命燃え尽きるまで 1

 A・ファーレンハイトがマスターEを倒してから、ぱったりと彼女を迎撃しに現れる者がいなくなった。しかし、彼女は本部内で100人も殺していない。まだまだ戦闘員が残っているはずだと彼女は警戒を緩めない。


 不気味なほどに静かな本部内を彼女が歩いていると、彼女の前に巨大な人影――マスターGが現れる。

 ファーレンハイトは反射的にリボルバーの拳銃を向けるも、彼が敵の可能性は低いと判断してすぐには撃たない。だが、銃を下ろすこともしない。


 マスターGは彼女を見て、素手のまま身構える。


「撃つな、私は敵ではない」


 それを聞いてもまだ彼女は銃を下ろさずに尋ねた。


「マスターG、なぜここに?」

「警備が手薄になったので、監房部を出て様子を見に来た。ここの収容室は旧本部ほど堅牢ではなかったのでな」


 彼は胸を張って拳を握り、力強さをアピールしながら続ける。


「侵入者とは君のことだったんだな。とりあえず、ここから出るぞ」

「他に囚われていたマスターたちは――」

「騒動に乗じて私が脱出させた。君は私たちを助けに来てくれたんだろう? それならもう目的は果たしている」


 ファーレンハイトはようやく銃を下ろすもマスターGから目を離すことはせず、マスターTに通信した。


「マスターT、応答願います」

「どうした?」

「囚われていたマスターたちは全員脱出したようです。一度離脱しましょう」

「分かった。先に帰っていてくれ」


 それだけ答えるとマスターTは一方的に通信を切ってしまった。これまで彼はそういうことをしなかった人だったのでファーレンハイトは彼の覚悟を察してしまう。

 彼女はマスターGに告げた。


「まだマスターTは残るようです。私も残ります。マスターGはお先に脱出してください」

「……無理はするな」


 彼は心配そうな顔でもの言いたげにしていたが、一言だけ忠告して裏手へ急ぐ。

 彼女もまた武器を持たない彼を心配したが、素手でも彼は並のエージェントでは相手にならないくらい強かったので、気にしないことにした。



 A・ファーレンハイトは小さく息を吐くと、マスターTと合流するために本部の正面へと向かう。

 その道中の廊下で彼女はマスターIとばったり会った。

 お互いの距離は十数m。ファーレンハイトは殺意をこめてリボルバーの拳銃で早撃ちしたが、マスターIはマントを翻して銃弾をかわすと廊下の角に身を隠した。

 彼は姿を隠したままで彼女に話しかける。


「A・ファーレンハイト! そう興奮しないで、まあ話し合おうじゃないか!」

「ふざけるなっ! 貴様のような外道を生かしておくものか!」


 ファーレンハイトは怒りのままに荒い口調でマスターIをののしり、彼の隠れている壁に向けて対物ライフルをぶっ放す。

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