試験
マライア王国王都
王立アカデーメイア高等部試験会場前
季節は春
黒髪碧目の少年とその相棒であるスライムが如何にも田舎者感を漂わせながら道中を歩いていた。
「なあ、ファニ俺たちって学園に行く必要あるか。」
と相棒のスライムであるファニに話しかける主人であるロレン。実際問題、彼が学園に行く理由は存在しなかった。16歳とはいえ既に他国での高等学部終了程度試験及び大学部研究課終了程度試験も済ませていた。
『あるじ、駄目だよ。ちゃんと行かないと』
ロレンにしか聞こえない声で返すファニ。そのどこか愛くるしいボディから伝わる感触は心を自然と穏やかにしてくれそうな柔らかさだった。口調が小姑染みているのがたまに傷だが他の道を歩く人たちには愛くるしいスライムとしか見られていなかった。
「んなこと言ったてよ。勉強はお袋から既に全部習ったし、あのまま冒険者続けた方が良かったんじゃあねえか?」
『駄目駄目、叔父さんが言ってたでしょ。あるじの血縁者に繫がるものがそこにあるかもしれないって。』
「だけどよ。俺が行方不明になったしてもう10年経ってるんだぜ。もう、どうでもいいことだろ。」
『それでもだよ、あるじは学校に通ってないんだから一度は
この小姑じみた相棒に
尚、ロレンの相棒たるファニはノーマルスライムという最もポピュラーなスライムであり、同時に最も弱いモンスターとされる。
とそうこうしている内に目的地であるアカデーメイアに着いたようだ。
「ここが貴族どもが踏ん反り返ったところか。」
と着いて早々、国家反逆罪として捉えられ兼ねない挑発じみたことを言うロレン。この国の貴族の権限はそこそこあり、歴史を見ると王族をしのぐ勢いで年々権限を増やして行っている。しかし今はまだ貴族よりも王族の方が位は高い。
『ちょっとあるじ!!何言ってんの事実だとしても解らずやの子供の言うことだよ。下手にプライドを刺激したら貴族の私兵がくるよ』
さらっと聴こえてないことを良いことにディスるファニ。しかしファニの言うとおりであるいかに自分が強いとは言えここで問題視されると後始末が余計にめんどくさくなってくる。
「おい、そこの田舎者!」
すると如何にも貴族っぽいフリフリの服を着た金髪の中でも珍しい青年がこちらに向かって話しかけてきた。
「あーファニ受付ってどこだっけ。」
当然の如く無視するロレン
『確か門の中に入ってすぐの建物だったよ』
「おう、ありが「おい、貴様この私のことを無視するとはマライア王国第8王子であるこのフェスタ・マルス・マライアを知っての狼藉か!」
ロレンは面倒くさそうに
「なら、王族風情がAランクの現役プロ冒険者の行動を遮っていいのかな。」
「馬鹿か貴様如きスライムの祝福を授かった平民がこの神の祝福を持つ。私のBランクを超えられるものか」
と今言った王子の失言をロレンは見逃さなかった。
「おいおい、あんた初代国王の言葉を覚えていないのか?平民は貴族王族を飢えさせない仕事をする。故に貴族王族は平民を血肉を持って守るべき存在であり、みだりに見下してはならずまた祝福による差別を禁ず。これは国王もまた然り。この初代国王の言葉を覚えていないっていうのなら王族を今すぐやめてこい。あんた国家反逆罪で訴えてやるから
初代国王の言葉は本当であるが時代と共に廃れつつあった。がしかし、実はこの国の憲法としてあるのだ。本当に良く勉強した裁判官ぐらいしか知らないがこの憲法は神による契約が結ばれており。訴えればまず王子に勝ち目はないだろう。無論、英才教育を受けた王子が知らないはずもなく。怒りで顔を真っ赤にしてプルプル震えていた。
「決闘だ!!」
と言って右手の手袋を投げるが手袋は虚空を舞う。既にそこにロレンはいなかった。
自称(本当)王子サマを撒いたロレン達は受付に来ていた。
