第21話 祝勝会

 ヴォッヂさんと殴り合った後に飯を食いに行った。

 昨日と同じ店、同じメニューをオレは食ったんだけどすっげー美味かった。

 店員の対応もなんか違うし、昨日のオレはどんな顔してたんだ…… ちょっと恥ずかしい。




 その後は魔法医院行って昨日目を覚ました奴らのとこに顔出したんだけど、今朝退院してデンゼルに帰ったらしい。

 傷は回復してるしあとは精神面だけだろうって担当医師は言ってた。




 オレ達は明日デンゼルに帰る予定だし、役所にも一回挨拶しておこうと向かった。


「おっす! ミッキー数日振りだな!」


「勇…… 飛…… 様!?」


「「「勇飛様!!」」」


 うおっ、なんだこいつら!?

 フレデリカは様付けで呼んでたからわかるけどミッシェル達までオレを様付けで呼びやがる。

 ちょっと怖えよ。


「なんでお前ら全員でオレを様付けするんだ!?」


「私達所長にお願いして記録の魔石を見せてもらったんです。月華と仲が良いならって事で私達だけ!」


「最重要記録扱いだからってすぐ王宮に返却されたんだけどな。王宮の使者が複数来たから記録の魔石かもって所長に頼み込んだんだ」


「私達も見たかったな」


 見たかったと言うナスカと頷くカイン、エレナ。

 オレはちょっと見たくないかも…… 無様に這いつくばったりしたしな。


「もう震え上がったわよ! あんな化け物を相手に一人で挑む勇飛様! 凄くかっこよかったもの!」


 あの時は必死だったからな……


「最高にかっこよかったな! 敵の傷をひたすら抉り続けるあの勇ましさ! 感動したぞ!」


 なんかそれだけ聞くと卑怯じゃね!?


「私は涙が止まらなかった。化け物を倒した後に、体を引き摺りながらも他の冒険者を救おうとしてた。魔力が尽きてなおも回復しようとする姿…… 私は勇飛様を尊敬します!」


 あの…… それは覚えてないんだよね……


「私も涙が止まりませんでした。一度倒れた後、嘔吐しながら血と涙を流して立ち上がった勇飛様…… 必死なお姿にもう涙が……」


「あの、もうやめてくんない!? 確かにゲロったけど! 確かに血もダラダラだったけど! オレ泣いてた!?」


「「「「はい(ああ)⦅うん⦆」」」」


 ぐほっ!!

 超恥ずかしいんですけど!!


「是非とも見たいね!」


「本人達だし王宮に申し出れば見せてもらえるはずよ」


 全然見なくていいんだけど……


 その後もミッキーメンバーとダラダラと話をしてから、明日デンゼルに向かう事を受付に告げて宿に戻った。






 翌朝。

 宿を出る前に役所の職員がやって来て、オレ達はゴールドランク昇格する事が伝えられた。

 本来であればゴールドランクになる為には聖騎士による審査があるらしいのだが、特別にオレ達の場合は免除される事になった。

 今回のオーク・ギガンテス討伐の記録から充分な能力があると認められたそうだ。

 それもクイースト王国初となる、国王様直々の指示との事。

 なんというか…… 今度会ったら非礼を詫びる事にしよう。


 弁当を買ってまた丸一日かけてデンゼルに帰った。






 夕方にはデンゼルの街に着いたけど、冒険者や街人総出で復興作業が進められていた。

 オレとあの化け物が破壊した家が多いからな。

 悪気はないけど申し訳ない気分になる。

 オレ達も手伝うつもりだがまずは役所に顔出さねーとな。




 役所はまだ修理前のようでボロボロだ。

 オーク共が木で殴りつけたような跡がたくさん付いてる。

 それにここで倒れた冒険者のもんだろう、血の跡が今もまだ残ってる。

 死んだ奴らの事を思うと辛いが、ヴォッヂさんに言われたしな。

 あいつらは誇りを持って逝ったんだ。


 役所の扉を開けて中に入る。


「よっ! 帰って来たぜ!」


「「「「「勇飛 (さん)!!」」」」」


 役所の職員達が一斉に声をあげた。

 もちろんサーシャやマーク、モーリスもだ。

 所長を呼んできます! と奥へと駆け出したサーシャは涙を流してた。

 心配かけたんだろーな。

 おいおい、マークとモーリスまで涙流してる…… ちょっと勘弁してくれよ!

 ちょっと焦って振り返ったら首を傾げるカイン。


「あの化け物相手に一人で挑んだ君が死にかけてたんだ。誰だって心配するでしょ。あの朝、誰よりも傷を負ってたのは君なんだから」


 まあそりゃ心配するかもな。

 そういやエルリーとマルロも魔力が尽きるまでオレの回復をしてくれたらしいな。

 あとで礼を言いに行かないとだ。


「勇飛君!!」


「おっす、ファジー所長。ただいまー」


 って軽く挨拶したらファジー所長が跪いた。


「月華の竜の皆様。此度のオーク侵略につき、オーク・ギガンテス討伐他、多大なる貢献をして頂き心より感謝します。デンゼルを代表してお礼の言葉とさせて頂きます」


「あ、ああ。でも今回……」


 言いかけたところでファジーに遮られた。


「君達にオーク・ギガンテス討伐の依頼は出したが場所の指定はしていない。調査を頼んだのも私の方だ。この街が襲われた事自体は君達のせいではないよ」


「でももし発見できてれば……」


「君達だけで勝てたのかい? オーク・ギガンテスだけではない。オーク三百五十体を相手にしながらあの化け物に勝利できたのかい? もし発見できたとして君達が負けてしまっていたら? 確実にこの街の全ての人が死んでいただろう」


