第52話 ナルディスナの想い

 

 魔力が全く回復しない。

 まさかこんな手があるとはな。

 しかしどうやっている?

 外部からなにかをされている感じはない。

 ならば毒か?


 今日の夕食に何か仕込まれていたか。

 ああ、そうだな。

 完全に油断していた。

 半魔力体である妖精種に効果のある毒があるとは。


 それにあそこまで大胆に攻めて来るとはな。

 まさか寝室ごと魔動機兵で破壊してくるとは。

 クーデターの方はいつ起きてもおかしくないとは思っていたが、ここまで派手にやるとは。

 暴発のきっかけはヒダリ殿だろうな。


 城壁の一部と城門を消し飛ばし、城内で暴れまわった相手に一億ラルと最新鋭や試作機も含めた魔動機兵5機に装備関連と設計図も含めて格納庫の中身をごっそり持っていかれたからな。

 無抵抗で多くを奪われた無能の王か。

 ふん、あそこで反抗してヒダリ殿をどうにかできたというやつがいるのならば是非お目にかかりたいがな。


 それにしてもヒダリ殿、か。

 あの動き。

 あの力。

 そしてあの拳。

 素晴らしかった。


 ああ、そうだな。

 心の奥底が疼いているな。

 これはなんであろうな。


 ふん、物思いに更けってる暇はないか。

 次から次へと鬱陶しい。


 だが、さすがに生身で魔動機兵の相手は骨が折れる。

 しかも使った力が戻らんとなると、なかなか応戦するわけにもいかんしな。

 手頃なところで機兵を一機拝借するか。


 アルノーか。

 ちと古い型だがしょうがない。


 動きが甘い、油断があり過ぎる。

 こんなに魔動機兵隊の能力が低いとは。

 有能なのが多めにヒダリ殿に潰されたのが痛いな。

 まあ、おかげで楽に奪えるがな。


 カシュタンテから黒い霧がにじみ、目の前のアルノーの頭部を覆いつくす。

 視界を奪った隙に背後に回り込み、背面にある操縦席のハッチにカシュタンテを突き立て、こじ開ける。


 中身を放り投げて操縦席に滑り込む。

 魔動炉の魔力は十分。

 とりあえずはどこに逃げる。


 凶壁のところか?

 あそこならとりあえず一息つけそうか。




 アルノーの高度が下がり始めた。

 魔力は半分以上残っている。

 機体の故障か?


 このタイミングで追っ手と伏兵とは。

 機体の故障と重なったのは偶然ではなさそうだな。

 振り切れるか?


 出力が上がらん。

 機体を捨てるか。

 駄目だ制御がきかない。


 急激に高度がさがり機体が地面に叩きつけられる。


 とりあえず、体は動く。

 なんとかなるな。

 ある程度距離は稼げたはずた。

 とにかくデルバレバに向かうのみだ。


 操縦席のハッチに手をかけたその瞬間、操縦席内に魔方陣が現れ、文字列を吐き出す。

 その文字列がうねうねと蛇行しなから身体中に絡み付いてくる。

 なんだこれは?


「はじめまして女王さま」


 黒い機体が目の前に降り立つ。

 黒のテーラム? 個人用に特別調整された機体か。

 仕掛けてきたのはどこの国だ?


「私の仕込んだ毒はいかがでしたか? あなた達のような、闇属性の半魔力体には絶大な効果を発揮するんですよ」


 今回の騒動の元凶がこいつか。


 絡み付く文字列に魔力を吸いとられる。

 まずいな。


「さらにその機体に途中に故障するように細工をしトラップを仕掛け、あなたが乗るようにしむけました」


 このアルノーが来たことも、やつの手のひらだったということか。

 なかなか面倒な相手だな。


「そして、あなたがとらわれているそのトラップこそ、闇属性の魔力を吸収し霧散させる呪いの魔方具」


 完全に我を狙っての準備ということか。

 ああ、わかっている。

 準備は万端だ。


「早くそこから出てこないと、動くこともできなくなりますよ。それともすでに動くだけの魔力がありませんか?」


 奴が動いた。

 もっとだ、もっと近づけ。


「すでに動けないようですね。ならば私がそこから連れ出してあげましょう」


 黒い機体が強引に胸部装甲を引き剥がす。


「こんばんは女王様」


 いまだ。

 カシュタンテから濃密な闇が溢れ出す。


「まだ抵抗する力がありましたか。ですがそれも対策済みですよ」


 黒い機体の後方にいた別の二機が魔方陣を展開する。

 溢れ出す闇に向けて光の粒子が放たれ、闇を中和していく。


「あなた方の得意な目眩まし等、対策済みなのですよ」


 その程度はこちらも想定内だがな。

 これだけ周到に準備する輩に今まで通りの対応をするわけがなかろうに。


「さあ、あきらめて降りてきてください」


 誰もいない場所に話しかけるとはとんだ阿呆だな。

 今のうちに距離を稼がねば。


 魔方具の呪いとやらもいまだ残ったままだ。

 急がねば本当に一歩も動けなくなる。

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