第23話 アマテラス現る
オレがアースガルドに来て三年くらいだな。
ゴールドランクパーティーとしてクイースト王国では知らない冒険者はいない程に有名になったオレ達。
ここデンゼルの冒険者はみんな強えからクエストもあまり無いし、役所にも暇つぶしと情報集めに来てるだけって事もよくある。
今日は簡単なクエストを終えて何となく情報を集めに来たんだけど、走って来たサーシャが興奮気味に捲し立てた。
「なんか王宮が魔族に襲撃されたって情報が流れてきましたよ! それを聖騎士長様と国王様、聖騎士様達と大魔導師様達に一人の冒険者が加わって、二十体もの魔族を倒したそうです!」
ん? なんか聞き慣れない言葉が混じってる。
「なぁサーシャ。魔族ってなんだ?」
「この国で確認されたのは初めての事ですが、人間よりも遥かに強い力を持つとされてるんです! 何百年も前の伝記には魔族の存在が記されてますが、数ヶ月前にザウス王国でも襲撃があったそうです!」
人間より遥かに強いか。
人間は魔獣を狩ってる側だからそれよりも強いって事だよな。
「ふーん。ちょっと戦ってみたかったなー」
アイスコーヒーを啜りながら暇つぶしになれば程度に考えてる。
「勇飛さんならそういうと思ってましたけどね! それとクイースト王国で発注されていた難易度10のクエストがですねぇ、たった四日で二つも達成されたそうなんです!」
おお! それはすげー!
「ほう。そのパーティー気になるな。会ってみたい」
やっぱナスカもそう思うよな。
強え奴ってのは気になるもんだ。
「ナスカはちょっと戦ってみたいんでしょ。最近は喧嘩売ってくる冒険者もいないしね」
「カインもエレナも会ってみたいだろう? 難易度10など私達でも余程準備をしないと挑まないクエストだぞ?」
難易度10クエスト……
どの魔獣もめちゃくちゃ強えからな。
オレ達四人掛かりで一体ずつ狩らねーと危険なレベルだ。
「そうよね。どれくらい強いか確かめてみたいわ」
クイースト王国行ったら会えんのかな?
今からじゃちょっと遅ーけど近々行ってみるか。
この日はいい情報をもらったなーくらいの気持ちで宿に帰った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
次の日。
朝からゴレンに行って、ちょっと筋トレしてから役所に向かった。
特に受けるようなクエストもねーから、またアイスコーヒーを飲みながらダラダラと話をしてたところに地鳴りのような音が聞こえてきた。
重低音に安定した挙動で鳴り響くこの音は…… エンジンの音に聞こえる。
音に驚いて役所から飛び出して行く奴もいるけど、オレらはここに座って待機。
喧嘩を売ってくる奴だったら堂々と待ち構えてた方がいいかなって思ってるだけだけど。
遠くから近付いてきたエンジン音は、この役所の前で停車したんだろう。
アイドリングが少し続く。
その後エンジン音が止んですぐに役所に入って来たのは…… 男女と子供一人の八人組か。
受付に進んでサーシャに声をかけてる。
「こんにちは。冒険者のミリーと言いますが、こちらにゴールドランクの冒険者さんはいらっしゃいますか?」
やっぱオレらに用があって来たみたいだな。
「はい、そちらに座っている勇飛さん達がデンゼルでは唯一のゴールドランクパーティーとなりますけど……」
サーシャもオレ達に手を向けながら答えてる。
全員でこっちを向いて、サーシャに話し掛けてた女が頭を下げてこっちに向かって来た。
「ってなんで私が先頭なんですか!? 千尋さんか蒼真さんがお願いしますよ!」
「だってリーダーはミリーじゃん」
「リーダー早く声をかけるんだ」
…… なんだこいつら。
リーダーはこの女か?
っつか全員美男美女揃いってなんだよ!
「こんにちは。私は何故かこのパーティーのリーダーをやらされているミリーです。デンゼルの街には強い冒険者さんがいると聞いて皆さんに会いに来ました」
リーダーのミリーか。
すっげー可愛いんだけどリーダーやらされてるってなんだ?
「ふむ。オレはこのパーティーのリーダーで勇飛だ。鈴谷勇飛、迷い人だ」
「おぉ! やっぱ地球の人なんだね! オレは姫野千尋。同じく迷い人だよ!」
「オレは高宮蒼真。迷い人だ」
「リゼ・フィオレンティーノよ。私も迷い人なの」
「同じく迷い人の緋咲朱王だ。よろしくね」
この四人はオレと同じ地球の奴ら!?
三年目にして初めて迷い人と会った!
やべぇ…… ちょっと泣きたい気分だ……
「クリムゾンゼス本部マネージャーのアイリです。よろしくお願いしますね」
クリムゾンのマネージャーか。
んん!?
さっき緋咲って言ってたって事は、この朱王って人はクリムゾンの総帥か!?
ちょっと目付きは鋭い感じあるけど優しそうじゃん。
ヴォッヂさんから聞いてたイメージとは違うな。
一応ナスカ達も挨拶して場所を酒場に移した。
迷い人って事だしいろいろ聞きたいしな。
酒場では四人づつしか座れねーからとりあえず代表してオレとナスカ、向こうは千尋と蒼真で向かい合って座る。
他は両隣の席に着いてもらった。
「勇飛、さんかな? 歳上に見えるし。いつアースガルドに来たの?」
「オレは三年前の十七歳の時にここデンゼルの街に転移してきた。千尋と蒼真は?」
「だいたい半年くらい前にザウス王国のアルテリアという街に転移してきた。オレ達は理科室の魔法陣が光り出したと思ったら転移されたんだが、勇飛さんはどんな感じだったんだ?」
「ん? オレは魔法陣なんてなかったぞ? 自転車乗ってて気付いたら草原で寝てたし」
「私はお客さんの髪をブローしてたら魔王の城の側に転移してたよ!」
魔王の城?
