170 たまご

 さて、と。


 交渉する内容が重要だ。意外とアレな竜だということは分かったが、だからといってあまり図々しいことを言うのは止めておこう。今が危機的状況なのは変わらないワケだしさ。


「えーっと、それでここに居たはずのワイバーン種を知りませんか? 自分はそれを倒しに来たワケなので」

『む? むむ?』

 目の前の蒼い竜が首を傾げている。鼻息だけで吹き飛ばされそうだ。


「あー、ちょっと吹き飛ばされそうなので鼻息を荒くするのは止めて貰えませんか」

『なんと失礼な!』

 いやだから、鼻息が荒いって。冷気みたいな風がぴゅーぴゅーと凍えそうだぜ。この蒼い竜、巨大な竜の体を支えているだけあって魔力が凄く多いみたいだな。息をするだけでも魔力が放出されるとか、さ。ある意味、俺と似たような存在なのだろう。


「それでどうなんでしょう? ワイバーン種を知っていますか?」

 この竜はこちらの話を聞かないようだからな。まずはちょっと煽るような感じで注意を向けて、それから話しかけた方が良さそうだ。


『うむ。それなら待っている間暇な我が暇つぶしがてら遊んでいたら居なくなっていた』


 遊んでいたら居なくなったあぁぁ?


 って、この蒼い竜が原因かよ。いや、そりゃあさ、ワイバーン種が居た場所にさ、代わりに居たのがこの蒼い竜だ。そうだよな、そうなるよな。


 ……。


 で、どうするんだ、これ?


 ワイバーンが居なくなった? それは殺しきったってコトですかね。絶滅させたのかよ。これはあれか、猫が良くやるような遊び半分で生き物を殺しちゃったみたいな感じなのか。


 すっごいでっかい猫だなぁ。


 体は体毛の代わりに鱗に覆われているし、首はひょろひょろと蛇みたいに長いし、翼は生えているし、変わった猫だなぁ!


 じゃねぇよ!


 思わず自分の中でノリツッコミをしてしまったけどさ、どうする?


 う、うーん。


 これだとワイバーン種を倒した証を持って帰るコトなんて出来ないぞ。


「えーっと、いや、あのですね。ちょっとワイバーン種を倒した証が必要な案件がありまして、それで襲いかかったワケですけど、その勘違いは申し訳なかったワケですけど、ワイバーン種が居ないのはこちらも困るワケですよ。何とかなりませんかねー」

 いや、まぁ、この蒼い竜に罪が無いのは分かってるよ。全てこちらの都合だってコトも分かっているさ。でもさぁ。


『う、うむ。それならば、その先の岩陰を見てみると良いだろう』

 蒼い竜が器用に指を折り曲げ岩陰を指差す。まるで人みたいな仕草だな。


「えーっと、分かりました。行ってみます。ありがとうございます」

 小さく頭を下げて、蒼い竜が指差した岩陰の方へと歩いて……、


 歩いて……。


 ……。


 って、足が動かない。歩けないじゃん!


「あのー、図々しいお願いかもしれませんが、足が動かないので運んで貰えませんか?」

『本当に図々しいな』

 蒼い竜が何処か呆れたような顔で俺を持ち上げ、運ぶ。


 その岩陰にあったのは……大きな卵たちだった。一つが一つが抱えないと持てないほどの大きさだ。


「えーっと、これは卵ですよね」

 卵だった。


 ……卵だよなぁ。


『うむ。ワイバーンどもの卵であろう。これなら討伐の証とやらになるのではないか』

 あ、あー、うん。


 何気に酷いなこのドラゴン様は。遊び半分で親をぶち殺して卵も持って行け、と。


 ホント、酷いな。


 しかし、大きな卵だな。ダチョウの卵もかなりデカいらしいけど、この卵の前では霞んでしまうぜ。直径が八十センチくらいはあるんじゃあないか。俺の上半身が完全に消えてしまう大きさだな。これ一個で卵焼きが何個作れるやら……。


 ……。


 持ち帰って卵料理をごちそうすればミルファクの口も軽くなるか。


 なるかなぁ。


 なりそうだな。


 よし、それで行こう。


 で、どうやって持ち帰るか、だよなぁ。今は足も動かないしさ。


 ……。


 俺は蒼い竜を見る。


 そこに空が飛べそうな竜がおるじゃろって感じだね!


 この蒼い竜に運んで貰うのが一番だ。


 ……。


 だが、だ。ただお願いしても運んではくれないだろう。それにさ、俺もさすがに、それは図々しいお願いだと思っている。


 分かってるさ。


 だから、この竜に伝える。


「えーっと、麓の鍛冶工房まで運んで貰えませんか?」

『何故、我が運ばねばならぬ』

 まぁ、そう言うよな。分かってた。知ってた。


 言うと思ったぜ。


「えーっと、多分、そこで蟲人のウェイが待っているからですよ」

 だから、こう言ってみる。

『なるほど。それなら話は別だ』

 蒼い竜が俺をひょいと持ち上げ、そのまま大きな翼を広げる。

『我に場所を教えるのだ』

「ええ、任せてください。と、卵もお願いします」


 ……。


 この蒼い竜はここで待っていると言っていた。誰を待っている?


 この蒼い竜は俺の姿を見て魔人どもが攫ったと言っていた。何故、魔人族の話が出てくる?


 そして俺が解放されたと思って上手くいったと言っていた。それは何が上手くいったと思ってのことだ?


 そんなの決まっている。


 魔人族の里の襲撃だろう。その襲撃犯は蟲人のウェイしかいない。そのウェイは、この海に囲まれた島にどうやってやって来た?


 方法は――プロキオンの鳥みたいに空を飛んできた、だよなぁ。船って線も考えたけどさ、この蒼い竜の話を聞いてこれで間違いないと思ったよ。いや、船も有りなのか? あれ、ウェイってどうやってこの島に来たって言った? どうだった? 聞いてないよな。聞いてないはずだ。


 う、うーん。


 ま、まぁ、とにかく、この蒼い竜がウェイの関係者なのは間違いない。


 さあて、これで何とかなった……かな?

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