「受験会場の受付はここであってるか。」
「はい、国民の場合はアカデーメイアの義務教育卒業証を非国民である場合は身分証明となる書類を提出してください。」
「えーと、確か冒険者連盟の会員証でよかったけ。」
「ええ冒険者でプロの方はそれで結構ですが
貴方は見たところ15歳のようですが本当にプロなんですか。偽造しても無駄ですよ。」
そう言われたロレンはプロ会員のAランクのロレンの顔写真とロレン・サーチナの入った会員証を出した。
すると受付の女性はどうせ偽物だと思いながら機械に掛け、判定を待つと本物とでた。
「嘘?!増してやAランクですって!」
そうこれは本物である。ロレンの実力で手に入れたものだ。
「確認は取れたか。」
とまあ自身満々に言う。
「ええ、貴方の身分は証明されました。しかし、冒険者も試験と判定が緩くなったものですね。貴方のようなスライムの主人がAランクだなんて。」
かなり皮肉めいて言う言葉は強さのみに基点おいたものの考えからをしているということを感じさせるようなものだった。だがロレンはそれを気にするそぶりも見せず。別のことに集中していた。
「おいおい、下手な事言ってるとあんたの首が飛ぶぜ。今あんたを見ている実力者さんの手によってな。」
と受付の女性が後ろを振り返るとそこにはてっぺんがハゲていた老人が鬼を携えて立っていた。
「こ、校長。」
受付の女性は口をわなわなさせながら身体を震わせていた。その表情は先ほどとは打って変わって恐怖が前面に出ていた。心なしか手を握り
神にすがる思いでこちらをわき見したように見えた。
「ミランダ君、君は彼が儂を実力者と見抜けるだけの眼力を保有しておる。増してや、それが情報によるものだとしても大したものじゃ。プロの冒険者たる者危険は付き物それを常時警戒している。そんな彼が試験に受からない筈がないだろうに。君は一度冒険者のプロ試験を体験した方がいい。こちらで経費を出すから行って来なさい。」
校長は鬼の形相で後ろの鬼が金棒をビシバシと手でたたきながら言うさまは恐怖をさらに倍増させるには十分すぎるものだった。
「ひいぃ、それだけはご勘弁を。あんな毎年死亡者が100人を超える試験なんて受けたくありません!」
ミランダと呼ばれた受付はよほど恐ろしいのか顔を真っ青にして震えていた。
「ならば、彼に謝るべきだろうそれが筋というものだよ。」
「はいぃ、どうかどうかお許しをぉぉ」
「まあ、いい「おい、貴様ミランダ嬢に手を出すとは何事た!!」あー五月蝿えのが来たぞ。」
とロレンは面倒くさい事がやってきたとばかりに口を言う。王子は走ってきたのか肩で息をしており呼吸を整えると先ほどと同じように手袋を投げる準備をしていた。
「そこの田舎者!!もう我慢ならん私と決闘しろ。」
と言って今度こそ手袋を当てようとする第8王子様。しかしここまで走っておいて私兵すら連れてこないとはこの国はそんなに治安が良すぎる国だったかなと今まで治安が悪すぎる国にいたロレンはそんなことを考えていた。
「おいおい、あんたと決闘して俺に何の益があるんだ。」
「ならば騎士団長待遇で騎士団に迎えてやろう。」
どうやらこの王子は国際的なことは苦手らしい。平民はプロ冒険者の優遇制度に憧れこそするがプロ冒険者たちの性格に難があることを知っていたために好んでなろうとするものは余程酔狂な人間か欲に目がくらんだものだけだった。それらふるいにかけられ酔狂な人間が残ることが多いため平民には有名な話である。
「お前馬鹿か。プロの冒険者は、連盟の規定によって国が抱え込む事を禁止している。それに大抵は自由を求めてプロを目指すから、騎士なんぞしがらみでしかない。よって俺に益はない。」
「ならば、貴様が望むものをくれてやる‼︎」
