思い出写真

「先生って昔髪の毛金色だったんだね」

「は?」


 突然そんなことを言い出した私を、わけがわからないと言いたげな顔の先生が見る。なぜ知っているのかと言うと。


「これもらったんだ」

「はぁ?!」


 ピラリとポケットから取り出した写真を先生に見せると、先生は面白いくらい動揺していた。写真に手を伸ばす先生をヒュッとかわすと、先生はうんざりしたように私を見た。


「先生の友達みんなカッコいいね」


 私が持っている写真とは、先生が高校2年生の時に撮ったもので川井先生が持っていたものだ。先生と友達3人、そして川井先生が写っている。


「ほんと勘弁してくれ」

「なんで?いいじゃん」


 写真の中の先生をピンと指で弾くと遊ぶなと怒られた。


「悪かったらしいねー」

「どこまで聞いたんだよ」

「そりゃもう色々。先生に一番手焼かされたって言ってたよ」

「……反省してます」


 写真の中の先生は金髪でピアスもいっぱいついてて、やんちゃな顔で笑っている。今の先生は……、チラリと先生を見るとばっちり目が合った。


「……何」

「変わったなぁと思って」

「その頃はまさか俺が教師になるなんて誰も思ってなかっただろうな」

「女の子もいっぱい泣かしてたんでしょ」

「……昔の話だろ」

「刺されればいいのに」


 今の先生は髪の毛は黒くてもちろんピアスはしてないし。スーツでネクタイもちゃんとしてる。すごい変わり様だ。


「私この人が一番タイプだな」


 一番左で座っている先生の横に立つ人を指差すと先生はため息を吐いた。


「お前男見る目ねーのな」

「先生に言われるなんて終わってるね」


 写真の後ろに川井先生の字でみんなの名前が書いてあった。一条の横に書いてあるから、きっとこの人は立花さんだ。


「立花さん」

「あぁ、立花日向。そいつ優しそうな顔してドSだからマジで」

「なんか川井先生もこの人が一番たち悪かったって言ってたよ」

「成績よくて愛想もいいから悪いことしても誰も何も言えねぇんだよ」

「代わりに先生が怒られてたんでしょ?」

「あぁ。呼び出されて帰ったらおかえり悠介とか言ってにこやかに笑ってんの。ほんとひでぇよな」


 うんざりしたように言いながらも先生は楽しそうだった。

 当然、先生にも青春時代と言うのはあるわけで。私よりも何倍も楽しそうな高校時代の先生を睨み付ける。


「何怖い顔してんだよ」

「べっつにー。この人たちみんな今何してんの」


 先生は一人一人指で指しながら教えてくれた。立花さんは日本人どころか外国人でも知っている大大大企業の営業。吉岡さんという人はバーで働いていて、牧瀬さんという人はカフェを経営しているらしい。


「先生が一番堅い職業に就いたんだ」

「まぁな」

「私もいつか高校時代を思い出す時が来るのかなぁ」

「そりゃそうだろ」


 もしそんな日が来るのなら、私の高校生活の一番の思い出はこうして先生といろいろ話していることだ。本当に楽しくなかった高校生活。学校に来るのが楽しみになったのは先生のおかげだ。


「先生ありがとね」

「何が」

「ふふふ、内緒」

「気持ち悪ぃ」


 生徒にそんなこと言う教師どうかと思うよ。……ま、いっか。

 私は先生の写真を大事にポケットにしまった。

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