第17話 化け物

 デンゼルへ帰って来た翌日、役所にて。


「で、ファジーさん。オレ達を呼び戻してまでの依頼ってなんなんだ? サーシャからは場所がわからないから緊急性はないって聞いてるが」


 役所所長のファジーは王国の役所を通してオレ達に指名依頼を出してきた。

 ここデンゼルにはパープルランクやブルーランクといった強い冒険者達もいるんだけどな。

 シルバーランクのオレ達を呼び戻すとなるとかなりの強敵が予想される。


「わざわざ戻って来てもらってすまないね。君達は冒険者のオルンを知っているだろう? 彼のパーティーから先週南部の山中で巨大な魔獣を目撃したとの情報を得てね。ここデンゼルに危機が迫っている可能性があると判断して君達を呼んだんだ」


 オルンのとこはグリーンランクのパーティーだ。

 オレが以前あの山のオークを殲滅してからは定期的に討伐依頼が出されてるからな。

 たぶんオーク狩りのクエストだろう。

 しかしちょっとくらいデカい魔獣がいたところでアイツら負けねーだろ。

 それなのに報告だけしてきたとなれば相当危険な魔獣か、見た事もない魔獣か……


「その魔獣の特徴は?」


「オークに似た人型の化け物との事だ。オルン達の話だとその化け物はオークだけでなく他の魔獣も捕まえて食っていたらしい。身長はおよそ7、8メートルで筋肉質。難易度なら10に達するかもしれないと言うが実際はわからない」


 オークの亜種か?

 身長7、8メートルっつったら…… 

 え? めちゃくちゃデカくね?

 それに難易度10かもしれないのか……


「もし難易度10クラスの魔獣だとしたらゴールドランク冒険者じゃないと戦えないんじゃないのか?」


「確認も取れていない状況でゴールドランク冒険者を呼ぶ事は出来ないからね。彼等の強さは本物だがとても慎重な者が多いし、情報が曖昧だと断られる可能性もあるんだ」


「強敵相手に生き残ってる連中だからな。慎重なのは当然か。で? オレ達への依頼はなんだ?」


「…… その化け物を討伐して欲しい」


「ん? オレ達シルバーだぞ?」


「君達の功績を見ればゴールドランク冒険者をも凌ぐ程だ。もし仮に君達で勝てないとすればゴールドランク冒険者に依頼しても勝ち目はないと考えている」


「随分と買ってくれているみたいだがオレ達は冒険者だ。そんな訳のわからん魔獣と戦うのは御免だね」


 こっちも命懸けの仕事だ。

 リーダーとして仲間を危険に晒すわけにはいかない。


「報酬は倍支払おう。以前王国で発注された難易度10クエストの報酬の二倍で受けてくれないか」


 よーーーーーっっっし!!

 高額報酬きたーーーーー!!

 でもここで受けるって言ったらリーダーとしてどうなんだ?

 いいのか、いいのかな!?

 受けたい!

 けどすげー危険だし……

 でも受けたい!


