10月号モンスターに乾杯!1本目



 モンスターが結婚した。




 私に招待状が届いたのは2ヶ月前の4月。もう、今年3回目の招待状。

本当にお祝い貧乏ってあるんだな。

ご祝儀だけじゃなく、着ていく服やバッグに靴、美容室代にネイル代、いくらでもお金が掛かる。

 正直、行きたくない。

 今回は特に。

 なぜなら、結婚するのはあのモンスターだから。

所謂サークルクラッシャーだ。

男達も知ってるくせに、ヤれたら何でもいいんだなと心底感心する。


 私にまで招待状が来るくらいだから、女友達いないんだろうなと思っていたけどヒドすぎる。

結婚式に来てる友達、全部元カレじゃんw

 女子は私も含めて数人。さすがモンスター。

 身近なところで取っ替え引っ替えするからこうなるんだよ。

すごいなぁ、でもちょっと面白い。

私はモンスターと同じサークルにいたけど、サークル内で彼氏は作らない主義だったから被害は受けたことがない。

だけど私以外の子は殆んど被害を受けていた。

 みお先輩の時はキツかったなぁ。



 みお先輩は、私が新入の時に4年生でよく面倒をみてもらっていた。

私が4年の時、卒業してからもたまに食事に誘ってくれていた先輩は、肉が食べたい(みお先輩は肉食)というので二人で焼き肉を食べに行った。


「この前、ヒロとデートしたんだ」


「あ、イイって言ってた人ですか?」


「そうそう、忙しくてなかなか会えなかったんだけど、久々に会えたんだ。それでぇ、なんか帰るときに『今日はすごい楽しかった。またどっか行きたいね』って言われたんだよねー」


「イイ感じですね」


「だけどさ…それから2週間、連絡ないんだよね…。帰ってすぐ、ありがとうラインはしたのよ。その後何日かしてラインしたんだけど、既読にならなくてさー。忙しいって言ってたから、だからかなって思うんだけど、返信はなくても分かるケド、既読つかないっておかしくない?」


「そ、そーですね…」もしかしてブロック?されてる?


「そしたらさぁ、共通の友達に聞いたんだけど、この前の三連休で旅行に行ってたんだって。まぁ、旅行中ならライン見なくても仕方ないかなって思うけど、帰ってきても既読つかないんだよねー。それにさぁ、忙しくてなかなか会えないって言ってたのに旅行には行ってるんだよねー。誰と行ったかは知らないんだけど。なんかさー、なんで既読つかないと思う?」


「え、えーと…なんでかなぁ…」焼き肉の味がしない。


「スマホ失くしたのかなとか。故障かなとか。前にさぁ、一人だけ居たんだよね。連絡とれなくなって、スマホ紛失したって人が」


「へぇー…そうかもしれないですね」顔のヒキツリ、バレませんように。


「私もさぁ、いい年だし?他にもデートする人はいるんだけど、あんまりダナーって人とはほとんど連絡しないんだよね。でもヒロはすごくイイ感じだし、ラインも普通にしてるしさー。なんでだろ?でも、なんかしつこく『どうしたの?』とか言うのもヤじゃない?重いって思われそうだし、一回だけ送ったんだけど、既読つかないんだよね」


 送ったんかーい。


「どうしたんだろ?なんか事故とかじゃないですよね…?」


「うん、会社には行ってるみたいなんだよね。私の同期と同じ会社で、その飲み会で知り合ったんだ」


 こんなにも鮮やかに「恋は盲目」な人は初めてだ。本人も「あんまりダナーって人には連絡しない」って言ってるのに。



 その時、みお先輩が見せてくれたヒロさんのインスタに、モンスターが写っていた。

 背中が粟立つ。

 みお先輩はモンスターと直接面識がない。

 モンスターは私より一つ下の後輩だ。

 みお先輩が卒業してから、モンスターの飽食が始まったのだ。

 みお先輩の同期の人とモンスターもどこかで繋がりがあったのだろう。全く、その触手は一体どこまで伸びるんだ?ヒロさんはイケメンだ。モンスターが逃すはずはない。



「それでは、新郎新婦の入場です」



 拍手で迎えられ、モンスターは幸せそうだった。

 ふんわりしたエンパイヤードレス。

意外だなぁ。もっと長いトレーンが付いたプリンセス系ドレスとか着るんだと思ってた。

隣に座っている同期のマユが耳打ちした。

「妊娠6ヶ月なんだよ」

 そういうことか。

 ふと、新郎の顔を見て私は固まった。




 ヒロさんだ。




 あの後、どうしても諦めきれないみお先輩は、ヒロさんと同じ会社の同期の人に相談したらしい。




「あいつのことは忘れろ。あいつは鬼畜だ」


「え?どういうこと?」


「俺も知らなかったんだけど、あいつ結婚してたんだよ」


「えぇ…それ本当なの?」


「うん、会社に警察来たから本当だ」


「警察!?」


「あいつ18歳とかでデキ婚したらしいんだけど、監禁とかDVとかあったらしくて、子供の姿も見た人いないとかでさ…会社もクビだよ。だけどあいつ、実家が金持ちなんだよね。だから金で解決したらしいよ」


「まじ鬼畜じゃん…全然そんな風に思わなかった…」



 みお先輩はイッキに冷めたようで

その後はヒロさんのことは言わなくなった。

あの時にヒロさんとモンスターがどんな関係だったか分からないけど、とにかくあの事をモンスターは知らないのだろう…




「それではお二人の新しい門出を祝いまして」



「乾杯!」










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