1772話 討ち入り直前
もうすぐ夕方なのに誰も来ないでやんの。どうなってんだ。天道魔道士はどうでもいいが、赤兜まで攻めてこないって。さすがにおかしい。天都で何か起こってるのか? それとも何も起こってないのか? 私達のことなど完全に無視してるってわけか?
もしくは……私が網にかかるのを待ってるとか? 東西の孤児院。それから騎士長の自宅。そのどこかに私が現れると考えて。
あり得るな……
それならそれでこっちにも考えがある。元々の予定通りに行動するだけだ。なんせこっちは……
「カース。誰も来ないわね。どうするつもり?」
アレクが目を覚ましたからな。
「いきなり天道宮に行くとするよ。全員でね。」
「全員で? 私は大丈夫だけどアーニャが危険じゃないかしら?」
「大丈夫。考えがあるから。」
「カースがそう言うなら大丈夫ね。じゃあ先に何か食べる?」
「そうだね。攻め込むのは日没後がいいしね。」
アレクだけじゃない。クロミもドロガーも目を覚ましている。カムイの体調はいまいちだがそれでもいいハンデってとこだろう。
一気に攻め込んで天王ジュダをぶち殺してくれる。それで終わりだ。本当ならエチゴヤもエチゼンヤもきっちりと潰しておきたいところだが後回しでいいだろう。悪の根を断っておけば闇ギルドなんか自然消滅するはずだ。そのうち
ふう。アレクの手料理を久々に食べた気がする。アーニャの料理は素朴な田舎料理って感じで旨い。アレクのは店で出せるような本格派の味わいで、やはり旨い。単純に腕だけを比べたらアレクに軍配が上がるが、どちらもいい腕だと思う。
「それよりいいんかよ。マジでアーニャ連れてくんかよ?」
「ああ。安全な場所なんてないからな。」
今思えばオワダに連れていっておくべきだった気もするが、あそこも絶対安全とは言えないしな。結局全員で行動するのが確実だと判断したわけだ。
「ウチは構わないしー。黒ちゃん一人ぐらいなら守ってあげるしー。」
「う、うん。ありがとクロミさん。」
「いや、大丈夫。アーニャは歩くだけでいい。あれを着て、俺達の後ろをな?」
そこには深紫や青紫烈隊からゲットしたムラサキメタリックのフルプレートがどっさりと置いてある。
「大丈夫なんかぁ? 素人があれ着たってよぉ、歩けもしねぇぞ?」
「それならそれで大丈夫だ。歩かなくていい。あれを着て座ってればいい。この上にさ。」
どこかの事務所で押収した机。これをひっくり返すと意外と飛ばしやすかった。
つーかあの鎧って生意気にそこら辺も優秀だよな。普通フルプレートアーマーで座るなんて無理だろ。
「う、うん。やってみる!」
「目と口だけ塞いでいれば安全だしな。深い水に沈まない限りは無敵さ。」
「見猿言わ猿ね!」
それは私にしか通じない言葉だな。アレクでさえきょとんとしている。
「ま、まあそんな感じ。後はトイレの問題があるけど……悪いけど諦めて。」
あの鎧はそんな構造ないんだよ……そもそも『換装』で着脱することが前提だからトイレ用の小窓なんて付いてない……
「そ……そんな……私これでも乙女なのに……」
「大丈夫よ。魔法をかけておいてあげる。後が大変だけど鎧の中で漏らすより数倍ましだと思うわ。」
おお、さすがアレク。そんなマニアックな魔法まで知っているとは。いや、魔法学校では普通なのかな? 確かに戦う者にとって排泄は命懸けだよな。ならばそれをコントロールする魔法があってもおかしくない。ある意味私の肛門魔法の親戚みたいなものか? さすがに違うか……
「あ、うん。アレクさんありがとう。」
「よし。じゃあ各自装備の点検と準備を整えようか。終わり次第天道宮に殴り込みだ!」
「おうよ!」
「いーよー。」
「分かったわ。」
「う、うん!」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
さて、問題は私の装備なんだよな。
足はドラゴンブーツ、脛と上腕には衝撃吸収のサポーター。前腕にはエルダーエボニーエントの籠手。ケイダスコットンの白シャツ。
装備と言えるのはここまでだ。
オワダの仕立て屋で貰った黒ズボンとテンモカで仕立てた着流しはとても装備とは言えない。防御力皆無だからな……
ちょっとキモいけど私もアーニャと同じことをしようかな。
ムラサキメタリックの鎧を上半身だけ。それも腕を外して……うーん、やっぱ無理か。くっそ重たいじゃん。やっぱこれ個人に合わせた軽量の魔法とか掛かってんだろうな。個人登録って言ったか。いや、所有者登録だったか。まあどうでもいいけど。座ってるだけならともかく、とても歩き回れるものじゃないな。仕方ない。脚と胴体の防御は諦めよう。どうせ自動防御を張るし。
アーニャを手伝うとするかな。これって普通は一人じゃ着脱できないもんな。
「重い上にめちゃくちゃ冷たいんだけど……」
それもあったか……真冬だもんね。この辺りも持ち主ならば問題ないんだろうなぁ……
「アレク、何か手頃な服ない? 暖かそうなやつ。」
「そうね……やっぱりこれかしら?」
ああ、これがあったか。ケイダスコットンのワンピース。たった一枚だけど冬暖かく夏涼しい高級品なんだよな。
「うわぁ……すごいこれ。しっとりすべすべ……それにアレクさんのいい匂いがするぅ……うはぁ……あったかぁい……」
さすがにコート並みとはいかないけど、鎧が冷たいだけに効果は抜群のようだ。足先が冷たいのは我慢するしかないけど。
「ついでにこれも履いておきなさい。結構違うと思うわ。」
「うん! ありがとう。ふわぁ……これもすっごく滑らかぁ……」
おおー。靴下とストッキングか。シルキーブラックモス製なんだよな。もちろん温度調節機能付き。私がプレゼントした物を大事にしておいてくれると嬉しくなるね。
これで足先の冷たさも解決か。後は……
『
「これで今から二十四時間ぐらいは何も出なくなるわ。うまく片付いたら解除するわね。」
「うん、何から何までありがとう。アレクさんって本当すごい……」
「ふふっ、こんなの誰でもできるわよ。」
私はできないけどね。
さて、全員の装備が整ったな。ドロガーはいつも通りで、クロミはローブを羽織っただけか。アレクはドラゴン装備の上にサウザンドミズチのコート、いつも通りだね。
あ、忘れてた。
「お前どうすんだ? 結局誰も来なかったが。」
両腕のない天道魔道士。名前は……忘れた。
「貴殿らは本当に天道宮に攻め入るつもりか?」
質問に質問で返すな、と言いたいところだが答えてやろう。
「そうだ。どうも全ての元凶は天王ジュダみたいだからな。ここらでぶち殺して清算といくわけさ。で、お前どうする? 仲間は来なかったが条件次第で腕を返してもいいぞ?」
まだまだ充分くっ付くだろ。
「いや、それには及ばぬ。いかに我らを軽視しているとて天王は天王。それを害すると聞いては止めぬわけにはいかん。勝負になるとも思えんが尋常に決闘を申し込む。返答やいかに?」
ほんっと天道魔道士って死にたがりだよな……バカばっかり。
「いいだろう。縄を解いてやる。少し待『葉斬』
「あー、ごっめーん。やっちゃったー。だってダルかったしー。」
肉片になっちゃったよ。クロミったら。悪い女だ。最後に名前ぐらい聞いてやろうかと思ったんだけどなぁ。
「いや、構わん。結果は同じだしな。じゃあ太陽も沈んだことだし、行くぞ。」
全員が机に乗り込む。やっぱミスリルボードじゃないと落ち着かないなぁ……
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