1809話 アーニャの行方
よし。間に合った。後は治癒魔法使いに任せておけばいいだろう。金は私が払うと約束したし。
信じるかどうかはともかくとして魔石爆弾を持ってるかも知れないことも話しておいた。死んだら魔力庫の中身に気をつけろと。
それにしても……一体何が起こったのか。
いや、分かってる。心当たりがあるからな。この症状はオワダの前領主だったあの女が死んだ時とそっくりだ。マナオ・クロタキって言ったかな。あの女は血を吐いたりしなかったよな? 私の質問に対していきなり死んだような。確かジュダの名前を呼んだあたりで……
今回も同じなのだろうか。だが、契約魔法は解除した。それなのに?
まあいい。アーニャを迎えに戻ろう。つーか慌てすぎてたな。一緒に連れてきたって問題なかったのに。さてと、アーニャはいい子で待ってるかなー。
あれ?
いない……
アーニャが座っていた鉄ボードもない。
『魔力探査』
ぐっ、意味ない! ムラサキメタリックの鎧を纏ってるんだから!
何か他にアイデアは……
もう一回『魔力探査』
五分程度しか離れてないんだ! そんなに遠くに行ったはずがない! 例え拐われたとしても!
もしかして! この反応か!
ここから離れるよう動いている! 人数は四人! こいつらが怪しい!
『水球』
魔力探査に反応さえあれば見えなくてもぶち当てることぐらいできる。姉上直伝の自動追尾があるからな。一瞬遅れて私も飛ぶ。絶対逃がさん!
いた! 鉄ボードを浮かせて運んでやがった! もっとも今は水球がぶち当たって地面を転がっているが。
ん? なんだこのデブ? 真っ黄色の服着てやがる……趣味悪っ……
「ぷふぅ。もう来るとは。さすがはローランドの魔王と言ったところか」
「誰だお前?」
「知らないのか?」
知るわけない。と言いたいところだが心当たりが出てきた。
「その趣味の悪い服装からするとエチゴヤの番頭か? 残ってるのは第一か第四。第一はまともなオヤジだったから第四か。たしかトツカワムのクラギ・イトイガとか言ったか?」
第一番頭は生意気にもロマンスグレーな男だったからな。というか番頭自ら誘拐の陣頭指揮とは本当にエチゴヤは残り少ないようだな。ついに底が見えたか。
「ほう? シーカンバーの名簿を手に入れたという噂は本当だったようだな。ぷふぅ」
「ナマラを無惨に殺したことは忘れてないぞ? で、その女を拐ってどうする気だ? どうせお前らエチゴヤはもう終わりなんだからよ。気持ちよく吐け。」
「知らんな。魔王の女なら誰でもいいのさ。使い道は聞かされてないがな」
えらく口が軽い奴だな。番頭のくせに。
『狙撃』
とりあえず倒れてる三人は殺しておいた。魔力庫は……問題ないな。中身が消滅する設定のようだ。やっぱそれが闇ギルドだよな。
「お前はどうする? もっと喋ってあっさり死ぬか、惨たらしい拷問の末に死ぬか。好きな方を選んでいいぞ?」
本当は呑気に拷問などしている場合じゃないんだけどさ。
「俺とラウミはライバルだった。厳しいエチゴヤでの下積み時代を乗り越えて、同じ時期に番頭に昇格した」
え? 別にそんなことは聞いてないんだが……
ラウミってオワダを仕切ってた第三番頭ラウミ・アガノだっけ? 私にしてはよく覚えてる……全身緑で固めた超ダサい奴だったからだな。
「それがどうした?」
「ぷふぅ……そのラウミをお前が殺したんだ。許しておけるはずがないだろう。死ね!」
『狙撃』
遅い。懐から取り出したのは短筒だが、狙いをつける前にその手を撃ち抜いてやった。エチゴヤだしね、たぶん持ってるんじゃないかと警戒しておいてよかったわー。
「次は何だ? 魔石爆弾か? だが今度は何かをしようとした瞬間に腕を斬り飛ばす。最初は右腕だ。次は左。抵抗したけりゃしてみろ。」
「ぷふっぷふぅ……何という早業だ。まさか懐から出す手より早いとは……」
よく分かってんじゃん。
「で? お前に命令したのは誰だ? 大番頭はもういないから会長か?」
「ぷふふぅ……そこまでは名簿に載っていなかったようだな。当然だ。今のエチゴヤに会長などいないからな」
『狙撃』
右肩を撃ち抜いた。抵抗したら腕を斬ると言ったからな。質問に正しく答えないのは抵抗と見なす。だから間をとって撃ち抜いた。
「誰の命令だって聞いてんだよ。第一番頭とは同格なんだろうが。」
「ぷふ、セイロさんは先輩だからな。頼まれれば引き受けもする。だが今回の件は違う。セイロさんは別件で動いているからな」
『狙撃』
左肩を撃ち抜いた。しぶといな。
「喋る気がないなら言え。すぐ殺してやるからよ。」
「ぷぷっふぅ。この女、アーニャ・カームラだろう? 俺がなぜ知ってるか気にならないか?」
『狙撃』
右耳を吹っ飛ばした。若干顔の肉も削れたな。それでも平然としてやがる。デブだけに面の皮が厚いってか。
「お前らエチゴヤが拐ったからだろうが。」
「惜しい。ぷふぅ番頭である俺がそんな些末なことを覚えてるはずがないとは思わんか? 知りたくないなら仕方ないがなぁ」
知りたくないな。今のアーニャは辛い記憶を全て知らない状態、いや経験すらしてない状態なんだから。わざわざ掘り起こす必要などこれっぽっちもない。アーニャの言動に気になる点があるにはあるがどうでもいいことだ。もう殺そう。
『水鋸』
「最後だ。素直に吐く気がないならこれで一本ずつ手足を切断する。それともムラサキメタリックを纏って抵抗してみるか?」
当然こいつだって持ってるはずだろうからな。
「ぷふぅ……参った。これはもうどうにもならない。ラウミがやられるわけだ。知ってることを話すから助けてくれないか?」
いきなり態度を変えやがった。めちゃくちゃ怪しい。
「じゃあ約束だ。命は助けてやるから俺に絶対服従しろ。」
『解呪』
一応かけてみたが、意外にもこいつ何の契約魔法もかかってなかった。それでも油断はできないがね。
「それは無理だ。ぷふっ条件をもう少しどうにか。正直に話すとか、抵抗しないとかにして欲しい」
『狙撃』
左耳も吹っ飛ばした。頬骨も削れたかな。
「何か言ったか?」
「いいや、何も言ってない。その条件でっぷっぶぶっふふっうううぅ……なかなか強烈な魔力だ……」
やった。マジかよ。エチゴヤ幹部に絶対服従の契約魔法が効いた。これで、今度こそ情報取り放題だ。時間はないが焦らずやろう。
少々あっさりしすぎている気もするが、話を聞いてから判断するしかないな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます