二日目 恵比寿(3)

 秋葉原は、想像していたよりも綺麗な駅だった。

 駅のいたるところにあるLEDスクリーンには、黒目の大きな美少女キャラクターが一定時間、映し出された後、消えて、また別の美少女キャラクターが映し出されていく。


 暇つぶしが目的だし、特にあても無く歩くことにした。

 駅前広場では、『丹後の名水・ミネラルウォーター祭り』というイベントがやっていた。

 水色のえんどう豆みたいな謎のゆるキャラと、何人かアイドルらしき女の子がいる。周りに人だかりができていて、よく見えない。

 スピーカーから、司会の女の人が喋っている声が聞こえ、時々、どおおぅ、という男達の野太い声が広場に反響した。


 歩行者デッキをエスカレーターで上がってみる。デッキの手すりには、カメラを持った男が何人もいて、地上のアイドルの女の子を撮影していた。みんな真剣な表情でファインダーをのぞいている。

 手すりのほうに行って下を眺めると、着ぐるみも、アイドルの子達も、よく見えた。

 アイドルは僕の知らない子ばかりだった。ジャンパーを羽織り、下はショートパンツを履いていて、太腿が白く光っている。高校生ではないと思った、中学生か、もしかしたら小学生かもしれない。


 ボディバッグからラテンの陽気なサウンドが聞こえ、数秒たって自分のスマホの着信音と気づく。電話は弟からだった。


「すまん。今日だっけ?」

「ああ、そうだな」

「ごめん、明日じゃだめ?」

「まあいいけど。ただ明日は夜に約束があるから、夜は無理だ」

「じゃあ、明日の昼に、飯でも食おうよ」

「うん、いまは下北沢に住んでるのか?」前の電話でそんなことを言ってた気がする。町田のアパートにはほとんど帰らず、今は下北沢で暮らしていると。

「まあ、下北沢ってわけじゃ無いんだけど、近くだね、わりと」

「女か?」

「ともだちともだち。あ、それと待ち合わせ場所どうする?下北沢まで来てくれると、ありがたいんだけど」

「ああ行くよ。下北沢の駅に行けば良い?」

「そだね」


「じゃ明日、駅に着いたら電話するよ」

「うん。いつまでこっちにいんの?」

「ん・・・明後日まで」

「そっか・・・じゃ」


 歩行者デッキからビルの中に入り、エレベーターで降りると、電化製品が立ち並ぶ通りに出た。

 少し色あせた、色とりどりの看板が目に入る。店頭にはモニターとゲーム機が置かれ、リュックサックを背負った男が何人かいて、ゲームをしていた。通りにはメイド服を着た女の子が立っていて、下を向いてスマホを触っていた。


 しばらく歩くと、秋葉原とは何の関係も無さそうな普通のコーヒーショップがあった、少し休憩しようと中に入る。

 アイスコーヒーを飲みながら、真琴のことを考えた。何をしゃべろうか、とか。無言でご飯を食べることになったら、嫌だな、とか。

 楽しく会話をする為の良いアイデアは、特に浮かばなかった。しばらくの間、グラスに残った氷をストローでつついたりした。

 店を出ると駅に戻り、恵比寿に向かった。


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