第188話 エチゴラの探求心
魔窟の入り口に何か用でしょうか?
魔窟の視察という雰囲気でも無さそうですし。
「魔窟を探索されるのですか?」
「いえ、交渉に来ただけですよ」
交渉?
どなたかと待ち合わせでもしているのでしょうかね。
「交渉……ですか?」
「ええ、移動の交渉です」
移動?
「移動の交渉? どなたの移動でしょうか?」
「魔窟ですよ」
「?」
「魔窟や魔塔は生きているんですよ」
「は!?」
魔窟や魔塔が生きている?
一体どういう意味でしょうか?
「他の生物を体内にいれて、そこから微量の魔力を吸収して生きている生物。それが魔窟や魔塔といったものの正体です」
確かに有名な魔窟や魔塔には毎日多くの探索者が挑んでいます。
魔窟に現れるという財宝の類いが、探索者という獲物を呼び寄せる餌だとしたら……。
「……」
いや、ですが流石に魔窟が生物はあり得ません。
『はじめまして、私はサシチ・ヒダリともうします』
ヒダリ様?
それは何の音でしょうか?
『ンン? 我ラノ言葉ヲ話ス他種族トハ珍シイ』
!?
魔窟の入り口からも同じような音が。
『本日はお願いがあって参りました』
『願イ?』
これは……音ではなく言葉?
『ええ』
『フム、久シブリノ他種族トノ会話ダ。聞クダケ聞イテヤロウ』
……。
どう聞いてもヒダリ様は魔窟らしき相手とお話されていますね。
『単刀直入に申し上げます。私達の領地へ来ていただけませんか?』
『ソレハ我ニ、コノ地カラ移動シロトイウコトカ?』
『はい』
『フム。餌ニモ困ッテオラヌシ、コノ地デ生キルコトニ我ハ不満ハナイ。ソレニ我ハ移動スルニハ成長シスギテイル』
何を話されているかは全くわかりませんね。
ですがこれがヒダリ様が言っていた交渉ですか。
まさか魔窟と話すことができるとは……
「エチゴラさん、お待たせしました」
どうやら交渉が終わったようですね。
「いえ、それよりも有意義な交渉となりましたか?」
「それはもちろん。こちらが提示した案を快諾していただきました」
おや?
ヒダリ様の手に便箋?
それも6通ですか。
「ああ、これですか。ここの魔窟が作ってくれた他の魔窟や魔塔への紹介状みたいなものです」
魔窟や魔塔への紹介状ですか……。
会話だけでなく文章も書けるのですね。
私達の常識は実は常識ではないの かもしれません。
「あの、ヒダリ様。もしよろしければ教えていただきたいのですが」
私も商売ということをやっている身です。
色々な噂や伝説などを耳に挟むことは多々ありますが。
魔窟や魔塔が対話のできる相手というのは一度も聞いたことがありません。
「なんでしょう? 私で答えられることであれば」
ヒダリ様と共にいるというのは、なんとも刺激が多すぎますね。
「魔窟や魔塔とは一体なんなのですか? もちろん情報に対する対価はお支払いたします、是非教えていただけませんでしょうか」
知らないことの答えを知るであろう方が目の前にいるのです。
わからないことはわかる方に聞くのが一番でしょう。
たとえ対価を支払ってでもね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます