第386話 虚偽とショッピングモール


 トゥルルルル……!


 いきなりかかってきた隆臣からの電話に、飛鳥は眉をひそめた。


 なんで、このタイミングでかかってくるのか?

 噂の彼氏役からの連絡に、飛鳥はどうするかを考える。


 出るか、出ないかではない。

 利用するか、しないかの選択だ。


「もしもし、隆ちゃん♡」


 すると、飛鳥はあっさり『利用する』を選んだらしい。普段以上に、可愛らしく声をかければ、やたら上機嫌な飛鳥に、隆臣は首を傾げる。


『ん? どうしたんだ。やたらと楽し』


「え、今から、?」


『は?』


「そっかー、隆ちゃんて、相変わらず俺のこと大好きだよね♪」


『え? いや、え?』


「うん、分かってるよ」


『なにが!?』


「だから、俺も隆ちゃんのこと愛してるってこと! じゃぁ、今すぐ行くから、待っててね♡」


『…………』


 多分、電話先で鳥肌でも立てているだろう隆臣を想像しつつ、飛鳥は一方的に話し、一方的に電話をブッチ切ると、その後、店員に向けて、変わらぬテンションで話しかけた。


「すみません。に呼び出されてしまったので、今日は帰ります」


「まぁ、お噂の彼氏さんですね! 電話のやり取りで、仲が良いのが伝わってきました! まさに、新婚さんって感じの雰囲気で」


「あはは。そうなんです。俺たち仲が良すぎて。おかげで、隆ちゃん、俺のこと片時も離してくれなくて」


 ありえない嘘を、さも当然のごとく並び立てれば、自分で言っていて、鳥肌がたちそうになった。


 なんで、アイツとラブラブな彼氏、いや彼女?を演じなくてはならないのか?

 

 だが、この場を乗切るためなら、男友達と恋人のフリくらい、難なく、やってのけよう!!


「ありがとうございました〜」


 すると、そのおかげか、店員はあっさり引き下がり、飛鳥はウェディングドレスを試着することなく、店から抜け出した。

 

 だが、店から離れたあと、限界を超えた華がそ偉大に大笑いをする。


「あははは! もう、飛鳥兄ぃ、演技うますぎ! 本当に隆臣さんと付き合ってるのかと思った!」


「付き合ってないよ」


 すっぱりきっぱり否定すれば、飛鳥は、その後、隆臣に折り返しの電話をかけた。


「あ、隆ちゃん。会いになんて行かないから、本気にするなよ」


『…………』


 すると、さっきの可愛らしい声とは打って変わって、普段の低めの声が響いて、隆臣は、あまりの変わりように、ぴくりと眉をひきつらせた。


『お前、さっきのなんなんだ!? 鳥肌がたったわ!』


「俺も鳥肌たった」


『お前が言ったんだろ!?』


「うん、まぁ、そうなんだけど……とりあえず、ありがとね。助かった」


『助かった?』


「うん。俺、もう少しで、ウェディングドレスを着た挙句、40万払わないといけなくなるところだった」


『お前、なにやってんだ?』


 女装服選びは順調だろうかと、電話をかけてきた隆臣。だが、飛鳥の話しぶりから、どうやら上手くいっていないらしい。


 親友の苦労をなんとなく想像し、隆臣は人知れず哀れんだのだった。




 *


 *


 *



 その後、道中のいざこざを何とか収めつつ、飛鳥たちは、やっとのことショッピングモールにやってきた。


 昼を過ぎ、時刻は1時。


 そして、華を先頭に、女性服ばかりのオシャレなお店に入れば、華と葉月は『どれがいいかなー』と、店の中を徘徊し始めた。


 そして、その店の中でも飛鳥はかなり目立っていた。店員や女性客が、チラチラと飛鳥を盗み見ては、頬を赤らめる。


 慣れたものだが、やはり場所が場所だけに、落ち着かない。


「ねぇ、飛鳥さん! あかりさんって、どんな服が好きなんですか?」


「え?」


 すると、葉月が、いきなりあかりの趣味を聞いてきた。

 あかりの服装と言えば、ワンピースやロングスカートといった、大人しめの服な多い気がする。のだが……


「どんなって言われても、あまり詳しくは」


「そっかー。どうせなら、あかりさん好みの衣装をと思ったんだけど……あ! そうだ! いっそのこと、あかりさんの服を借りてみるとか?」


「え? あかりの?」


「あー、葉月それいいかも! あかりさんの服なら、いくらでも、あかりさん好みの服に着せ替えられるし!」


 キャッキャっと、楽しそうな女子二人。

 それを見て、飛鳥は


(あかりの服を、俺が……?)


