2. 旅路 (1)
日の光が渇いた地表を照らし、砂埃が風に舞う荒野。
そこでは、青い甲冑を纏った騎士が黒い狼の群れに囲まれ、長剣を振るって撃退しようとする中世ファンタジーのような光景が繰り広げられていた。
ただ、それは、あくまで遠方から眺めた場合の話。
実際は、青い甲冑を纏った騎士は人よりも数倍も大きなロボット、プロームであり、黒い狼は黒紫の血管を纏わりつかせた異形の化け物、ケイオスだ。
両者が激突する度に重厚な金属音と振動が周囲に響き渡り、戦闘の激しさを物語る。
そんな中で、青いプローム、B3を操るハルカはケイオスと戦闘しながら、ノインやノウェムと話していたことを思い出していた。
『ケイオスはケイ素性無精神生命体。彼らにはそもそも、意志、感情というものが存在しません』
1機の青黒いプロームが突貫してきたケイオスの肉体を長剣で切り裂き、黒い液体が乾いた地面に飛散する。
『単に個体をそれぞれ倒しただけでは、撃破ということになりません。時間が経てば再び出現してしまうのです』
1体を倒したところで、B3へ別の1体、続くようにさらにもう1体が迫りくる。
『彼らには群れの中心となるコアが存在します。そこから半永久的にエネルギーを個体に放出している限り、彼らは湧き続けてしまいます』
『基本的にコアは物理的接触でないと破壊できない。我等は兵器を作り出したり、建物の建造はできても、それに触れたり、動かしたりはできない。だから、我等は人類に助力を求めたのです』
突進による連続の攻撃を最小限の動作で回避しながら返す刃で2体目、3体目、と長剣で的確に切り裂いていく。撃破を重ねる青い機体、それを繰る少年の表情に焦りはなく、涼しげなようにも見える。
『彼らはすべての構造物を書き換えて、ケイ素化し、新たな個体を作り出しています』
『ゆえに、奴らは危険。今はその変成スピードは脅威ではないですが、進化すればどうなるかはわかりません。このままいけば彼らは惑星の全てをケイ素化させるでしょう』
先日と同じ攻めのパターンであれば、巨大な個体が無傷で潜んでいるはずだ。ハルカがセンサーモニターへ視線を向けて警戒していると、突然岩の影から巨大な個体が飛び出してきた。
『まだ今はフェーズ1の状態。星の表面の一部の覇権を握っただけ、それならばまだ止められる』
スラスターの出力を瞬間的に上昇。巨大個体の突進を横にスライドして回避する。
『フェーズ2に至れば、急激な進化を始め、環境の変化に着手します。要するに、コア周辺のすべての物質のケイ素化。そこに至れば、コアを必要としない個体も出現するでしょう』
B3は巨大個体を翻弄するように左右へと細かく切り返すように動き、相手を
『そして、フェーズ3。惑星の全ての存在がケイ素に書き換えられる。そうなったら、惑星はケイオス以外の生命が存在できない死の星になります。まあ、そこまでいったら、人類はおろか我等も存在できず、死ぬことになるでしょうね』
じれったそうに巨大個体がB3のことを追いかけてくるが、その個体の動きがわずかに鈍くなってくる。
『けど今はフェーズ1の状態。ケイオスの個体もコアから離れては長く活動はできません』
弱ったケイオスが追いかけていたB3へ踵を返すと走り出した。それを見逃さず、今度はこちらが追いかける。
『そこで、あなた方人類の出番です。コアを見つけて、物理的攻撃でたたくのです。コアが破壊されればコアからエネルギーの供給を受けていたケイオスは活動を止めるのです』
ケイオスの個体が逃げた先には、暗い紫色の、水晶に似た構造体が浮かんでいた。
水晶に近づくにつれ、ケイオスの走るスピードがコアからエネルギーの補助を受けて速くなる。有利なテリトリーへと到達してしまう――寸前、疾走するケイオスの脇を細長い物体が駆け抜けた。
ハルカが操縦するB3が投擲した青い刀身が、ケイオスを追い抜き、コアに突き刺さる。
キィン
長剣を中心にコアに蜘蛛の巣状の線が走り、ガラスが割れるような破砕音を立てながら砕け散った。
コアが砕けたのを見て、ケイオスが身体を翻しB3に襲い掛かる。最後の抵抗、とでもいうように。
だが、その牙がB3へと迫る前に、黒い体が砂のように崩れると、地面に、ずしゃりと、と音を立てて荒野の大地へと落ちていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます