2183話 アレクサンドリアへの手紙

むっ……ここは客室か。あれだけ酔って歌って、よく部屋まで戻ってこれたな。どうやって戻ったか記憶がないんだよな。でも、楽しかったなぁ。いい夜だったよ。


アレクも横で寝てる。あっ、よだれ。かわいいなぁ。ふきふき。たまに寝言は言うけどいびきは聴いたことないんだよな。健康的だね。


窓を開けてみる。太陽が高い。もう昼過ぎてるじゃん。さすがに寝過ぎたか。仕方ないよな。かなり飲んだし楽しかったし。じいちゃんも楽しそうだったよなぁ。適当な歌詞でめちゃくちゃに歌いまくってさ。ふふ。


アレクが起きたら昼飯食べて、聖木の様子を見てから王都に向かおう。ガストンを放置したまま次に行くのもすっきりしないけど、私が気にすることじゃないしね。だいたい父上を含むクタナツ騎士団からも逃げおおせたってことだから私から逃げ切ったとしてもおかしくはない。そもそも追っかけてないし。


「失礼しまぁ……す……」


おや、担当メイドさんだ。名前は確か……ウェスタさんだったか。


「やあおはよう。昨夜はご機嫌だったね。」


「あっ! 起きておいでですね! お館様がお呼びなのです! お越しいただけないでしょうか!?」


「いいよ。行こうか。アレクは起こさないけどね。」


「ええ、魔王様だけお呼びでして……」


あらま。それはまたどうしたことだろうね? まあ行けば分かるか。




「失礼いたします! 魔王様をお連れしました!」


このメイドさんはじいちゃんの前でも元気だねぇ。


「どうも。お呼びと聞きましたが。あれ? 大丈夫なんですか?」


色黒だから顔色はよく分からないが、えらく元気ない顔してベッドに寝てるじゃないの。傍にはジャンポールさんやばあちゃんまで揃ってるし。


「お、おお……魔王ぉ……来たかぁ……」


声まで元気ないじゃん。昨日そんなに飲んでたっけ?


「どーも。何か御用ですか? あ、長らく逗留させていただきましたけど、そろそろ出発しますね。」


「おお、それかぁ……そんならちいっと悪いがよぉ……この手紙を……領都に届けてもらえんかぁ……」


「領都? アレクサンドリアですよね? いいですよ。公爵家に届ければいいんですか?」


私の中で領都と言えばフランティアだからな。それにしても、こっちの領都にはアレクサンドリアって名前があるのにフランティアの方にはないんだよなぁ。王都に名前がないことと同じなんだろうか。


「おお……公爵閣下はご不在だろうからよぉ……奥様にでも渡しておいてくれやぁ……」


「いいですよ。でも渡すだけですからね? それ以外のことはしませんよ?」


「おぉ……すまねぇが……頼むわぁ……」


何だか心配になってきた。まさか末期まつごの頼みってわけでもあるまいに……


「ジャンポールさんはこの手紙の中身をご存知なんですよね? 渡して問題ないんですよね?」


「もちろんだとも。使って悪いが、それは魔王さんが届けてこそ意味のある手紙となっているものでね。今後のアレクサンドル領のためにね。」


「分かりました。中身の詮索をする気はないですよ。では僕はこれで。出発前にアレクを連れてもう一度ご挨拶にうかがいますね。」


「おぉ……ベルによろしくなぁ……」


え……じいちゃんマジ? アレクとお義母さんの区別がついてないの!? よく見ればジャンポールさんもばあちゃんもどことなく悲しそうな顔してるし……

もしかして……マジでヤバいの?




急いで客室に戻った。アレクに話しておかないとな。


「アレク、起きて。」


肩を揺さぶり、唇に口付ける。

アレクも夢うつつだろうに舌で応えてくれる。


「んっ……カース……っ………」


「おはよ。具合はどうかな?」


アレクは私ほどは飲んでなかったと思うけどさ。


「少し頭が痛いぐらいで……大丈夫よ。」


「むっ、それはいけないね。そんな時はやっぱこれだよね。」


ポーションを口に含み、アレクに口移し。


「んんっ……はぁ……本当に不味いポーションだけど、カースのおかげで飲みやすくなったわ。ありがとう。」


「どういたしまして。でね、さっきおじい様に呼ばれたんだけど。そこでさ…………」


ベッドでイチャイチャしながら状況を説明しておく。




「そうなのね。おじい様だってもうお歳だし、そんなことがあってもおかしくないわね。でもそれなら今度は私も一緒にアレクサンドリアに行けるわね。」


「そうだね。一緒に行こう。あ、それなら公爵夫人に手紙を渡した後はあっちで散歩してみようか。」


「それもいいわね。カースがどれだけ破壊したのか確かめることができるわね。楽しみだわ。」


何だか物騒なこと言ってるなぁ……

でも、そうと決まれば何か食べて、それからじいちゃんに挨拶に行ってから出発だ! ここの料理は美味かったから名残惜しいけどね。




……マジかよ……

じいちゃんはアレクを見ても『ベル』と呼んでいた……これもう本当にヤバいんじゃないの……




「アレク……おじい様は大丈夫なのかな……」


「分からないわ……もしかしたらただの二日酔いってこともあるかも知れないし……」


アレク……その顔は、そんなことないって分かってるよな。

平民の平均寿命は五十歳、それが貴族の場合は八十歳と言われている。だがこれは王族を含む魔力の高い高位貴族の当主達の平均だ。二男以下や子爵以下は含まれていない。すでに六十過ぎの男爵であり、さほど魔力も高くないじいちゃんならばいつ寿命が尽きてもおかしくない。ましてや、浴びるように酒を飲んできた人生だとしたら……


だからって……突然すぎるだろ……

何の前触れもない。昨日まであんなに元気であんなに楽しそうに歌っては踊ってたのに……そんなのありかよ!?


まさか、だから手紙を送るってのか!?

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