 何も言い返せない。

 もし発見してあの化け物に挑んでいたら…… 確実に全員死んでる。

 無傷のあの化け物に挑んでもオレは勝てない。

 オークの群れを相手にしながらあの化け物と戦っては勝てるはずがない。


「君達は実際にこの街を救ってくれた。街にいる冒険者達が街人を守ってくれた。私達役所の者も街の者も誰もがこのデンゼルの冒険者達に感謝しているよ」


 そうだな。オレがあの化け物を倒せたのはナスカやエレナ、カインの魔導のおかげだし、オークを倒してくれた街のみんなのおかげだ。


「よし! 街の復興作業は何時に終わるんだ?」


「十七時には終わりますよ」


「じゃあサーシャ。今夜はオレ達の奢りで祝勝会をやるぞ! やったか? 祝勝会!」


「やってません! 冒険者の皆さんに伝えて来ますね!」


 サーシャとマークが街で作業してる冒険者達に伝えに走って行った。


「それとこの戦いで亡くなった人達を弔いたいんだけど……」


「それなら近々慰霊碑を建てる場所があるよ。冒険者達の剣を納めてある。そこでいいかい?」


「ああ。剣があるならそこがいい。彼らの誇りだろうからな」


 慰霊碑建てる予定の場所に案内してもらおうとしたら、オルンが役所に飛び込んで来た。

 たしかこいつがあの化け物の最初の発見者だったよな。

 オレ達が弔いに行くって言ったら冒険者全員で行こうって事になってみんなが来るのを待つ事にした。




 役所の裏手、少し盛り上がった小高い丘の上に暫時で置かれた石碑があった。

 地面には掘られた跡があり、その下に剣や武器が埋められているのだろう。


 全員で片膝をついて祈りを捧げる。


 亡くなった冒険者は二十一人。

 嗚咽を漏らす者も少なくない。

 知ってる奴らがこんなにも多く亡くなったんだ、悲しくないはずがないだろう。


 だが街の人達は全員無事だった。

 今生きているオレ達だけじゃない、死んでいったお前らがいてくれたから街の人達は無事だったんだ。


 オレはお前らと戦えた事を誇りに思う。




 その後酒場へと移動したオレ達は、自分の好きな酒を注文して美味い料理を大量に注文した。

 まずは所長の挨拶からって事で任せてみた。


「冒険者の皆さん! この度の戦い、お疲れ様でした! この歴史上において、これ程辛い戦い、これ程苦しい戦いはこれまであったでしょうか!? 我々も多大な犠牲を伴いながら、なんとかこの危機を乗り越える事ができました。こうして祝勝会ができるのも皆さんのおかげです! 役所所長として皆さんにお礼の言葉を述べます。ありがとう!!」


 盛大な拍手が巻き起こり、ファジーに促されてオレも挨拶する事になった。

 乾杯すりゃいいんだろうけどオレもなんか言うべきだろう。


「みんな、辛い戦いだったな。死んだ仲間も大勢いる。悲しいし悔しい気持ちもある。でもオレ達は勝った!!」


「「「「「「おぉお!!」」」」」


「あの死ぬかもしれねーギリギリの戦いで生き延びた。勝ったんだよ!!」


「「「「「「うおぉお!! 勝った!!」」」」」


「オレ達全員で掴んだ勝利だ!! 喜べ!! 叫べ!! 今日ある自分を誇れぇぇぇえ!!」


「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!」」」」」


「勝利を祝ってー!! 乾ぱぁぁぁい!!」


「「「「「乾ぱぁぁぁい!!」」」」」


 思いっきり叫んでエールを一気飲み。

 全員一気に飲み干してコップをテーブルに打ち付ける。

 目一杯叫んで勝利を喜ぶ冒険者達。

 そして同時に涙を流す者もいた。


 料理に齧り付いて酒を煽る。

 今日は限界まで飲んでやる。

 死の悲しみも、勝利の喜びも全部まとめて酒で呑み込め!


 マイナとランスロットのパーティーは涙を流しながら酒を煽ってる。

 オレなんかよりもっとずっと悲しいはずだ。

 それでも前に進む為、あぁして涙を流しながらも辛さを噛み締めてる。


 オレが何言ったところであいつらを救ってやる事はできねーけど、向こうから声を掛けられた。

 回復してくれてありがとうだと……

 これからは死んでいった仲間の為にも強く生きるんだって涙を流しながら言ってた。

 だから言ってやった。


「お前ら強く生きようとする者同士でパーティー組んでみたらどうだ?」


 言ってから軽率だったかと気付いたけど杞憂に終わった。

 なんか言い争いみたいに自分達の仲間の事を話したと思ったら、絶対死ぬなよとか言ってパーティーを組む事になったみたい。

 ぶつかる事もあるだろうけど、これまで以上に仲間を大切にするだろうし大丈夫じゃねーかな。


 途中で顔を出したのは武器屋ゴレンのおやじ、ナッシュだ。

 このハゲ頭も生きて会えるとやっぱ嬉しいもんだ。

 こいつと酒を飲むのは初めてだが、一緒に飲み交わしながら今後の筋トレについて話し合った。

 他の冒険者連中も、オレがナッシュのところで体を鍛えてるって言ったら自分達も通うって言い出した。

 体を鍛えるのはいい事だしナッシュも嬉しそうだ。




 祝勝会は日が変わるまで続き、明日からもまた復興作業があるっつー事で解散になった。




 最後に。

 店の一番いい酒を譲ってもらって慰霊碑のとこにまた行った。

 暫時の石碑だがまあいいだろう。

 その酒を一瓶残して全部かけ、最後にその一瓶をオレ達四人で回し飲みした。


 美味い酒なんだろうけどなんでだろうな。

 ここで飲む酒はしょっぱいな……

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