腐令嬢、ニヤつく
それにしたって、この結果は納得がいかない。
だってイリオスがバスケに決まった瞬間、残りの一枠に『王子がいるなら自分もバスケにしたい!』って皆が殺到したんだよ? なのにどうして、何が何でもソフトボールがいいって訴え続けた私までジャンケンに参加させられなきゃいけなかったの?
移動したい奴らだけで、デスマッチでも開催すれば良かったのに!
「何事も公平に、大人数で何かを決める時はこれが最も大切よ。イリオス様目当ての子なら、早くも不平ばかり垂れてる誰かさんよりはいいところを見せようと頑張ってくれたでしょうけどね」
諦め切れず、往生際が悪いのを承知で不満を漏らしても、リコからは冷ややかな返答で叩かれるばかりだ。クラティラス、悲しラス。
「まあまあ。バスケが得意じゃなくても、俺らがカバーするから。リフィにポイントガードを任せておけば、安心だよ」
「俺達、小学校からずっと一緒にバスケやってるんだ。この中学でもバスケ部所属なんだぜっ。アエトがセンターなら、ぜってー負けねーって!」
リフィことリフィノンくんが元気良く言って、隣のアエトくんの肩に手を回す。アエトくんはやれやれといった感じでため息をついたけど、嫌そうではなかった。ほう、これぞニコイチってやつだな。
へー、初めてまともに話すけど、この二人いい感じじゃーん? ワンコ同士が戯れるみたいで可愛いし、スポーツ少年らしい爽やかな友情が感じられて微笑ましいし、ブロマンス以上BL未満って雰囲気がフレッシュスカッシュ美味しいじゃーん?
リゲルも同じことを考えていたようで、いつもの暗黒に堕ちた笑みではなく、ほっこりあったかな笑顔で二人を眺めている。もー、やっぱりリゲルとは気が合うなあ!
「……クラティラスさん、何をニヤニヤしてるの?」
すると、リコが深く低く澱んだ声で私に問いかけてきた。
「えっ? いや、別に? 頼りになる仲間がいて嬉しいなーと思っただけで……」
「ルールとして、全チーム補欠が組み込まれているけれど、だからってサボれるなんて思わないでね? 誰一人として特別扱いはしないから、そのおつもりで」
「う、うん、わかってるよ……」
リコの剣幕に圧され、私は引き攣りながら頷いた。ツンツンしてるのはいつものことだけど、今日は普段に増して機嫌悪いな? もしかしたらリコも嫌だったのに、人数調整のために仕方なくバスケにしたのかも。
だとしたら、希望の種目から外れたからってグズグズしてる奴に腹を立てるのも仕方ない。それに勝つためにはチームワークが大切なんだし、私も苦手意識を克服して頑張らなくちゃ!
「うーん、皆そんなにバスケの経験はないんだね。学校の授業で習った程度、もしくは遊びでやったくらいかぁ」
「ポジション決めは、できたら皆のプレイを見てからにしたいな。皆、今日の部活の後に少し時間もらってもいい?」
机に置いた紙に、ポジションと私達の名前を書いてあれこれ話していたリフィノンくんとアエトくんが、寄せ合っていた顔を上げる。
「わ、私は大丈夫よ。暇な部活だから、途中で抜けることもできるし」
真っ先に声を上げたのは、国際交流部のリコ。あの部活って、そんな暇だっけ? いつも世界政治やら国際情勢やらについて熱くディベートしてるって聞いた気がするけど。
「一時間くらいなら、僕も問題ありません」
続いてイリオスが、優雅でありながら心を決して読めない王族式の微笑みで答える。この野郎、人のこと嘲笑ってた時とは大違いじゃねーか。
オイコラ、ステファニ。見惚れてんじゃねーぞ。無表情で隠してるけど、萌えるあまり地団駄踏んでる足が私にガスガス当たってんだよ。
「あたしも大丈夫ですけど、クラティラスさんとステファニさんはお迎えが」
「行きます。何としても行きます。行かせていただきます」
リゲルの声を押し退ける勢いで、ステファニが宣言する。あーあ、やる気満々じゃん……だよね、イリオスとボール遊びするなんて初めてだろうからね。
ということでそれぞれのポジションは、本日の放課後にバスケ経験者の二人が皆の動きをチェックして決めることとなった。
リコの指示で練習日程のスケジュールを先に立て、それが終わると私は恐る恐る皆に打ち明けた。
「あ、あの……私、本っ当ーにバスケだけは苦手なの。だからとんでもなくひどいプレイすると思うけど、引かないでね……?」
上目遣いに泣きそうな表情で懺悔する私に、リフィノンくんとアエトくんは過ぎし夏の太陽を思わせる明るい笑顔を咲かせた。
「そんなの気にしなくていいよ! 俺らの力で、クラティラスさんを上達させてみせるから!」
「心配なのはわかるけど、無理はさせないよ! だからそんな顔しないで、俺達に任せて!」
ふわぁ、こんな優しいチームメイトに恵まれて幸せだなぁ〜。
その隣で、顔を両手で覆って震えてるキモいアホとは大違いだな。どうせ推しのクラティラス様による上目遣い攻撃に萌え散らかしてるんだろう。毎度のことながら、いちいち気持ち悪いったらありゃしない。
「…………白々しい嘘をつくのね。クラティラスさん、私なんかよりもずっと運動神経がいいのに」
チャイムと共に学級会の時間は終わり、球技大会の相談も解散となったのだが――自分の席に戻ろうとした私に、リコが通りすがり様、小さな声で告げていった。リコは運動があまり得意じゃないから、嫌味と受け取られてしまったようだ。
だが、まあいい。その誤解は、すぐに解けるだろうからね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます