第58話家族になる俺達だが
「あんなに騒ぎになるとは思わなかったわ」
「そうだな」
*************************
俺達は再会したその日、4年間どうしていたかを話して過ごした。
大体は俺が話すのを彼女が聞いてくれる側だった。俺が彼女に問う形でこれまでのことを聞けば、毎日たくさんすることがあって充実していたようで安心したが、ちょっとばかり淋しくて面白くない。
まあ俺も結構忙しかったから、メディアレナ不足をまぎらわせることができたのだがな。
主に騎士団の仲間を見習いの分際で鍛えて鍛えて鍛え抜いてやって、王都の見回りや捕り物もしたな。
御前試合もあったか。あれで入団希望者増えたんだよな。努力すれば子供でも団長を倒せるんだと、希望者達は俺を見て目を輝かせていたな。
ランディ、すまない。考えたら、うちの奴等は何て心が広いんだ。こんな若造にズタボロにされてもひがまないなんて。
あ、でも最初のうちは一部恨みを買って闇討ちに合ったが、こてんぱんにのしてやってから、皆悟りを開いたような優しい態度を俺に取り出したんだっけ。
そんなことを話した2日目、俺とメディアレナは、約束を実行することにした。
まず彼女の実家へ挨拶に出掛けた。
彼女の父親は常に眉間を寄せた不機嫌顔で、面と向かい合って初めて話をした時は、さすがに緊張したものだ。
身分の上下が緩くなったこの国だが、彼女は貴族の出。俺は平民でかなり年下。
家を継ぐのは、本妻の息子でメディアレナより年齢が10以上離れた義理の兄の予定なので特に差し障りはないとのことだったが、娘は娘。色々と質問されたが、俺が副騎士団長だと知ると「若いのに」と驚いたようだった。
だがそれなりの地位というものに、どうやら安心と信頼をしたらしい。最後は黙って頷いてくれた。
良かった、頑張ってて。
それから、その日の内に転送魔方陣を駆使して隣国ハビアルへ。
ハビアルの街中を瞬時に目の前にした時は、こんな所に転送魔方陣が設置されているのかと驚いたものだ。
彼女に聞けば、俺が両親に会いに行きやすいようにと気を利かせて設置していたそうだ。
俺の両親は歓喜して涙ぐんでいたな。母親とメディアレナが楽しそうに一緒に夕飯を作る光景は、俺も胸に込み上げるものがあったぞ。
そして3日目の今日。
麓の街に降り立った俺達は、指輪を買ったその足で、教会で簡単に式を挙げさせてもらった。真新しい黒の騎士服の俺に対して、彼女は実家から譲ってもらった亡き母親のウェディングドレス姿だった。
教会といっても、一般に祀るのは万物を司る数多の精霊達だ。実際にはサディーン様だと知っている俺達は形式的に式を挙げるつもりだったのだが、どこから聞き付けたのか街の人々が押し寄せてちょっとした騒ぎになってしまった。
華やかに微笑む魔女の姿を見るや、地面に泣き崩れる少なくない数の男共には、優越感と塩一粒ほどの同情を抑えられなかった。
ふ、残念だったな。レナはずっと前から俺だけのレナだったんだ。
だがなぜ一部女子達も同じように泣いていたのだろう?解せぬ。
驚愕と祝福と好奇心に包まれて、彼女の一生に一度のドレス姿を堪能する余裕もないまま、逃げるように帰って来たのが少し前。
「明日の地元の新聞を飾るかしら?」
「全国紙だろ。ああ、新聞取ってないか」
笑い合う俺達は、夕食を簡単に済ませて風呂に入ってテーブルで隣合って座って一息ついていた。
薄紫の寝衣に紅色のショールを身に纏ったメディアレナが、おもむろに台所へ向かい、トレーにグラスと小さな瓶を運んで来た。
「大人になったらお酒を飲み交わす約束だったでしょう?」
透明なグラスを差し出して、彼女は嬉しそうだった。
「覚えていたのか」
「楽しみにしてたのよ」
俺のグラスに蜂蜜色の酒を注いだ彼女から瓶を受け取り、俺は彼女のグラスにも注いだ。
「成人おめでとう、リト。それに今日のことも」
「レナも」
はにかみながら、軽くグラスを打ち合わせてから口に運ぶ。まろやかで見た目よりも軽い口当たりだった。
「旨いな」
「まだ呑む?」
「いや、これだけで十分だ。また明日呑もう」
体が温もってきたのを感じて、グラスをテーブルに置いた…………酔っ払っている場合じゃないからな。
メディアレナも一杯呑むと、次を注ぐことはしない。
「…………………ありがとう、リト」
俯いて彼女は、小さく感謝を口にした。
「リトと家族になれるなんて、まだ信じられない」
「なれるじゃなくて、家族になったんだ。これからはずっと一緒だ」
家族というか夫婦だ!なんて良い響きだ!俺だって信じられない。俺の妻だぞ、妻!
世界中に声を大にして叫びたい。俺は結婚した!!したんだ!最強の魔女が奥様だぞ、いいだろ!
こんな日が来るなんて夢のようだ!
「ええ……………すごく嬉しい」
彼女が口許を隠しつつ、そっと呟く。俺も口許がニマニマしてしまうのを抑えつつ彼女の横髪を撫でると、上目遣いに見上げてきたので額にキスを贈る。
「今日は慌ただしかったけれど楽しかったし嬉しかった」
「ああ」
「もう休む?」
「ああ」
「私も眠るわ」
立ち上がったメディアレナは、グラスを台所へ片付けると、緊張して座ったままの俺の横を通り過ぎた。
「先に寝るね、おやすみ」
「ああ、おやす……………み?」
リビングを抜けて階段へと歩いて行く彼女の背中を見送りそうになったが、そうじゃないだろ!と思い出して椅子を引いて勢いよく立ち上がった。
早足で彼女に追い付き、後ろから抱き上げる。
「待て、レナ!逃すか!」
「きゃあ」
目を丸くして俺を見た彼女が、すぐに顔を逸らした。その様子に忘れているわけではないと分かった。
「レナ」
「………………な、なあに?」
「今夜は、大事な夜だよな?結婚した初めての夜なんだが?」
俺なんて、指折り数えて待ち焦がれていたのに。
「……………………………恥ずかしくて、どうしたらいいか分からなくて」
頬を赤くして、両手で顔を隠してしまったメディアレナが消え入りそうな声を出した。
「私………………初めて、なの」
「は…………」
ハジメテ……………
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます