ゴーストインザヘッド
九泉
プロローグ
決壊
引きこもりの
今日は
階段を駆け下りた律は、一年以上通っていない扉に対峙する。膝の震えを抑え込むようにぐっと足に力を込めると、喉を鳴らし、律は取っ手に手を掛けた。そして一気に扉を開き、玄関を抜ける。
外へ出れば、人々のざわめきがより一層身近に感じられた。律は周囲を見回す。集まっている人の量からして、少し先の路地を曲がった先が事故現場のようだ。
事故車両から漏れ出たガソリンだろうか、油の臭いに混じって、僅かに生臭いものが鼻をついた。そしてそれは律が足を進めるごとに強く、濃密になっていく。
一歩、一歩。歩を進めるごとに、どくんどくんと心臓の音が強くなっていく。見てはいけない、頭の中の何かが警鐘を鳴らすが、律は熱に浮かされたように足を運び続ける。
そして間もなく、少年は彼女と対面した。
ブロック塀に突っ込んだ車輌。アスファルトに広がる液体。濃密な死の匂い。
律が目にしたのは、フロントバンパーとブロック塀に挟まれた若い女性の姿。眼球が飛び出さんばかりに目を見開き、ぐちゃぐちゃに押し潰された腹部からは中身が溢れている。
それは、唯一の心の支えとなっていた女性――
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