第8話 危うく死ぬところだった……
海が割れるって言っても所詮人間のやることだし、出来たとしても少し切れる的なものだと思ってた。
それがまさかこんなことになるとは……。近くに船が無くて本当によかった。
「危うく死ぬところだった……」
旅に出てすぐ自爆とか洒落にならないぞ。まさかこんなに威力が――てゆーかさ、これってもう天災レベルだよね?
あんな一撃に普通の剣が耐えられるわけないって。
根本からポッキリと折れてしまった剣を見ながら、そうやってぼやくくらいしか出来なかった。
あの龍神様、なんつー危ないもんを授けてくれてるんだ。いや、この世界を生きていくためにって渡されたくらいだから、逆に考えて本当にこんなすごい力が必要ってことか……。
異世界……すごすぎる。
はっ、そういえば港町は大丈夫だったのかな!?
慌てて港町の方を見る。それなりに離れていたのが良かったのかな?
少なくとも、遠目に見る限りは町に水が入り込んだ様子はない。
でも、船はどうだろう? ここからだとよく見えないな。
ああ……、なんかもう行きたくない。
◇◇◇
しばらく丘の上で葛藤してたけど、結局は覚悟を決めて港町へと向かうことにした。
王都に行くにはここを避けることはほぼ無理だし、だったら嫌なことは早めに終わらせてしまうに限るよね。
そうして町に入ると案の定、町中が騒然としていた。
やっぱり逃げてもいいかな?
いや、どう考えても俺のせいだけど万が一、万が一違っているかもしれない。そんな淡い期待を抱きつつ、近くにいる人に声をかける。
「すみません、すごく慌てているみたいですけど何かあったんですか?」
「何かあったじゃない。見てみろ、あの荒れ狂った海を! もうこの町は終わりだ!」
ああ、まだ荒れてるよね。不思議とこちらに上がってくる様子はないから町の人達も動くに動けないのかも。
話を聞いている最中にもあちらこちらから絶望的な言葉が聞こえてくる。
「ああ、俺の舟が……」
「お前が海王エルクラーケンを見たって話は本当だったのか」
「俺は逃げるべきだって言ったぞ!」
「あんな話誰も信じるわけ無いだろ!?」
なかには漁船が海に飲まれてしまったと嘆いている人も居た。もう騒ぎの原因が俺とか絶対に言えない。
って、海王エルクラーケンって何? もしかしてワンチャンあり?
詳しく聞きたいところだけど、声を掛ける前に走って逃げていってしまった。俺もここであまり長く話していてボロが出るといけないので、さっさと離れよう。
ひとまずあまり人目につかなそうな場所を探した。
港に近い広場から人気の無い路地がちょうど良さそうだったので、ここで落ち着くのを待つことにした。
「はあ、想像以上に大事になって――」
「ねえ、そこの君?」
「ひゃ、ひゃい!?」
突然掛けられた声に驚く。てか、ひゃいってなんだ……。俺、動揺しすぎだ……。冷静になれ。冷静になれ。
もしかして俺、ここで捕まるのかなあ?
父さん、母さん、ゴメン。
覚悟が決まらないまま恐る恐る振りむくと、そこに居たのは小柄な女の子だった。
明るい金髪でアシンメトリーなショートヘアに特徴的な耳がとても印象的に見える女の子だ。背が低いけど、物腰を見る限りは子供じゃあないな。
少なくとも来ている服を見る限りでは憲兵ではないことがわかる。よ、よかったあ。
でも、この子。どうしてそんなに嬉しそうにこちらを見ているんだろう?
よくわからないけど、怒っていないってことは何かバレてしまったわけではなさそうかな?
「えっと、もしかして俺?」
「うん、ちょっとお礼が言いたくて」
「お礼? 君に感謝されるようなことした覚えがないんですけど?」
「さっき浜辺にいたでしょ? あなたのおかげでようやく帰れそうだから。もう三日も足止めされてて困ってたのよ」
訂正、楽勝でバレてたよ。三日ってのはどういうことかわからない。でも、この子の言いっぷりからすると実際に現場を見られていたみたいだ。
……いや、でもちょっと待ってほしい。確か俺が立っていた浜辺まではこの港町が近いとはいっても、それなりに距離があったはずだ。
もし本当に見られていたとしても、望遠鏡とか双眼鏡でもない限りは俺のことをしっかりと確認できたとは到底思えない。
そして、この子はそういった道具を持っているように見えない。つまり……、ハッタリだ。
「ここから浜辺って結構離れてるよね? まあ、俺には何のことかよく分から――」
「ふふ、はぐらかしたってだめ。私はとても目がいいのよ」
「……それは、君がエルフだから、かな?」
「んー、近いけどハズレ」
「そ、そうなんだ?」
耳が尖っていたからファンタジー定番のエルフかと思って、ちょっと知っている感を出してみたんだけど……、これはちょっと恥ずかしい。
でも何かしらの亜人種ってことか。もしかしてハーフエルフだったりとか? どんな種族かはわからないけど、村には亜人は居なかったから何気に転生してから初めての遭遇だな。
こんなことならレーヤ司祭に亜人に関してもっと教えてもらっておけばよかった。
「まあ、そんなことはどうでも良いわ。やっぱり君でしょ? 今の返事もそうだし、顔にわかりやすく出てるから」
「は、はは……………………。頼む! このことは誰にも言わないでくれ!」
両手を合わせてONEGAIを試みる。その必死具合が伝わったのか、女の子が戸惑いを見せた。
「べ、別に誰かに言うつもりは――」
「大変だ! 海王エルクラーケンの死骸が流れ着いたらしいぞ!」
「はあ、本当かよ!? いったい何があったってんだ!?」
「なんでも脳天から真っ二つになってるらしいぞ!」
女の子の話をぶった切るように広場から大きな声が聞こえてきた。さっきもその名前を聞いたな。
よくわからないけど、クラーケンってくらいだからイカの化物? それが真っ二つって……、あっ!? もしかしなくてもさっきの大きなイカのことじゃないか?
さっき話した人たちも触れていたけど、海王エルクラーケンとやらの存在はこの町に住んでいる人たちにとって、荒れに荒れた海よりも重大な関心事だったみたいだ。
「――皆のもの、静まりなさい。さきほど最高神クローツ様より神託を授かりました」
高まるどよめきを割るように、広場の方から男性の凛とした声が響いた。
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