんなにも泣きそうな顔をしないで」


 そう言って、莉緒は自分のフォークにソーセージを突き刺して、何かを言いたそうに口の開閉を繰り返している父親の口にそれを突っ込んだ。

 うぐっ、という声が聞こえたけれど気にしない。

 莉緒は目の前の父親の状況にくすくすと笑う。そこへ、今までキッチンにいた母親がひょこりと顔を出。


「あなた、何なさってるの?」


 旦那のその状況を見て、妻である彼女は淡々とそんなことを聞く。

 旦那はむぐむぐと必死にソーセージを咀嚼している。

 口に手を当てて喋ればいいのに、と思うけれど、この父はなぜか口の中に食事が入っているときは決して喋ることはしない。律儀といえば律儀だけれど、硬いといえば硬い。

 だからこそ、莉緒が答えた。


「なんか、泣きそうな顔をしてたからソーセージをおすそ分けしたの」

「泣きそうな? まさか、莉緒がお嫁に行くわけでもあるまいし」

「お母さん、私と一緒のこと言ってるよ」

「あら、そう?」


 くすくす、と笑いながら、母は洗い物が終わったのか、エプロンを外してテーブルについた。

 そしてようやく、むぐむぐと口を動かしていた父親が大きくため息をついた。


「あ、食べ終わった?」

「……莉緒……」

「美味しかった?」

「……ああ」


 そういって、莉緒は笑顔を見せる。その笑顔に曇りがないと理解したのか、父親も安心したようにほっとしながら微笑み、そして朝食を続けた。

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