 なんというか、それは、ちょっと恥ずかしいような気がした。

 いわゆる"彼シャツ"の逆バージョンみたいな話ではないだろうか? まぁ、彼女の服を、彼氏が着るのは、ちょっとマヌケな話かもしれないが……


「ねぇ、飛鳥兄ぃは、どう思う?」


 すると、華に再度問われた。

 あかりを服を着るかどうかの話だろう。


 すると、飛鳥は……


「それは……少し、恥ずかしい……かも」

「お?」


 珍しく赤くなった兄。それを見て、華が、ふふっと微笑めば


「へー、飛鳥兄ぃでも恥ずかしがったりするんだー。前は、普通に女子から制服かりて、女子高生役してたのに」


「う……っ」


「いやいや、華。そこは、だから恥ずかしいんでしょう〜。そこら辺の女子の服とは重みが違うって!」


「あー、なるほどね。あかりさんが実際に着てる服だもんね。あかりさんの匂いとか染み付いつるかもしれないし。そりゃ、恥ずかし」


「俺、もう帰っていい?」


 再び兄を茶化しだした女子高生二人に、ついには限界がやって来た! 飛鳥が、ニッコリって離脱を提案すれば、華は『えぇ!』と声を上げ


「なんで!? まだ、決まってないじゃん!」


「いや、なんかお前らと一緒に居たら、一生決まらない気がする」


「そんなことないし!」


 そして、またギャーギャー兄妹喧嘩が始まった。


 ただでさえ目立つこの二人組が、痴話喧嘩を始めたら、下手をすれば人だかりが出来かねない!


 すると、葉月は


「ねぇ、華! アリス服があるよー!」


 と、別の店のマネキンがいている服を指さした。


 英国風の外観をした店先には、様々な種類のロリータ服やアリス服などが立ち並んでいて、華は、それをみて、おぉ!と唸る。


「確かに可愛いし、飛鳥兄ぃなら絶対似合う!」


「でしょ! 他にもゴシックドレスもあるし、あっち店には、チャイナ服もある!」


「あー、チャイナかー。確かに飛鳥兄ぃの美脚を活かすなら、チャイナもいいかも?」


「ね! あかりさんの服は保留にして、他の店も手当り次第見てみようー! ほら、飛鳥さんも行くよー!」


「え!?」


 結局、葉月が機転をきかせたおかげで、兄の離脱はなくなり、それから暫く、行ったり来たり。


 そして、それから、数時間後──



 *

 *

 *



「はぁ……もう、疲れた」


 女装服を選び終え、無事に帰宅した飛鳥は、リビングのソファーに腰かけ、一人項垂れていた。


 朝から行って、まさに一日がかり。


 帰りついたのは、もう7時前で、今日の夕飯はカップラーメンにしようと飛鳥が考えた時、一日ゴロゴロしていた蓮が、興味津々に口を挟む。


「それで。女装服、何に決まったの?」

「教えない」


 弟からの問いかけをバッサリ切り捨てた飛鳥は、また、深く息をついた。


(俺、なんで、こんなに本気になってるんだろ?)


 好きな人からのお願いとはいえ、こんなに疲れ果てるまで、真剣になっている自分に、飛鳥は少しだけ、恥ずかしくなったのだった。







 ✣✣✣✣✣


応援&コメント、いつもありがとうございます。

今回でこの章は終わり、次回から新章となります。


次章は『恋と別れのリグレット』編。


お兄ちゃんがあかりの家で女装しつつ、後半は、ついにあかりの過去に迫まる章となります。少しダークな話が飛び出しますが、大事な章なので、ついてきてくださると嬉しいです。


また、今日から始まったカクヨムweb小説コンテストにて、神木さんちをエントリーしております。


この先、神木さんを公募に出すことはないので、これが最後のエントリーとなります。良かったら、★やレビューを書いて、花を持たせて頂けたら、作者はもちろん、飛鳥たちも喜びますので、応援頂けたら嬉しいです。


それでは、ココ最近は、ちょっと不調続きで御迷惑お掛けしていますが、皆様からの優しい声掛けには常に励まされ、感謝しております。


本当に、本当にありがとうございます。

無理なく続けていきますので、引き続き宜しくお願いします。


では、次回からは新章『恋と別れのリグレット』編。神木さんちではとなります。やっとここまで来ました。


引き続き、楽しんで頂けるよう頑張りますので、最後まで、お付き合い頂けたら嬉しいです。


 雪桜

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