第5話 防具
毎日クエストを受けて筋トレに向かうという日々を過ごし、サーシャとの買い物の日までに120万リラを稼いだ。
現在170万ほど持っている。
サーシャとの待ち合わせ場所は役所。
防具を買いに行った後にオレの戦闘が見たいと言うが、理由はオレの稼ぎが異常なほど多い事らしい。
討伐していないとは思わないが、ヒーラーという魔力の為無理な戦闘をして回復しながら戦っているのではないかという心配があるからとの事。
あれからオレの功績を認めれば、すでにグリーンランクに達していても良いらしい。
サーシャの判断で防具を買うまではとあえてイエローランクのままにしてある。
しかしオレはクエストに行くと難易度の高いモンスターも倒している。
普通の冒険者は難易度の高そうなモンスターとは戦わずに隠れたり逃げたりするものらしい。
モンスターを見てもそれが強いモンスターかどうか区別がつかないし、とりあえず殴ってみてから考える。
その際に怪我でもしているのではないかとサーシャは心配しているようだ。
「まずは防具です! ユーヒさんはモンスターを充分倒せる強さがありますので、守りをしっかり固めてもらえればランクを上げても良いと思います」
拳をギュッと握り締めて言うサーシャ。
「まぁ防具は動き易いのならなんでも良いや。武器はナックル買うつもりだからモンクになるな」
「モンクですか…… あれは筋肉の塊みたいな人がやるものですよ。ユーヒさんなんて…… あれ?」
ペチペチとオレの体を確認するサーシャ。
「一応毎日鍛えてるよ」
「すっごい鍛えてあるじゃないですか! あんなヒョロヒョロと棒みたいだったのに!」
酷い言われようだ。
確かに最初この世界に来た頃は細マッチョどころかただの痩せた体つきだったのだが、今はちょっとした格闘家みたいな体型をしている。
身長は175センチで体重が55キロしかなかったが、今は60キロ以上はあるんじゃないだろうか。
サーシャが選んでくれるクエストも昼過ぎには終わるし、一日五時間の筋トレを休憩無しでやっていた。
限界まで負荷をかけて、ひたすら筋肉と体力の回復を繰り返す。
毎日筋トレ中に腹が減るのは全て筋肉になっているのかもしれない。
ナッシュに用意してもらった大量の干し肉を食べながら筋トレをしている。
「まだ数日しか経ってないのにこんなに人は変わるもんですかね」
「実際変わったから変わるんじゃないか?」
とりあえずクエストを受注する事にした。
サーシャが選んだのはリザードマン討伐クエストだ。
クエスト内容::リザードマン討伐
場所:デンゼル南部街道
報酬:一体につき10,000リラ
注意事項:
報告手段:魔石を回収
難易度:3
「この辺はコボルトなども居ますから注意して下さい」
「ん? 犬か?」
「ワーウルフが武器を持ったようなモンスターです。強いモンスターですので囲まれたら危ないですよ!」
「今日は防具も買うし平気だろ」
防具屋に到着して選ぶのだが、まずは色をどうしようか。
ヒーラーなら白系がいいだろうかなどと考えながら見て回る。
「モンクならこれなんかどうですか?」
サーシャが手に持つのは白い袴と、黄緑色に金の装飾の入った腰布だ。
「緑系は好きだから悪くはないな」
「これはどちらも耐火繊維で作られているので良いと思います。防具の布素材は耐刃効果もありますので強度も高いです」
「下半身は燃やされると困るしな。丸出しじゃ戦い難い」
「その意味合いも強いと思います」
「そ、そーなんだ……」
上半身は黒に金の装飾が入った道衣を選んだ。
体に密着するようなタイトなもので、肩からは布がない。
こちらも耐火繊維でできている。
ついでに黒いグローブも購入した。
耐火繊維でできているが、手の甲に金属が仕込まれている為防御もできるようだ。
ブーツは鋼鉄製の脛当てが付いたものを選択。
防具はこれだけみたいだし、黒と金の装飾品をいろいろと買い込む。左右に腕輪と、腰布の下にも装飾品を複数ぶら下げる。
試着して気に入ったのでそのまま支払いを済ませた。
総額42万リラ。
結構な高額となったが防御力はそんなに上がってないかもな。
「じゃあ行こうか。終わったら昼飯にするけど平気か?」
「はい、そんなに遠くないので大丈夫です」
サーシャに案内されて南門へ向かう。
南門から出て街道を進んでいくと、林の中からリザードマンが現れる。
道行く人を待ち伏せしていたのだろう。
ぞろぞろと八体ほど出てきた。
「うわわ。たくさん出てきましたけど平気ですか?」
「ああ。少し待っててくれ」
魔力を左右の手から放出してリザードマンに近付いていく。
一斉に向かってくるリザードマンに怯むことなく殴りかかる。
連続した爆発音がこだまし、次々と肉片を飛び散らせたリザードマンが転がっていく。
一分程度で八体を倒した。
しかし爆発音は林の中にも響いていたのだろう。
さらにリザードマンが集まって来る。
