第30話 ビエスタの街

 カルハの街に来てから五日ほど。

 街の近隣クエストで人気のねーやつ、討伐のみを中心に受注してた。

 人気ねーやつってのはそこそこ難易度があっても報酬が少なくて受けたい冒険者がいねークエストだな。

 だから他の冒険者にも迷惑掛かんねーし、役所の職員さんが頼んでくるのもあった。


 そんでこの日隣街のビエスタってとこのクエストが出たから受注した。

 紫色のトメット畑だっけか?

 それを見に行くのと討伐クエストだったから受ける事にした。

 隣街ってくらいだから結構遠くて、歩きだと半日くらい掛かるらしい。

 歩きで半日って事は15キロくらいはあるんだろう。

 ま、飛行装備があるしすぐ着くんだけど。


 クエスト内容:アーヴァンク討伐

 場所:ビエスタの街地下水路

 報酬:一体につき250,000リラ

 注意事項:冬季前で巨大化

 報告手段:魔石を回収

 難易度:8


 アーヴァンクって言う鼠?

 特徴からするとビーバーみてーな感じの魔獣らしいんだけど、冬前になると大量に他の魔獣やら人やらを襲って食うから超巨大化するらしい。

 討伐に向かった冒険者が食われる事もあるとかで、結構危険なクエストって話だ。




 飛行装備で向かえばビエスタまでは二十分も掛かんねーだろうし、昼飯も向こうで食う事にしよ。

 早速空の旅を楽しみながらビエスタに向けて翼を羽ばたかせる。

 もう日中でも肌寒いくらいだし軽く羽織れる装備買わねーとな。


 なーんて思ってるうちに湖の側にそんなに大きくねー街が見えてきた。

 カルハより小せえけど村って程の規模でもねぇ街だな。

 一面紫色の場所もあるからあそこがトメット畑なんだろう。

 ま、空から見れば何とも思えないけど。




 街人驚かせても悪いし街の少し手前の農道に着陸して歩いてビエスタの街に入る。

 湖があるおかげかそこそこにいい生活してんのかな。

 石造りの家に地面まで石畳だし、地下水路もあるってくらいだから結構いい街だな。


 ここは街って事だから役所があるんだよ。

 空から街を見てるし場所もわかってる。

 こういう街の一番デカい建物目指せばそこが役所のはずだ。


 ビエスタの役所は街の中央じゃなく門から結構離れた場所に建てられてて、外から魔獣が侵入した際の避難所にもなってるんだろ。

 そんなわけで街を見回しながら役所目指して歩いてく。


 途中湖で獲れたんだろな。

 魚の串焼きが売られてたから人数分買って食う。

 デンゼルにいるとあんま魚って食う事がねーから久し振りに食うんだけど、シンプルに塩味だけでも結構美味かった。

 身の締まった海水魚とは違うふわっとした食感の淡水魚もなかなかに美味い。


 他にも蒸した野菜とかこの土地の果物なんかもあったけど、まずはクエスト終わってから食う事にしよう。




 役所には冒険者二人と職員が四人。

 小せえ街だし結構冒険者も少ねーのかもしんねーな。


「こんちわー。クエスト受注してカルハから来たんだけど、アーヴァンクがいる地下水路ってどっから入るんだ?」


「カルハから!? もう来たんですか!?」


「ああ。空飛んで来ればすぐだからな」


「空を? 何言ってるのかよくわかりませんが…… アーヴァンク討伐依頼を受注してくださってありがとうございます。難易度8となっていますけど、もしかすると私達が把握しているものより巨大化した個体もいるかもしれません」


「別にデカいくらい問題ねーよ。で、どこから入るんだ?」


「アーヴァンクを甘く見てはいけませんよ!? 巨大化したアーヴァンクはミノタウロスさえ倒したという逸話もあります!!」


 うーん…… 話の聞かねー姉ちゃんだな。


「オレ達はゴールドだしミノタウロスくらいなら余裕だ。だから地下水路の入り口を……」


「そんな事言っても地下水路では罠を仕掛ける事は出来ないんですよ!? 本当に危険なんですからもっと慎重に行かなくてはいけません!!」


 困ったな。

 言葉の通じねー相手とどう接すればいいのかわかんねーや。

 んでも場所聞かねーとどっから入ればいいかわかんねーし何回も同じ質問した。

 どこまで言っても危険なんですの一点張りで、この職員さんにはさすがに参ったわ。


「勇飛。行くわよ」


「え? でもこの人場所教えてくんねーよ?」


 エレナは行くっつってそのまま外に出たからオレも後に続いた。

 もしかしてエレナは場所知ってんのかな?




「あの人に聞いても無駄よ。どんなに聞いたって危険だとしか言わないわ」


「は? なんで教えてくんねーんだ? 役所の職員だろ?」


「たぶん私達がこの街の冒険者じゃないから気に入らないんじゃない? この街のクエストを他の街に依頼したのも納得してないんじゃないかしら」


 ほー。

 そっか、そういう人もいるんだな。

 自分の街が好きならまぁそんな人がいてもおかしくはねーよな。

 っつー事はエレナも知らねーんじゃん。


「じゃあどうするんだ? 入る場所わかんねーとどうにもなんなくね? マンホールなんてこの世界で見た事ねーぞ」


「まんほーるって何よ。場所もわからないし困ったわね……」


 ナスカもカインもお手上げーみたいな仕草してるし。

 んー、どうしよっかな。

 この街の人なら知って…… いや、クエスト受けてる冒険者なら知ってるか。

 冬前で巨大化するからって言っても夏とかでも討伐依頼くらいはあるだろ。

 じゃなかったら夏場にアホ程増えてとんでもねー事になるだろうしな。




 オレはまた役所の中に戻って暇してる冒険者二人に声をかけた。


「なあ、アンタらは今暇してるんだよな? オレ達と一緒にアーヴァンク討伐に行かねーか?」


「はあ? 見ず知らずの冒険者と合同パー……」


「ちょっと!! ゴールドランク!?」


「おう。オレら地下水路の入り口知らねーし一緒に行かねーか?」


 こいつらは二人組のパーティーにしては結構ランク高いグリーンランク。

 ちょっと危ねーけどフォローすりゃ大丈夫だろ。


「一緒に行きたいけどランクが足りないんですよ。さすがに難易度8ともなると……」


「じゃあ地下水路の他のクエストねーの? 適当に受けて一緒に行こうぜー」


「あっ、それなら一緒に行ける! 結構報酬がいいウィルム討伐あったはず!」


「ウィルムって私達倒せる!?」


 倒せないのはダメなんじゃね?

 っつかウィルムってどんなのだろって覗いてみたら、蛇みてーな竜みてーななんかニョロっとしたやつっぽい。

 巨大蛇の頭が竜みてーな感じかな?

 ま、難易度も5だしそんな強くはねーだろ。




 地下水路の入り口は湖側の排水路からって事だけどそうそう見つからねーようなとこにあった。

 街の入り口側の端っこに湖に降りる梯子があってそこから降りるらしい。


 排水路から中を覗くと真っ暗だったけど、そこはやっぱ光の魔石があるから問題なし。

 ただ誰が持つかって事なんだけど、こんなとこで雷撃放ったら全員感電するからナスカに持ってもらう。


 やっぱ排水路だけあって臭え。

 ま、排水の中をザバザバ行くんじゃねーからまだいいけど、オレ達が歩いてるすぐ横には排水が流れてるわけだ。

 これで魔獣に襲われてドボンってなったら泣く。

 しばらく美味い飯は食えなくなるだろうな。

 とにかく排水に落ちるのだけは気をつけよ。




 一緒に行く事にした冒険者の二人はマノンとクララの女性二人のパーティーだ。

 ピンクの髪したダガー使いがマノンで水色の髪して両手剣持ってんのがクララ。

 見た目はそこそこ美人と言っていいんじゃねーかな?

 冒険者で女二人パーティーじゃ危ねー気もするけど、グリーンランクだしそこそこ強いから平気か。


 臭えけど気を紛らわす為に話しながら進んでく。

 たぶん役所側に向かってんだろなーとは思うけどよくわかんね。


 そうこうしてるうちに魔獣の目だな。

 めっちゃ光ってんのが六個ある。

「フゴォォォォオ!!」ってちょっと何の生き物かわかんねー鳴き声あげてこっちに向かってきた。

 カインが炎の矢で二匹、エレナが風の刃で一匹を瞬殺。

 オレの出番ねーけどまあいいや。

 マノンもクララもちょっとおもしれー顔してビビってた。

 んで倒した獲物を確認したら、オレ達が狙ってたアーヴァンクって魔獣がこれらしい。

 結構でけー…… 食肉用の豚くらいはあんのかな?

 色は灰色で前歯は20センチ以上もあるキモい奴だけど、この前歯でどうやって咀嚼すんのかね?

 嚙み切れるかもしんねーけどそのまま飲むのか?

 疑問ばっか浮かぶけどとりあえず臭え。

 魔石に還してまずオレ達のクエストは終了かとも思ったけど、まだいるだろうって事でまた奥に進む。


 今度出てきたのがもし一匹だったらマノン達に戦わせてやるかな。




 そっから五分くらい進んだら二匹いた。

 一匹はオレが受け持って爆破一発で仕留めてやった。

 爆発音がめっちゃ反響してたし、マノン達だけじゃなくアーヴァンクもビビってた。


 残り一匹は任せよう。

 でもこれがマノンとクララはなかなか強くて、二人で連携してアーヴァンクを結構あっさりと倒してた。

 クララがアーヴァンクの前脚切って、転がったところにマノンが首筋にダガー突き刺して終了。

 楽勝だったのはアーヴァンクが爆発音にビビって動きを止めてたのも大きいか。


 その後もマノン達が二匹、オレ達も二匹討伐してお終い。

 一応エレナのシルフに残りのアーヴァンクがいないか探させたけどこれで全部だったらしい。

 それでもまたどっかから沸いてくるんだろうけど。




 地下水路から出て深呼吸したけどやっぱ臭え。

 千尋から分けてもらった魔法の洗剤使って洗浄魔法を掛けてもらってから飯食う事にした。


 そこそこ稼げたはずだし肉と魚の一番高え料理を注文して食う。

 どっちの味付けもこの土地柄なのかちょっと甘辛い料理で、カルハともまたちょっと違ってこれもまた美味かった。




 役所でマノン達と一緒に報告したけどアーヴァンクだけしか討伐してねーんだよな。

 ウィルムは見当たらなかったって言ったら、たぶんアーヴァンクに食われたんだろうって事でクエスト未達じゃなく破棄って事で済まされた。

 未達だと失敗扱いで多少の罰金取られたらするらしいからな。

 オレはまだ経験ねーからあくまでもって事しか言えねーけど。


 マノン達はオレ達の報告もあってアーヴァンクを二人で倒せるって事で、結構ポイントもらえてた。

 この季節限定クエストみてーなやつは元々ポイントはあまり多くねーからな。

 今回はグリーンランクで難易度8のを倒したって事でポイント多かっただけ。

 あともうちょいでブルーランクなれるって喜んでた。


 あの場所の教えてくれねー職員さんも、オレらがマノン達と一緒に行くって言ってからは普通に接してくれるみてーだな。

 ちょっとめんどくせーけど気持ちはわからなくもない。




 クエスト終わってカルハに帰る前にトメット畑を見に行く。

 結構広い土地の全面が紫色になっててすげー綺麗だった。

 語彙力ねーから上手くは言えねーけど、濃い紫色の上に葉っぱの淡い紫色が映えて花みてーに見える。

 それとこの時期綺麗ってのは空の色も関係してんのかな?

 まだ日は高いから真っ青な空と地平線に近付くにつれて白んだ空になってる。

 そんで大地には濃い紫色と淡い紫色の花畑ってなってるからすっげー綺麗。

 夕方になれば空が赤くなってまた違った見え方するんだろうな。

 ま、オレは今の色合いが好きだけど。


 収穫してる農家のおっちゃんとおばちゃんに綺麗な畑だなって話しかけたらトメットもらえた。

 紫色の茄子みてーな見た目で、生で食えるっつーからそのまま食ってみた。

 きゅうりみてーな食感に酸味と甘みがあるちょっと不思議な味。

 そのまま食っても美味いけどサラダにしてドレッシング掛けて食うと美味そう。

 身も淡い紫色してるから彩りのいいサラダになりそうだしな。


 そんな感じで一時間くらいかな?

 トメット畑見てカルハに帰ろうかとも思ったけど一泊くらいしてくのも良いかもしんない。




 また役所に戻ってマノン達に宿を案内してくれるよう頼んだ。

 あと明日はこの街の観光すっからクエスト発注。

 これもマノン達に街の案内を依頼してみた。

 冒険者に観光案内を依頼する人は初めて見たって笑われたけどな。

 行った先々で友人作るのも楽しくていいだろ。

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