両手が異常に汚い変身ヒーローのお話

ノモンハンすぐる

プロローグ

人助けが昔から好きだった。

誰かの役に立ってると実感する事で存在意義を見出していたんだと思う。また、自分が人助けをしなければ単なる変人になってしまうから、というのもある。


どういうわけか私は幼い頃から両手が異常に汚かった。犯罪に手を染める、とかそういう比喩ではなく、単に手首から上が妙に汚れるのだ。

道を歩いていても通りかかった車に泥を手の甲にピンポイントで飛ばされたり、学校でもレモン石鹸で手を洗ったら自分の石鹸だけ油粘土だったり、校舎の外に出た瞬間手のひらに鳥のフンを落とされた事もあった。

いじめられてる、とかではなく超常現象のような目に見えない圧倒的な力が働いているのは、幼い私でもなんとなくわかった。いじめっ子なんかは最初は面白がってイタズラをしてきたが、そのイタズラ行為を遥かに上回る現象が目に前で起こるので、不気味がってすぐに手を出してこなくなった。

クラスメイトからは、私の手が汚れる事により話の腰が折れたり、場の空気もおかしくなるので、ある程度の距離を置かれていた。

担任の先生も身を案じて相談事に乗ってくれていたが、アドバイスを受けるたびに先生の口から飛ぶ唾が私の手に付着して内容が頭に入ってくることはなかった。


他人でさえこうなのだから、身内は更に苦しんだに違いない。


実際私の母と父は、物心ついた時から新興宗教にのめり込んでおり、私の手がすぐに汚れるのは前世の行いが悪いからだと毎朝毎晩、カエルのような神様に祈りを捧げていた。

私も父と母に倣ってその神様に祈っていたが、小学校を卒業してもちっとも治らなかったので、祈ることをやめていた。ただ、母からもらったオロナインは今でも常に愛用している。

歪んではいるが、両親は両親なりに私のことを心配してくれて、少なくとも大切にしてもらっていた。


中学生ぐらいの時に、手がある程度汚れていれば、追加で汚れる事はない法則を発見した。

そのため私は多少の汚れがついたらそのまま放っておき、汚れがひどい時に限り汚れを拭いて保湿をすることにした。

これにより、ティッシュや水道水などの資源がだいぶ節約された。しかし傍目から見たら常に手が汚い女子中学生になってしまった。


汚れている事で得する事もあった。

女子トイレでいじめの現場をたまたま目撃してしまったが、勇気を出して糞尿まみれの両手をかざしていじめっ子に牽制をかけたところ、引いてすぐに退散してしまった。

いじめられてた後輩は私に感謝して、懐いてくるようになった。唯一私の手の汚れを気にしない友人ができたのだった。

また、テレビの取材を受ける、という事になり、クラスで一目置かれた事もある。その時始めて向けられた羨望の目は、正直快感としか言いようがなかった。ただ肝心の取材映像は、次々に起こる超常現象によりお蔵入りになってしまったそうだった。


この両手を生かした仕事につきたい、なんてその後輩には時々漏らすようになった。「汚い手を使った仕事」という字面はなかなかインパクトがあって、その度に後輩は爆笑していた。

人助けをして、世の中の役に立ちたい。後輩の笑顔を見ながら、私の思いはいつしかますます強固なものになっていった。



そして私は、19歳の時に親の反対を押し切って変身ヒーロー(正しくはヒロイン)になることを決めた。


私、御手洗 加奈の物語はここから始めようと思う。

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