267 連絡相談
空から足を真っ赤に燃え上がらせ腕を組んだゴーレムが振ってくる。十数メートルの動く騎士鎧のようなゴーレムがこちらを威圧するように腕を組んだ姿は――正直、とても格好よい。
……。
って、おい。
ゴーレムは空からこちらを目指して落ちてきている。そのままの姿で大気圏を突入してきたのか足を真っ赤に燃え上がらせている。いや、よく燃え尽きてバラバラになっていないな。もしかして魔法的な力なのか。
そして、ゴーレムが堕ちる。
俺は衝撃に備えるよう腕を交差し、顔の前に置き耐える準備をする。だが、いつまでたっても俺が恐れているような衝撃もなく、音も聞こえてこない。
何が……?
って、うお!?
俺の中の魔力がごっそり減ったぞ。何が起きた?
恐る恐る交差していた腕を開く。
そこでは青い球体に守られるように包まれたゴーレムの姿があった。なるほどなぁ。大気圏を抜けての運用が想定されているなら着地も想定されていて当たり前だよな。
場合によっては落下による衝撃が攻撃に使えるかと思ったが、こうやって守られ、衝撃などの破壊の力が消えてしまうのでは、それも難しいか。
……。
いや、違うな。
ゴーレムが落ちてきている途中では足が燃えていた。無理矢理大気圏を抜けて来た証だ。そして、地上に堕ちる寸前で俺の魔力が大きく消費された。それは、まぁ、そういうことなんだろうな。
やろうと思えば落下攻撃に使える、か。
機人の女王が着地寸前でゴーレムの何らかの機能を使ってあるはずの衝撃を消した。もしかするとゴーレムを守っているようにしか見えない青い球体、その中に閉じ込めたのかもしれない。
……。
んで、だ。
そこから考えられるのは、単純に俺を驚かせようとしただけってことしか浮かばないんだよなぁ。
本当は大気圏突入前くらいから青い球体に包まれて降りてくる感じなんじゃあないだろうか。それを俺を驚かせるためだけにギリギリまで使わなかった。
いやぁ、機人の女王って随分とお茶目だったんだな。機械なのに、ホント、そんな人間みたいなお茶目なことをやっちゃうんだなぁ。人工知能? よく分かんないけどよく出来ているなぁ。
はっはっはっははー。
って、なるかよ!
たまたま今回は耐えられたからよかったけど、ゴーレムが空中分解する可能性だってあったんだぞ。足が燃えていたのがその証拠だ。
このゴーレムは魔人族の希望なんだぞ。それを俺を驚かせる遊びのために、壊れてしまうかもしれない危険を冒すとか駄目だろうが。
ゴーレムを包んでいた青い球体が消える。そしてゴーレムが膝を付き、胸部が開かれ、その中から機人の女王が降りてきた。
「どうじゃ、地上に降ろしたのじゃ」
機人の女王はそんなことを言っている。脳天気な機人の女王の声と比べ俺の心は冷たく……冷え込んでいる。
「何故、青の球体をギリギリになってから使ったんですか?」
俺は聞く。確認しなければならない。言いたいことは色々あるけれど、まずはこれだ。
「ふむ。少し驚かせようと思ったのじゃ。どうやら驚かせすぎたようじゃ」
機人の女王は俺の様子を驚かせすぎたと判断しているようだ。機人の女王の、表情が変わらない能面のような顔からは、その心の深いところは分からない。読み取れない。
だから、伝えよう。教えよう。
「大気圏を抜ける時に……って、大気圏って分かりますか? 空の壁です。強い衝撃を受けたので分かりますよね? その時に壊れるかもとか思わなかったんですか?」
「大丈夫だったのじゃ。真銀装甲ならそれくらいは耐えられるはずなのじゃ」
はず、か。機人の女王がこういうことをやらかす性格だとは思わなかったなぁ。もうちょっと落ち着いた、それこそ後ろに控えているような性格だと思っていたよ。いや、よくよく思い出してみれば、俺の魔力の時も、ドレスの時も、畑の時も……何をするか言う前に勝手に行動することばかりだったな。今まではそれがよい結果になっていたから何も思わなかったし、言わなかったけど、そういえばそうだったなぁ。
「でも、絶対じゃあないですよね」
「む。どうしたのじゃ」
機人の女王が困ったという感じで首を傾げている。表情が作れないから動きで表現しているんだろうな。
「えーっと、これは凄く線引きが難しい問題で何が正解というのはないのかもしれませんが、それでも言わせてください。何かする前に一言断ってください。なんでもかんでも報告せず自分の判断で行動することが正解の場合もあります。ですが、今回のことは違います。もし、ゴーレムが壊れていたらどうするつもりだったんですか?」
「しかしのう、壊れていないのじゃ」
「確かに壊れていません。でも、それはたまたま壊れていないだけです。壊れる可能性はゼロじゃあなかった。何かあってからでは遅いんですよ。いきなりゴーレムを動かしたことからしてもそうですよ。相談って凄い重要なんです。結果がよかったとしても、このままだといずれ何かをやらかすんじゃあないかと思ってしまいます。今後は大きなことをする時は、その前に必ず報告してください」
「むむむ」
機人の女王は口を閉ざし唸っている。
「あなたは自分の配下じゃあありません。だから、これはお願いです。ですが、それが納得出来ないなら、もうここでは面倒が見きれません。何処へなり好きに行けば良いでしょう」
「しかしのう……」
「ああ、魔力の問題がありましたか。それなら、誰か他に魔力が供給して貰える人を探したらどうでしょうか? その人を探すくらいは手伝いますよ」
俺は自分で思っているよりも怒っているようだ。そう、怒っていた。
俺は一応、この名も無き帝国のトップだ。トップが勝手なことをする人員を認めてしまえば組織は崩壊する。
……とまぁ、そういう小難しい理屈は抜きにしても、このままじゃあ不味いと思ったのだ。機人の女王からすれば小うるさいだけの話かもしれない。
だが、それでも、これは不味い。
だから、俺は言う。
まぁ、そういう建前もあるが、単純に腹が立ったってのが大きいよなぁ。プロキオンが苦労したゴーレムを危険に晒したんだぜ。プロキオンと機人の女王なら、いくら敵対していたことがあったって言っても付き合いが長い分、プロキオンを取るさ。
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