274 直せそう
ばっさばっさと羽ばたき天人族のアヴィオールがゴーレムを運んでいく。アヴィオールの変身した蒼い竜がばっさばっさと羽ばたく度に大きな風が舞い上がる。生まれた風は鬱陶しく周囲に広がり、俺が歩く邪魔をする。
って、うん。
いや、アヴィオール、お前、羽ばたかなくても飛べるだろう。魔力で飛んでいるはずだから羽ばたく必要はないよな。竜の羽は魔力を放出するだけの役目でしかないはずだ。となると……羽ばたいているのはわざとか。
重いゴーレムを持たされたことに反抗しているのかもしれない。それともゴーレムの性能実験からハブられたことですねているのだろうか。まったく、最近は竜になっても魔力が漏れ出すことがなくなって効率よく飛べるようになったと自慢していたはずなのに、わざとらしいよな。
にしても、空か。なんだかんだでさ、俺が、持ち上げるのもやっとなゴーレムを持って空を飛べるんだから凄いよな。
まぁ、漏れだしてしまうほどの強大な魔力を持っているから、竜になった時に巨体を支えられるのだろうし、空を飛ぶことも出来るのだろう。こればっかりは俺も真似が出来ないからなぁ。俺だって魔力は多いはずなのに、空を飛ぶのは無理だもん。
風圧に耐えながら拠点である城へと向かう。
俺が城に着いた時には、すでにゴーレムは中庭に置かれていた。そして、そこには、壊れたゴーレムを見て大きなため息を吐いている鍛冶士のミルファクの姿があった。
「こんなにも早く壊してくるとは思わなかったさね」
鍛冶士のミルファクが眼帯をつけた顔をこちらへ向ける。
「えーっと、はい。自分もこんなにもあっさり壊れるとは思いませんでした。自分で行った攻撃の余波にすら耐えられないとか欠陥ですよ、欠陥」
俺の言葉を聞いたミルファクが顔に手を当て、もう一度大きなため息を吐きだす。
「良い笑顔で言うことじゃないと思うんだがね」
俺はいつの間にか笑顔になっていたようだ。なんだ、それだとまるで俺が壊れて喜んでいるようなサイコパスみたいじゃあないか。
「真銀なら、いくつか既存の武具を潰せば何とかなるだろうし、これの修理はこちらでやっておくさね」
お?
おお?
ミルファクが修理してくれるのか。機人の女王に頼もうと思っていたが、ミルファクがやってくれるなら、ミルファクに頼んだ方が良いかなぁ。
って、ん?
「えーっと、今、武具を潰すって言いましたか?」
「そうさね」
潰して素材にするってなると……。
「あの、えーっと、それって、品質が落ちませんか?」
そうなんだよな。俺がやった時は素材としての質が落ちた。だから、素材としての質が劣化しても良いから、どうしても素材として回収したいって時以外には使えないと思ったんだけど、違うのだろうか。
俺の言葉を聞いたミルファクが見えている方の目を細め、楽しそうな顔で笑う。
「そこは鍛冶士としての経験と腕の差さね」
お?
熟練すれば劣化せずに素材に戻せるようになるのか。鍛冶士としてのスキルレベルが上がったらって感じなのかな。タブレットに鍛冶士のスキルでも表示されれば分かり易くて良いのだけどな。
「えーっと、それでは修理をお願いします」
「任されたよ」
お金も取らず……って、まぁ、ここだと大陸と違って、お金自体が無いんだけどさ。とにかく、だ。無償で働いてくれるんだから、ミルファクには大感謝だな。
「ま、美味しい食事を出して貰っている礼さね」
あー、それがあったか。
「なんじゃと!」
と、そこに機人の女王がやって来る。おー、やっと追いついてきたか。
で、来て早々、なんじゃとってなんじゃろう。
「そのユニットはわらわが直すのじゃ!」
あー、うん。そういえば機人の女王に頼んでいたな。
機人の女王の、その言葉を聞いたミルファクは、眼帯のない方の細めた目で、機人の女王を上から下へとジロジロと見る。
「炉は今、あんたが持っていたさね?」
「それがどうしたのじゃ」
「なんでもないさね。あんたにも修理を手伝って貰おうと思っただけさね」
ミルファクの勢いに圧されたのか、機人の女王が一歩下がる。そして、そのまま、ゆっくりと頷く。
「ま、任せるのじゃ」
二人で協力して修理してくれるようだ。
良かった、これで解決ですね。
というワケで!
「えーっと、それでは自分はご飯を食べに行ってきます。魔力を大量に消費したからか、お腹がペコペコなんですよ」
そう、俺は空腹だ。
アダーラとの槍の鍛錬に始まり、機人の女王を注意した件に、このゴーレム騒動。まぁ、全部、俺が悪いのかもしれないけど、とにかく、もう疲れて空腹なのだ。
「それなら私も先に食事にするさね」
ミルファクが笑う。
ミルファクってさ、何気に食い意地が張っているよなぁ。まぁ、俺も頼んでいる側だし、修理優先でお願いしますとは言えないし、みんなで食事ってことで良いか。
さて、と。
それじゃあ、ゴーレムの動作確認は直ってからということで、それ以外のことをちまちまやっていきますか。
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