 ナスカとカイン、エレナを順番に見た。


「勇飛に任せる」


「受けたいんでしょ?」


「顔に出てるわよ」


 おふっ…… 顔に出てたのか……


「じゃあ受けさせてもらうわ。でも場所は? オルン達が見たのは南部の山中なんだろ? そこじゃねーのか?」


「我々役所でも調査団を派遣して向かわせたんだ。しかしその化け物は見つからなくてね。調査も含めて討伐を依頼したい」


「オッケー。ただもし勝ち目がなさそうならデンゼルも危険だよな。その調査団の奴一人オレ達に付けてくれ。ヤバそうならそいつに報告させる」


「わかった。モーリスを同行させるからよろしく頼む」


 とりあえず役所の指名依頼を受注して、所長からはモーリスにオレ達との同行を告げられた。





 役所から出て今日から調査に行くんだけどまずは挨拶だ。

 全員自己紹介してオレとモーリスはとりあえず握手。

 危険な任務だしオレがモーリスを信用する意味も込めて握手をしてみた。

 そんでこのモーリスは見た目優しそうな普通のおっさん。

 普段は書類仕事をしている職員さんなんだけどブルーランク冒険者並みには戦えるらしい。

 役所の人間結構すげーじゃんって思ったら元は冒険者なんだと。

 結婚して危険な仕事から引退してくれって奥さんに言われて役所の職員になったそうだ。

 そんな人もやっぱ多いんだろうな。

 冒険者ってのは若い奴が多いし、子連れの冒険者なんて見た事がない。

 毎日家に帰って奥さんの作る美味い飯食って、二人の子供と遊んでるのが幸せなんだって言ってた。

 魔獣のいるこの世界だけど平和だねーって思う。




 弁当屋のおばちゃんと挨拶交わして五人分の弁当買ったら出発だ。


「モーリスは基本的戦わなくていいけど自分の身はしっかり守れよ! 奥さんに恨まれたくねーからな!」


「勇飛君はヒーラーなんだろう? もし怪我した時はよろしくね」


「いや、怪我すんなよ」


 モーリスは結構話しやすくて助かる。

 うちのパーティーは皆んなオレにツッこんでくるからな……

 ボケてもないのにツッこんでくるのはなんでだろ。




 南部の山中を調査に向かったけどオークの一体も見つからなかった。

 それどころかここに来るまで魔獣が一体もいなかった。


「どういう事だ? 何もいねーじゃん」


「その化け物というのが全部食べちゃったのかな?」


「前回調査に来た時も魔獣一体もいなかったんだ。最近では東方面も魔獣がいないって言う冒険者もいたからね」


 ふむ。

 餌を求めてそっちに流れたのか?


「じゃあ東に向かってみるか」


「慎重にね」


 この日、東にも行ってみたけど化け物オークは見つからなかった。






 それから五日程調査したけど痕跡すら見つからず。

 それどころか南から東、北と調査したけど魔獣もほとんど見かけないっていう異常な状況。

 西は王国から帰って来た時に見て来てるからたぶんあっちも同じ状況だろ。

 なんだこれ。

 超一流冒険者がいてもこんな魔獣がいない状況なんて作れるもんじゃねーぞ。

 食肉用に狩りに行くカトブレパスすら見かけない。

 このままじゃオレの食べる肉まで無くなっちまうじゃねーか!


 だが待てよ。

 もしかしてその化け物ってのから逃げるか隠れるかして魔獣が出て来ない可能性もある。

 オレらは人間だから臭いにそれ程敏感じゃねーしな。

 もしかしたらなんかあるのかも。


 また今日も収穫なしにデンゼルに帰る事にした。






 デンゼルに帰ると逃げ惑う人々と戦闘と思われる金属音と破砕音。

 明らかに異常事態。

 破壊された家もあるが、その家の屋根の上に見える巨大な魔獣の姿。

 オレ達が探してた化け物。

 オークのような超巨大な魔獣だ。


「何故街に!?」


「この事態は予想してなかった! お前ら連携してあれを抑えてくれ! カインは屋根から二人の援護を頼む! オレは怪我人の回復する!」


「あんなの戦えるのか!?」


「私が足元に切り込むからナスカも屋根から行って!」


「モーリスは家族のとこ行け! 安全を確認したら役所に戻って来てくれ!」


「すまない! 死なないでくれよ!!」


 ナスカとカインは屋根を駆け上がって化け物に向かって行った。

 エレナとオレは下から役所前の広場に向かった。


 役所前広場には冒険者達に丸太を叩き付ける巨大な化け物と、大量のオークの群れが蠢いていた。

 役所前で防衛している冒険者達も、10メートル近い高さから振り下ろされる丸太には耐えきれない。

 戦いに慣れてないランクの低い奴から順に倒れていってるみたいだ。


 何人かは死んでるな…… クソ……


 エレナが足元から切り込んで化け物を引き付ける。

 足元に視線を向けさせてカインが目を狙って炎の矢を射る。

 矢を防ぐ為に顔を腕で覆ったところにナスカが背後からダガーを突き刺し炎を放出した。


 よし、注意が逸れた。


「おい! お前ら怪我人引き摺って役所の裏口から運び込め! 運び込んだらこのオーク共の相手を頼む!」


「勇飛が来た!」


「勇飛さん!」


「仲間を助けてくれぇ!!」


「ああ! 死んでなけりゃなんとかなる! 道開けるから全員運べ!」


「「「「「わかった(はい)!!」」」」」


 とりあえず役所に群がってるオーク共が邪魔だ。

 道開けるのとこいつらの負担減らす為にも削ってやる!


