第6話【生か死か】ー迫られた選択

【Aはどうすれば死から逃れて生き延びることが出来るのか?】


主体的意志を以て積極的に生きるのならば、Cを取り戻すために闘わねばならない。Bは極めて稀な特殊な人間であり、治療を受けさせる事が出来ないのであれば、Bの精神の回復を手助けし敬遠しつつ穏やかに良好な関係に修復する努力をしなければならない。


主体的意志を以て消極的に生きるのであっても、Cを取り戻すために闘わねばならない。Bを取り戻す事は諦めて、恋愛を友愛に変化させ、やはり、穏やかに良好な関係に修復する努力をしなければならない。

Aはビジネス都市圏郊外の貸家に、二才の娘Cと暮らす、25~6才くらいの専業主婦である。


Cは二才ではあるが、時には五才児のような言動をする感受性豊かな女の子に、殆ど母A一人の手で育てられていた。BはAの夫でありCの父親である。妻とは幼馴染で同年齢。貸家から車で45分ほどの会社に勤務している。Bは勤勉な努力家であり社長に認められ課長に抜擢され部次長に昇進する内示も受けている。


AとBは中学生のころには交際を始め、同じ大学に進学後、双方の両親にも認められて、大学近くのアパートで同棲生活を始めたのだが、大学卒業前、Aは両親を相次いで亡くし、帰る実家をなくし寄る辺のない天涯孤独の身の上となってしまった。BはAを生涯大切にし守ることを決意し、AとBは深く愛し合っていたものと認めらる。その後、二人は大学卒業を前にして結婚した。


二人は同時に大学を卒業し、それぞれの会社に就職したのだがAはすぐにCを妊娠して会社を退職した。Bは家族三人が裕福な生活をできれば三人が幸福になれると思い、ますます勤労に励もうと決意を新たにした。


Bは休日にも家に帰らず車で45分の家に帰ったのは 三年の間で月に一度程度であった。Bは我武者羅に働き、Aは一人で乳幼児の育児に専任し肉体的にも精神的にも徐々に疲弊し育児ノイローゼになりつつあったものと認められる。Aが帰って来ないBに完全に見捨てられたものと諦めた三年過ぎようかという時期に、相談にのり慰めてくれた高校のクラスメートと不倫に至ったものである。


Aが精神的に追い詰められていた事は、二人が新たにやり直そうとした時に、Aが不倫に対する自責の念から、Bの前で過呼吸になった事からも明らかである。結局、BはAに離婚届に署名させ、親権を放棄しCとの面会も許されない完全な絶縁を認めさせ、AとBが協同して維持していた貸家から、充分な猶予もなく追放したのである。


ここで特筆すべきなのは【Bが極めて稀な特殊な人間であることだ】育児ノイローゼ、介護ノイローゼ、或いは学校での苛めなどから母子、父子、夫婦の無理心中が起きる事があるのは広く知られている事実である。


通常の成熟した人間であれば、妻子を放置はしないし、やむを得ない場合には何らかの対策を取る筈だ。

だが、このエッセーの目的は、Bを裁くことではない。


【生か死か】ー迫られた選択 タイトルを再掲しよう。


Aは【生か死か】の選択を迫られた。このエッセーの真の目的は、Aが【生】を選択した場合に取り得る選択肢を見極める事なのである。言い換えると次の「問い」となる。


【Aはどうすれば死から逃れて生き延びることが出来るのか?】


主体的意志を以て積極的に生きるのならば、Cを取り戻すために闘わねばならない。Bは極めて稀な特殊な人間であり、治療を受けさせる事が出来ないのであれば、Bの精神の回復を手助けし敬遠しつつ穏やかに良好な関係に修復する努力をしなければならない。


主体的意志を以て消極的に生きるのであっても、Cを取り戻すために闘わねばならない。Bを取り戻す事は諦めて、恋愛を友愛に変化させ、やはり、穏やかに良好な関係に修復する努力をしなければならない。


結論は以下の通りである。


【孫子 火攻篇より


怒りは復た喜ぶべく慍りは復た悦ぶべきも、亡国は以て復た存すべからず、死者は以て復た生くべからず。】


人間の生命は人間にとって一番重要だ。常に命懸けで生きているのが人生というものなのだ。死なないようによく考えて行動は決定しなければならない。


追記

できうる限り、主観を排し客観的に、あらすじを試論の梗概として纏めた。その文責はこのエッセイの作者である私にある事は明記しておく。エッセイのために必要であったのは確かであるが、その物語に魅入られ深く読み込んだからこその事である。リスペクトのあるオマージュとして読んで頂く事を願う。


尚、Aが生き延びるための、本文ではあげてないもう一つの選択肢は【忘却】であり、その究極のかたちは記憶喪失である。



※実際にこのような夫婦がいたら、夫婦一緒に専門家のカウンセリングを勧めた方がいいと思います。

人生は短く儚く、人の心は壊れやすく、容易く死んでしまいます。

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