倒しても倒しても集まるリザードマンを片っ端から殴り倒していく。
全て倒しきる頃には死体の山が積み上がっていた。
一体ずつ魔石に還して回収していくが、とても面倒なのでサーシャにも手伝ってもらった。
「もしかしていつもこんな感じでモンスターが集まってくるんですか?」
「そうなんだよ。一体倒すと倒しきるまでずっと出てくるんだ。なんでだろうな?」
「…… 爆発音が大きいからですよ。それにしても何体倒したんですか?」
「えーと…… 四十一体だな。防具代は稼げたけどもう少し稼ぎたいな」
「ま、まだやるんですか? もういないんじゃないですかね?」
少し呆れ顔をするサーシャ。
「先に進んでみよう。何かいるかもしれないし」
「コボルトが大量に出るはずですよ。さっきの思い返してみてください。絶対に集まってきますから!」
構わず先へ進む。
サーシャも慌てて付いてくる。
歩く事二十分程。
「囲まれたな」
「囲まれてますね」
目の前に現れたのはコボルト。背後にも取り囲むように複数いる。
見える範囲でも十体以上。
「じゃあ離れるなよ?」
「こ、怖いんですけど!」
襲いくるコボルトの攻撃を爆破で弾き、顔面を爆破して吹っ飛ばす。
サーシャへの攻撃を注意しながらコボルトを殴り飛ばす。
四体倒したところで少し考え込む。
「ちょ、ちょっと! ユーヒさん? 何考え込んでるんですか? 今ピンチなんですよ?」
「いやぁ、手数が足りないと思ってな」
目の前に立つコボルトの首を蹴り飛ばすと同時に爆破する。
「よしよし、足でもイケるな!」
両手足を武器としてコボルトを相手に無双する。
やはり爆発音がモンスターを呼び寄せるらしく、次々と集まってくる。
数の暴力を物ともせず、息も切らさずコボルトを殲滅し、コボルトの死体を魔石に還して回収を始める。
「よし、これなら結構な金額稼げただろ」
「私にはユーヒさんが化け物に見えますよ」
顔を引攣らせて手伝うサーシャ。
サーシャのこの表情も見慣れてきたな……
コボルトの魔石は三十三個集まった。
「コボルトって報酬いくらだ?」
「一体で3万リラです」
「99万リラか。リザードマンと合わせて140万リラ。結構な稼ぎになったな」
「私の給料の3倍以上ですよ……」
ガクッと項垂れるサーシャだった。
街へ戻って昼食を食べる。
今日は稼ぎがいいので高級なものを食べようという事で焼肉を食べられる店に入った。
普段食べている肉とは全く違う、柔らかくてほんのり甘さのある肉だった。
タレはこの世界の味付けだが、塩辛さが強めで甘さなどはない為、肉の甘さとタレの塩辛さが絶妙でとても美味しかった。
オレとサーシャ二人で食べて、総額4万3千リラ。
普段世話になっているのでオレのおごりとした。
役所へ戻って報告する。
サーシャはランクの件で話をしてくるからと、所長室に入っていった。
報酬をもらって満足しているのだが、普段のオレを担当していない今日の受付女性も顔を引攣らせていた。
うーん。なんて言うか……
笑顔で応対してほしいもんだね。
少し待つとサーシャが戻ってきて所長室に案内される。
「はじめまして、私はここの所長をしているファジーだ。よろしく頼むよ」
「あ、勇飛です。よろしくお願いします」
挨拶をしてソファに座るよう促され、サーシャからコーヒーを受け取る。
「サーシャから君の話を聞かせてもらったよ。そこでランクなんだが今後はブルーランクでも良いかい?」
「まぁ何でもいいですよ」
「グリーンランク以上になると審査があるんだが、サーシャの話を聞く限りでは問題ないとは思う。しかし決まり事でね。明日は審査としたいんだが都合はつくかい?」
「大丈夫ですけど審査は何をするんですか?」
「ただユーヒ君のクエストにシルバーランクの冒険者が同行するだけだよ。グリーンランクでやっていけるか確認する意味の審査だ」
「なるほど。テストでもあるのかと思った」
「じゃあそういうわけだから明日九時にはクエストを受けてくれ」
とりあえず明日は審査となった。
「サーシャ。今日はありがとう。お礼したいけど何かいるか?」
「お礼なんてもらえませんよ。お昼おごってもらいましたし、とても美味しかったです!」
「そうか。まだこれからも世話になるだろうからまた飯食いに行こうか」
「何食べるか考えておきます!」
サーシャはまだ役所に用があるらしいので、筋トレしにゴレンに向かう。
ゴレンはオレの指摘もあって、筋トレ用具が充実してきた。
バーベルやダンベル、サンドバッグなどが設置されている。
もちろんオレは筋トレ用具などはほとんど知らないが、少し試した事のあるものを提案している。
今日もいつもの様に体を追い込み、体の限界まで負荷をかけて回復。
そして干し肉を食べる。
あまりゴツくもなりたくないので、今後は様子を見て体型維持の為のトレーニングに変更しようと思う。
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