 役所側に向かってるオークの後頭部をぶん殴って爆破。

 オレに気付いてこっち向いた奴を片っ端からぶん殴る。

 蹴りでも爆破して全力でぶっ飛ばす。


 道が開いたところを冒険者達が怪我人を連れて運び込む。

 あとはあいつら戻ってくるまでオレが数を減らしておけばいい。

 オークの数はざっと見ても二百体を超える。

 オレなら一人でも狩れるけどナスカの話じゃ並みの冒険者じゃ合同パーティーでも不可能らしい。

 そんなら出来るだけ数減らさねーと……


 両手足使って全力でぶっ飛ばしてやった。

 こんなに全力で戦ったのなんて初めてだな……


「お前ら! 怪我人は!?」


「三人だ! さっき役所の中に入れた!」


 役所の正面でオークと戦ってる冒険者に声を掛けた。

 ここには三十人はいるし耐えきれるだろう。

 あいつら戻って来るまでにもう五十は減らしたいところだ。




 その後も片っ端からぶん殴ってオークの群れを蹂躙した。

 オーク相手ならオレの魔法で無双できるからな。


「勇飛さん、代わります!」


「皆んなを頼む!」


「勇飛! ここは任せろ!」


「お前ら、死ぬなよ! あとで奢ってやるからよ!」


「美味い酒を頼む!」


 ちょっと数を見誤ったかも……

 百体以上倒したはずだけどまだ百体以上残ってる。

 でも冒険者の数も五十人は居るしなんとかいけるか。




 役所に入る前にナスカ達の様子を見る。

 最も危険な足元にいるエレナに注意が向かないようにカインが目を狙って炎の矢を放ってる。

 ナスカも軽やかにヒットアンドアウェイで上手くダメージを与えてるみたいだ。

 下手に決めようとしなきゃいいけどな……

 牽制しとけば時間稼げるしオレが来るまでは待ってほしいな。




 役所に入るとやっは血の臭いがすげぇ。

 街の人達を掻き分けて怪我人のとこに行く。

 魔法医もいるだろうけどオレの回復の方が早いからな。


「エルリー、怪我の酷い奴はいるか!? そいつから回復する!」


「おお! 勇飛君か! すまない、頼めるか!?」


「マイナとランスロットが危ないんだ!」


 マイナとランスロットって今魔法医が回復してる二人か。

 血を吐き出してるし内臓が破裂してそうだ。

 オレの回復でもそう簡単に治んねぇな……


「悪い、オレにその回復魔力貸してくんねーか?」


「構わんが何をするつもりだ!?」


「貸すといってもどうする!?」


「オレの手の甲に魔力を流し込んでくれ。オレの回復魔法に魔力を上乗せしたい」


「「わかった」」


 まずはランスロットから。

 マイナも回復を中断するとヤバいけどランスロットの方が酷い。

 全快しなくても命を繋げるとこまでは回復を終わらせねーと。


 周りがうるせーけど集中して回復魔法をかける。

 うん、狙い通りオレの回復に魔力のブーストが出来てる。

 魔力がもっと欲しいとこだけど他の奴の魔力じゃオレは使えないだろうしな……




 五分。

 これ以上はマイナが危ない。


「エルリー、マイナに回復魔法をかけてくれるか?」


「ああ、任せてくれ」


 ランスロットもだいぶ顔色が良くなってきたけど、まだオレの流し込んだ魔力が変な流れをするからな。

 たぶんまだ臓器が再生できてない。

 早く回復してくれ…… !




 十五分。

 ようやくランスロットに流れる魔力がそこそこ安定するようになった。

 たぶん内臓のダメージは残ってるけど再生は出来てるはずだ。


「次! マイナの回復をする! あんた名前は?」


「マルロだ。これ程の回復術師を始めて見たぞ」


「オレは戦闘するから魔力の放出量が多いんだ。あと迷い人だからイメージ力も高い。オレの命の恩人はそこのエルリーだけどな!」


「勇飛! 終わったんならこっち早くしろ!」


「悪いな」


 マイナの回復を始める。

 オレの回復に二人分の魔力を追加するとやっぱ回復は早え。




 マイナの方は十分程度でランスロットと同程度まで回復出来たしこれで大丈夫だろう。


「オレは外の魔獣倒して来るからあとは頼んだぞ!」


「勇飛! 怪我したら治してやるからな」


「あはっ。 そん時は頼むよ」


「気を付けてな」




 また街の人達の間を抜けて裏口から出る。

 背中をパンパン叩かれながら応援の言葉もいっぱいもらった。


「行ってくる」


 皆んなに手を振ってオレは外へと飛び出した。

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