1742話 灼熱の密室

ちっ、入口を塞がれたか……


「お前らはさっさと逃げろ。」


他にも出入り口はありそうだしな……

せめてこいつらが逃げる程度の時間は稼いでやるか……私にそんな義理はないってのに。


じりじりと近寄ってきやがる。さすがに警戒されてるな。


『徹甲弾』


こいつらの鎧をもぶち抜く『紫弾しだん』を撃つわけにはいかない。魔力の残留的に徹甲弾がギリギリだ。囲もうとする奴はぶっ飛ばす。


「お前らにも闇ギルドの誇りがあるんなら正面から来い。」


もちろんただの口車だ。言ったもん勝ちだからな。少しは効けばいいが……


「構え!」


なっ!? 全員が盾持ちだと!?


「突撃!」


一斉に!?

くそっ!


『氷壁』


よし!

足元に小さく壁を作ってやった。先頭が躓けば後ろの奴らも転げるってわけだ!

騎士でもないお前らは集団戦の訓練なんてロクにやってないんだろう?


『身体強化』


「おらあぁ!」


技も何もない。薪割りのように不動を振り下ろすだけ。こけた奴の頭をめがけて。そして一撃ですぐに離れる。他の奴らがすぐに起き上がってくるからな。


「構え!」


ちっ、全員が起き上がるのを待ってから再び構えやがった。無駄に統制がとれてやがる。

しかも今度はじりじりと間合いを詰めてきやがる。エチゴヤのくせに慎重になってんじゃねぇよ! もっと頭悪く突撃してこいよ!


奴らが出れば私は下がる。彼我の距離はざっと五メイル。フェルナンド先生が相手なら一瞬で斬られて終わる距離だ。くっ、こんな時に先生が助けに来てくれたらなぁ……

何を馬鹿なことを考えてるんだ……私が勝手に始めたエチゴヤ潰しなのに。


くっ、やばい……やけに後頭部が熱いと思ったら、背後に溶鉱炉が迫ってきた。こりゃ背水の陣どころじゃない。普段の私なら溶鉱炉ぐらいどうってことはないのに。今は……


くそ……深紫どもめ。だから落ち着いて私を追い詰めていたってわけか。生意気な……


『水球』


別に攻撃をしたわけじゃない。ただ頭から水をかぶっただけだ。ついでに少し飲んだ。


「散開!」


ちっ!


『徹甲弾』

『徹甲弾』

『徹甲弾』


くそが! 一人しかぶっ飛ばせなかった!

いかん! 囲まれる!


「突撃!」


舐めんな!


『徹甲弾』

『徹甲弾』

『徹甲弾』


狙いは、足元だ!

氷壁は警戒していたようだが、これは避けきれまい。盾で頭を隠して突撃してきたんだからな。


「おらぁ!」


そして! 転んだ奴を! 不動で! ぶっ叩く!

また一人仕留めた……がっ!?


くっそ……痛ぇ……

ぶっ叩いて隙だらけのところに盾のぶちかましをくらったか……分かってるさ。全力でぶっ叩くんだから、そりゃあ隙だらけだろうよ。

だが、こっちはこうやって一人ずつ減らしていくしかないんだよ。


しかもこいつら……私をぶっ飛ばしておきながら追撃なしかよ……とことん警戒してやがる……

くそ、熱い……もう溶鉱炉が真後ろじゃないか……前世、小学校の頃のストーブ。触ると火傷するタイプみたいな形しやがって。いや、大きさは比べものにならないけどさ……この内部にはどんだけ溶けた鉄が、いやムラサキメタリックが詰まってやがるんだ?


「構え!」


くそ……やばいな……

やけくそで紫弾を使ってやるか……だがそれじゃあ一人しか殺せない……


紫弾……そうだ。どうせなら……


『紫弾』

『徹甲弾』


紫弾で溶鉱炉に穴を空け、そこに徹甲弾をぶちこんで無理矢理広げた。おーおー、がんがん出てきやがる……くっそ、首から上が熱い……


「きっ、きっさまぁ! 何てことを!」


一か八かの賭けだったんだがね。なんせムラサキメタリックを溶かしてる溶鉱炉なんだからさ。紫弾ですら穴が空かない可能性もあった。だが、私の勝ちだ。


「逃げなくていいのか? 全員で死ぬか?」


私の足元を溶けた金属が流れていく。


「あじじじぃ!」

「あっちぃ!」

「ぎゃああぁあ!」


無敵の鎧も足元はそうでもないみたいだな。フルプレートの鎧とはいえ、水も漏らさぬ完璧な作りではないってことだろ。

溶けた金属は魔法ではない。隙間があれば入り込むんだろうからな。おまけにムラサキメタリックの鎧なんてもんを纏っているせいで『浮身』すら使えないもんなぁ? さあどうした? 足が焼けるのを無視してかかってくるか? おっと隙ありだ。


『螺旋貫通峰』


その点私のブーツは違う。サントリーニ親方謹製のドラゴンブーツだからな。溶けた鉄に足を突っ込んでいても普段と変わりない。足が重くて動きにくいのは仕方ないが。


「お前たち! 深紫の誇りを忘れるな! 構えろ!」


こいつがリーダーか。元気いいじゃないか。生き残っている全員が盾を構える。


「突撃!」


『浮身』

『烈風』


「その程度の風など効かぬ!」


そりゃあ効かないだろ。お前ら全員ムラサキメタリックの鎧なんだからさ。ただの風ならな。


でもねぇ?


「なっ!? こ、これは!?」


少しばかり気付くのが遅かったようだな。私は魔法の温度を自在に操ることもできる。普段は風呂の湯を入れるのに有効利用しているが。さっき使った風の魔法は氷点下の冷風。床を流れる金属はたちまち固まるってわけだ。無敵の鎧のせいで風の温度なんて分からないだろ?

溶けた金属に足首まで浸かりながらも突撃した根性は誉めてやるが、それが一気に固まったらどうなるか。動けないよな?

しかも、固まった金属の上をさらに溶けた金属が流れてくるんだぜ?


「ぎっ、ぎゃあああ!」

「あじっ! あっじぃぎぃぃ!」

「たすっ! あっつ! たすっけ!」


特に金属鎧の足首部分ってのは隙間があるよなぁ。おーおー、どんだけ熱いことやら。


では、後ろから遠慮なくいくぜ?

紫のスイカ割りだ。

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