5.メンドクサイ

 率直に言ってメンドクサイ。それが本音ではあるが、本音は別にもある。ぶっちゃけ、俺は人気者な千鶴の姿を見たくないのである。


 わっと周りを取り囲まれて、センパイセンパイと親しげに声をかけられ、それらにいちいち微笑んで相手をする千鶴が嫌いだ。俺のお姉ちゃんなのに、などとこのときばかりは思ってしまった。

 わかってる。俺もたいがい歪んでる。




 その日の帰り道はまた香澄と一緒になった。

「紘一くん、文化祭のアイデア何か考えてる?」

「うんにゃ」

「今週中に決めないとならないんだよね」

「そうだっけ」

 とぼけて返事をしているがスケジュールは一応頭に入ってはいる。


 週末のロングホームルームの時間に文化祭実行委員会が承認・発足、クラスごとに委員を選出し出し物も決定。そのまま第一回実行委員会突入というタイトな流れだったはずだ。


「あのね、紘一くん。よかったら、わたしと一緒に実行委員やらない?」

「はあ? やだよ」

 なんでわざわざそんなだりぃこと。

 ちょうど香澄の家への曲がり角に差しかかっていたので俺は自転車のスピードを落とす。


 じゃあな、と声をかけるためにちらっと後ろに目をくれると、香澄はどよーんとした顔つきになっていた。なんだよその泣きそうな顔。俺が悪いことしたみたいじゃんか。


 俺は自転車を止めて香澄を待つ。香澄もすぐに追いついて自転車を止めた。

「やりたいなら他のやつ誘えばいいだろ」

「だって、あれって男女ペアでしょう」

「だな。俺じゃなくたって、山田とか鈴木とかそういうのが得意そうなのいるだろ」


「紘一くん、一緒にやってくれないの?」

 俯き加減に目を伏せたまま、香澄はもう一度ぽつりと言う。

「やだよ、メンドクサイ」

「そうかもしれないけど、でも、高校最後の文化祭だよ?」

「わかってるよ。だからもっと面倒なことになりそうだろ、俺は絶対にやらない」


「紘一くん……」

 なんだよ、その目は。うるうるした瞳での〈上目遣い攻撃〉はそれなりの威力かもしれないが、俺はもっと破壊力抜群な千鶴の〈こうちゃんお願い攻撃〉に日々(それなりに)耐えているのだ。これくらいで揺るぎはしない。


「俺には通じないから、そういうの」

「もう、紘一くん!」

 くるっと表情を変え香澄は今度は〈おこだよ! 作戦〉に切り替えたようだ。

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