19.反省

 優しい母さんのことだ、きっと一緒に香澄の家に出向いて香澄の母親に会い、「私がついていきますので」と俺と香澄とがなんの問題もなく星の観察をできるようにはからってくれたに違いない。


 それなのに、そんな良い子の俺が、母さんに黙って香澄の家に行き門限をすぎても帰らないなどということがあるだろうか。


「それはわたしが」

 香澄が申し訳なさそうに自分の手の中のイチゴミルクのパックに目を落とす。

「どうしても、このままわたしの家に来てって強く言ったからだと思う」

 クエスチョンマークを浮かべたままの俺の顔をちらっと見て、また目を伏せる。

「おうちに帰っちゃったら、紘一くん、もう来てくれないって思ったんだと思う」

「え……」

「後で行くから、なんて言っても来ないだろうなって。だから無理矢理そのまま紘一くんを引っ張っていったの」


 それは……と、戸惑う俺の頭の中で、ぐいぐいと腕を引っ張られる感触が蘇る。ものすごい力にびっくりして、後ろのめりになりながらも前へ前へと進んでいく黄色いラインの入った青いスニーカーの脚が見えた気がした。


「何度も、一度家に帰らないと、お母さんに言わないとって言う紘一くんを引き留めて、いろんなおもちゃやゲームを引っ張り出して。うちのお母さんはそんなこと言わないよ、大丈夫怒られないよ、なんて適当なこと言って。お菓子やジュースをたくさん出して、うちでは自由なんだよ、なんて気を引いて」


 つまりは俺はものに釣られて母さんの言いつけを破ったのか。なんだか恥ずかしい。が、目の前の香澄は俺なんかよりもっと恥じ入った様子で涙目になっていた。

「わたしの我儘のせいで、あんな大騒ぎになっちゃって。ごめんね……」


 午後六時をすぎても帰らない俺を心配して、母さんは北公園に向かった。夕闇に沈みかけた公園に子どもはいない。自宅に引き返しても俺はまだ帰っていない。

 母さんは次にヒロトの母親と連絡を取った。そこで俺が香澄とふたりで公園から移動したことを知る。


 ここからが問題だった。転校してきたばかりの香澄の家を誰も知らなかったのだ。母さんは学校に連絡するのは最終手段とし、地区子ども会会長に尋ねてみた。小学生ならばたいていは町内の子ども会に入っている。うちが田舎だからだろうけど。

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