裏切り者 7
マスターEの執念にA・ファーレンハイトは悪寒を感じた。
彼は弱っていても瞳だけは力強くマスターMを睨んでいる。
「落ち着いてください。どうか安静に」
ファーレンハイトは彼をなだめたが、耳に届いている様子は全くない。片膝をついた状態から無理やりにでも動こうとする彼の肩を、彼女はしっかり押し止める。
「邪魔をするな……!」
「とにかく手当てを」
「構うな!」
マスターEは彼女を払いのける力もないのに、まだあがこうとしていた。
抵抗しても体力をムダに消耗してしまうだけと分かっていながら、必死に這いつくばってマスターMに向かっていく。
手の施しようがないと、ファーレンハイトは小さくため息をついた。
一方でマスターMはあっさりとマスターTに取り押さえられた。
彼は挑発するようにマスターTに尋ねる。
「俺を殺さなくて良いのか?」
「それよりも話を聞きたい」
「何だ?」
「組織を裏切った理由とか、その辺のことを」
「のん気な野郎だな。誰にでも話せるようなことじゃない」
「……誰になら話せる?」
「さあな。どいつなら信用できそうかは俺が自分で決める」
二人が話していると続々とエージェントたちが応援が駆けつけた。その中にはマスターGとマスターIもいる。
真っ先に声を上げたのはマスターIだった。
「マスターT、そいつを殺せ! 裏切り者を生かしておくな!」
そう叫ぶと同時に彼は銃口をマスターMに向け、躊躇なく発砲した。
マスターTが
マスターEが怒りのこもった声でマスターIを制止する。
「止めろ!! 奴を殺すのは俺だ!」
「だが、マスターE!」
「黙れっ!!」
マスターIは抗弁しようとしたが、やはり聞いてはもらえない。
この場ではマスターEが最も権限がある。組織人であるマスターIは彼の指示に逆らうことができない。
マスターMはいやらしい笑みを浮かべて、マスターEに目をやりながらマスターIに向かって言う。
「俺のことより、早くあいつを助けてやれよ。口だけは威勢が良いが、腹に一撃食らってんだ。さっさとしねーと内臓が腐って死ぬぞ」
「この野郎……! マスターEの治療を急げ!」
マスターIは怒りを堪えて舌打ちし、部下に指示を出す。
◇
救護班によってマスターEは応急手当を受けて地上に運び出された。ついでにマスターTの指示で、残骸となった邪悪な魂の戦闘員ダイスも運び出される。
マスターMは当人の希望で、マスターGに護送されることになった。
マスターGもマスターMを良くは思っていないが、強い恨みを持っているわけでもない。彼に護送してもらえば、少なくともいきなり殺されることはないだろうとマスターMは判断したのだ。
ただマスターIは不満そうにしていた。
広い部屋のさらに先の通路は下水道に続いていたが、先に逃げた仮面の人物――「ルーレット」を見つけることはできなかった。
彼女以外にも幹部級の人物を取り逃してしまった可能性はあるが、拠点を一つ潰して裏切り者のマスターと準幹部級の戦闘員ダイスを回収できたので、そこそこの成果はあったと言える。
ただマスターEが重傷を負ったのは、組織にとって大きな損失だった。
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