第77話

 とりあえず、対岸にたどり着いた。

 道中一直線じゃなかったのは、ルドとランガーが俺の話を理解した結果だと思うことにする。


「そろそろ道を閉じますよ」


 海を押さえている壁が徐々に狭まり、海の道が閉じていく。

 割れた海がぴったりとつながり、何事もなかったようにもとの海へと戻った。

 海を割ったり閉じたりとホントにありえねぇよ、まったく。


「どうしたのですか、我が主」


「なんでもないよ」


 これも異世界ならではなのかねぇ。




「クリス、目的地ってのはどんなところなんだ?」


「私の縄張りみたいな場所ですよ」


「近くに町やら村やらは、まあ無いよな」


 暇潰しで消し炭にされそうだしな。

 隣人が放火魔で破壊魔とか嫌すぎるわ。


「ありませんね」


 だよな。

 近所迷惑も問題なさそうだし。

 危険人物達の隔離場所としても申し分なさそうだ。


「ご主人さま〜、なんか建物っぽいのが見えるよ」


 いきなり話が違うじゃねーか。


「150年くらい前には何もなかったはずですよ」


 物差しが長いよ。

 国ができて滅ぶくらいの時間だよ。


「消し炭にしましょう」


 ダメだよ。

 なんで燃やすと壊すしかないんだよ。

 たのむから選択肢を増やしてくれよ。


「クリス、ちょっと待ってくれ」


「わかりました」


 話が通じない訳じゃ無いんだよな。

 ただ考えてくれないだけで。

 動く前にちょっとは考えてくれよ。


「リシャル、建物に誰かいるか」


「んー、建物の上に見張りっぽい人が見えるかな」


 はてさて話が通じるといいが?

 最悪、消し炭だからなぁ。

 できれば御近所さんと揉め事はなるべく避けたい所だが。


「動きはあるか?」


「特にないよ」


 長い壁のようなものが見えてきた。

 壁の一画に大きな扉。

 壁も扉もかなり頑強な感じだな。

 関所? 要塞?


「こっちに気付いたみたいだよ」


「敵対の意思はありそうか?」


「んー、なんか驚いてたみたい」


 驚くねぇ。


 見た目で驚かれることは……。

 あるな。

 この移動式天幕の隊列だな。


 イメージはキャンピングカーのはずだったんだが……。

 キャタピラに装甲。

 これに砲塔つけたら完全に戦車だ。

 地球の人間が見たら物騒極まりないな。


「ご主人さま、誰か出てきたよ」


 どっから出てきたんだあの人。

 あのでかい扉以外にも通路があるのかね。


「も、申し訳ありませんが、止まっていたたけませんか」


 えらく丁寧な対応だな。

 もう少し高圧的にくるかと思ったんだが。

 とりあえず言葉は通じそうだ。


「驚かせてしまったようで、申し訳ありません」


 まずはお詫びかね。

 怯えさせてるみたいだし。


「あ、あの。あなた達は、どちらからいらっしゃったのですか」


「えっと、海を渡って来ましたが」


 やり方が非常識だけどな。


「海? あの海を越えてこられたのですか!?」


 ん?

 海を越えたことに驚かれてるな。


「道中、海竜に遭遇しませんでしたか?」


 遭遇しました。

 うちの妻が遭遇して即、気絶させました。


「ええ、まあ」


「海竜に遭遇して、無事でここまで来られたと」


 なんか不味いのか?


「そうなりますね」


「この馬車のようなもので、ですか?」


 移動式天幕に食いついた?


「そうですね」


「どうやら、素晴らしい魔方具かなにかのようですね」


 魔方具と言えば魔方具なのかね?


「そんなところです」


「それで、このよ」


 要塞のほうから警戒音だと思われる、鐘の音が鳴り響いた。


「飛竜だと!? こんな近くに!」


 あれが飛竜かー


「クリス、知り合い?」


「旦那さま、あれは竜ではありませんよ」


「え? でも飛竜って」


「あれは空を飛ぶトカゲです」


「トカゲねぇ」


 飛竜が壁まで近づいてきた。

 壁の裏っかわから魔動機兵が迎撃に出てくる。

 おー、飛竜対魔動機兵かぁ。


「ロマンだねぇ」


 ん? 俺の後ろからも、機械音?

 うちのキャンピングカーに砲塔が生えた。

 そして砲塔に魔法陣が展開。


 一閃。


 飛竜の胴体に穴が空いた。


「……あの、申し訳ありませんが、ちょっと壁の中でお話聞かせてもらえませんか?」


 ですよねー。

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