なんつーか聞いた限りじゃ悲惨だな。
「っつか魔王てなんだ? 最近魔族が王国を襲ったって話は聞いたけど魔王は初めて聞いたな」
なんか千尋と蒼真が朱王さんの顔を見たら頷いて話し出した。
ちょっと長かったけど簡単に言うと……
魔族ってのはオレ達人間族とは別に存在する戦闘能力の高い種族らしい。
数百年前にこの人間族の領地に魔族の集団が戦争を仕掛けてきてたらしいんだけど、魔族の強さは圧倒的で人間族はただただ蹂躙されてたみたいだ。
そんでその魔族の中にもめちゃくちゃ強い四人の大王ってのがいて、一人の魔族がその四人とも倒して魔王になったらしい。
その魔王が命令して、人間族への干渉や殺害を禁じて今に至るって事らしい。
説明を受けたけど魔族を見た事ねーしピンとこねーな。
けどここはわかったフリしといた方が賢そう。
「なるほどな。先代魔王すげーじゃん。で、今後は魔族が人間の国を襲う可能性があるって事だよな。けどオレ達はこの辺じゃ最強とか呼ばれてるけど、難易度10のクエストだと結構苦戦するんだよな。魔族相手だとキツいかもしれねーなぁ」
魔族の強さはわかんねーけど、たぶん難易度10クラスの魔獣と同じかそれ以上だろ。
それだとオレ達は勝てねーかもな。
「先日クイースト王国の役所で難易度10のクエストを複数達成したのは貴方達か?」
ナスカが質問したけどオレも気になってた。
「蒼真とアイリとミリーの三人だよね? オレと朱王さんが魔剣作りしてる間でしょ?」
んん? 魔剣?
「ああ。どの魔獣も数が多かったからなかなか良かった」
数が多かったからなかなか良かった!?
難易度10のクエストだよな!?
「我も一回行ったんじゃがのぉ」
はぁ!?
このチビっ子まで行ったのかよ!
しかしこのチビっ子…… 朱王さんとそっくりじゃね?
「んー、めっちゃ似てるけど朱王さんの子か?」
「私の契約している精霊だよ。元の姿だと大き過ぎるから人型をしてもらってるんだ」
「朱王さん精霊魔術師か! 刀持ってるのに精霊魔術師とかなれるんだな」
「全員精霊魔導師だけどねー」
「「「「全員!?」」」」
うおっ!?
精霊がめっちゃいる!?
全員の武器から精霊出てきて驚いたし。
「朱王さん、勇飛さん達に魔族の話しちゃったけど……」
「そうだね。彼らにも精霊魔導師になってもらおうか」
「そしてオレと少し戦ってくれると嬉しい」
いや、あの…… こいつらほんと何言ってんの?
その後なんか言われるままにオレ達の武器渡したり属性決めたりしてるうちに、いつの間にやら全員精霊魔導師になってたっていう……
どうなってんだ!?
びっくりしたわ!
そのうえミリーはオレと同じヒーラーの冒険者で、可愛いうえに喋ってみるとおもしれぇ。
超オレ好みって思ったんだけど朱王さんの恋人らしい。
ちょっとショックだけど仕方がない。
まあそんなわけで精霊魔法やら精霊魔導やらを試しに放ってみたらびびったね。
下級魔法陣を発動しての精霊魔導でさえ、オレ達のっつかカインの最強技より威力が高い。
試しに上級魔法陣での精霊魔導は魔力をごっそり持ってかれたけどあれはヤバい。
あれはヤバイぞ。
大事な事だから二回言うくらいヤバい。
三回言ったけどなんだあれ?
ナスカは大魔導師の雷帝ネオンの雷魔法を見てからオレの説明もあって今では雷魔法の使い手なんだけど、千尋達に強化されたダガーでの精霊魔導は本物の雷と大差なかった。
エレナの風魔法も強化された武器での精霊魔導は洒落にならん。
左逆袈裟に振り上げた剣から風の刃が吹き荒れる竜巻になるとかなにそれ?
カインのサラマンダーはそのままだけど、強化された弓ってのはまたすげーのな。
サラマンダーは一回り大きくなったみたいだし、下級魔法陣だけでもミスリル矢なしでも以前の最強技より威力がある。
上級魔法陣発動したら十数メートルに渡って地面が溶けたぞ。
どんだけの熱量があるんだよ!
最後にオレの爆破魔法。
ミリーは爆裂魔法って言ってたけどな。
両腕に顕現したサラマンダーだけど熱くはない。
拳を握りしめて全力で地面をぶん殴ったら、以前の倍近い威力はありそうな破壊力。
ついでに地面から火が燃え上がるし。
下級魔法陣を発動してみたらサラマンダーがデカくなるし威力もまた倍近くなった。
これ連続で打ちまくったら爆撃みてーになりそうだ。
すっげー怖えけど上級魔法陣を発動しての精霊魔導を放ってみた。
精霊からのイメージで何となく遠距離技っぽいのか流れ込んできたから両手を前に突き出して放ってみた。
まさかの両手からサラマンダーのブレスとしての爆裂弾。
遠くでとんでもない威力の爆発が起こった。
オレ達全員顔が引きつったし……
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