「その言葉高く付くぜ。」
「ちょっと良いかのう。」
校長が話し掛けてきた
「今彼の入学試験を行うから。ついでと言っては何だが、学生の皆にもプロの冒険者の力を見てもらいたいのだよ。筆記の方は、プロ冒険者の試験に受かる頭を持っているならば問題ないじゃろう。じゃから、今言ったフェスタ君とロレン君の決闘の準備はこちらで行うし特別に実技試験扱いにするので生徒達に見せても良いかの。」
伊達や酔狂ではなく真剣な目つきでてっぺん禿げ頭は話しかけてきたため少しカマをかけるか悩んでいたロレン。その間に王子は自分の主張を通そうとしていた。
「ああもちろんだ。この女性を脅迫するような輩は見せしめにあうべきだ。」
完全にロレンを悪者扱いする王子だがロレンはこれ幸いとそのまま話にのり校長にカマをかけてみることにした。
「はあ別に構わねーよ。ただこいつがイカサマしないよう真実の決闘場でやってくれ。」
「貴様、私がイカサマなど脆弱な者のすることなどやると思っているのか!!」
ロレンは口を開かず校長に目を向けた。
「ふむ、その方が生徒も納得するじゃろ。では、ロレン君には入学試験の手続きをするのでな。」
と言ってロレンと校長は出て行った。ロレンの言った真実の闘技場はそう易々と使える場所ではないことさらっとやると言って。
ーーーーーーーーーー
学校内
「校長、あんた相当な曲者だな。」
とロレンは校長に話しかけていた。
「フォッフォッなんのことかなロレン君。そう言う君こそその実力でAランクとはねえ。」
とはぐらかす校長。
「ま、あんたの考えなんぞどうでもいいが。」
ロレンもこれ以上の追求はしなかった。
「ふむ。ではこれから筆記試験を始めるぞい。テストは5教科500点満点形式、制限時間は3時間。では始め。」
筆記試験の内容は主に四則演算、マライア王国の歴史、文法、モンスターの対処法、生態系分布だった。
〜15分後〜
「ほい、もう終わりでいいわ。」
もう終わったところばかりに帰ろうとするロレン。
「もういいのかね。」
「ああ、これ以上は時間の無駄だ。」
早くしろとばかりに言うロレン。
「ふむ、ミランダ君採点しなさい。」
校長はその場で採点するようミランダに促す。
「はい、校長。」
先ほどの失態から飛ばされないかとヒヤヒヤしているミランダ
「しかし早いのう。アンネ君の育てた子たちは優秀なものが多いがお主はレナ君の次に早かったぞい。」
「そりゃあレナ姉は家族の中じゃ1番研究気質だからな。あの性格でも尊敬に値するさ。良く勉強も見てもらったしな。」
「ふむ、アカデーメイアの中では大人しい生徒なのだが家では違うのかね。」
「ああ、と言っても俺は10年は帰ってないからわからないがな。」
そんな会話をしているうちに採点が終わったようだ。
「して、ミランダ君。特点は何点だったかね。」
「解けるはずが無いように作った問題は学者に後で見せますが、他は全て満点でした。」
すごく悔しそうな顔をするビアンカ。
「ふむ、まあアンネ君の育てた子なら当然じゃろう。なんせビアンカ君でさえ490点台は採ったからのう。」
さも必然と言わんばかりの校長。
「え、マジか。ビアンカ姉さんですらそんなに採ったのか。」
「そうじゃよ。解けるはずのない問題は只のブラフじゃったからそもそも点数には入れておらんがビアンカ君は作文を除いて満点じゃったよ。」
「ビアンカ姉さんは勉強が苦手だったんだけどな。」
「ホッホッホ、それだけお主と会っていない時間は長く子供の成長は早いということじゃよ。そろそろ闘技場の手配も終わった頃じゃろうしロレン君の軌跡を観せてもらうぞい。」
そう言い校長は高らかに笑った。
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