1689話 祭りの後

いやー燃えた燃えた。テンポの野郎のハイテンションな歌もアレクの情熱的なバイオリンも。ドロガーの下手くそな踊りもアーニャのジュリアナ風ダンスも。カムイのガウガウな合いの手もコーちゃんのピュイピュイピッピなコーラスも。全てが楽しいエッセンスだ。


そんな楽しい夜にも終わりの鐘は鳴る。


最初に部屋から出ていったのはカムイだった。腹いっぱいになったし眠いから寝るとばかりに。

次に倒れたのはテンポだった。歌い疲れたのだろう。

その次がアーニャ。自分のための宴会なので極力起きていたかったようだが、年齢のせいもあり撃沈。浄化をかけて寝室に運んでおいた。

そしてアレクもうつらうつらと船を漕ぎだしたのでアーニャとは別の寝室へ。


そして……


「じゃあ俺も寝るわ。今夜は楽しかったな。また明日な。」


「えーニンちゃんもー寝るのー? 夜はこれからだしーい!」


「まあいいじゃねぇか。俺らでのんびり飲もうぜ? 蛇ちゃんもいるんだしよぉ。」


「ピュイピュイ」


「もー! ほらドロガ次!」


「おうよ。ほれほれ、おーっとっと、器ぁ動かすなって。」


何だかんだ言ってもこの二人はいい感じになってきたよな。眠いのも本当だが、どうにか応援してやりたいんだよな。ドロガーがんばれ。コーちゃんおやすみ。


「ピュイピュイ」







「ふぅ……いい酒だぁ。ところでエルフってのは普段から酒なんぞ飲むのか?」


「もぉー言ったじゃん。それぞれの村で造ってるって。たまには飲むし。まあウチらの村はもうないけどさぁー。」


「おお、ソンブレア村だろ? 覚えてるっての。すげえ村長がいたんだろ?」


「そーだし! ヨランダ村長マジすごい魔法使いだったんだし!」


「おーおー! 山や神木を喰らうようなヤベぇ魔物を命と引き換えに仕留めたんだよなぁ? すげぇよなぁ……迷宮にぁそんなやべぇ奴ぁ出てこなかったしなぁ……タイショー獄寒洞はもぐったこたぁねぇが、魔物ぁ弱ぇらしいからよぉ。」


「ウチらの村の周辺ってそんなんばっかりだし。とてもウチ一人じゃあ勝てない魔物ばっかりだったよー。」


「うひょー怖ぇ怖ぇ。ローランド王国の魔境ってなぁ噂だけぁ聞いてんけどよぉ。行きたくねぇぜなぁー。」


「強くなんないとねー。ニンちゃんみたいにさー?」


「無茶言うな。ありゃあバケモンじゃねぇか。どんだけ魔力がありゃーあいつみてぇな真似ができんだよ。どこに驚きゃあいいのかもうとっくに分かんねぇぜ。」


「そんなんじゃダメだしー。ウチと結婚するんじゃないのー? 強くなってくんないとねー。ウチらダークエルフ族の女は強い雄が好きなんだよー? 戦いも、夜もね?」


「ば、ばーろー! 俺ぁ純粋なんだよぉ! からかうんじゃねぇよ!」


「ふーん? じゃあいいのー? ウチこのまま一人で寝ちゃうよー?」


「なっ!? ちょっ、マジで言ってんのか!? 触ったら殺すって話じゃなかったんかぁ!?」


「んー? そんなこと言ったっけー? 覚えてないしー。とりあえずウチの部屋でお風呂入ろっかー。」


「お、おお! 悪ぃな蛇ちゃん! 俺らぁ部屋に帰るからよぉ! お先っ!」


「ごめんなさーい精霊様ぁ。これ全部飲んでいいですからぁー。お先でーす。」


「ピュイピュイ」


コーネリアスは寂しそうな顔をしつつも、それなりにたくさん残っている酒を前にしてご機嫌そうにも見える。


人間の男とダークエルフの女。

新たな異種カップルの誕生にカースは何を思うのだろうか。結婚はまだまだ先とはいえ、彼らも次兄オディロン夫妻と同じ問題に直面することになるはずだ。

クロノミーネがどこまで本気なのかは見えないが、そのあたりをカースが気にすることもないだろう。ドロガーは疑ってないようにも見えるが。ドロガーにしてみれば危険な迷宮を踏破した何よりの報酬と言える。金、名声、そして年老いぬ美女。全てを手に入れたと言っても過言ではないだろう。




翌朝、最初に目を覚ましたのはカムイだった。昨夜宴会が行われていた部屋ではテンポザとコーネリアスが眠っていた。

テンポザはごぉごぉとイビキをかき、コーネリアスは倒れた酒樽に頭を突っ込んでいる。カムイはそんな二人を気にすることもなく呼び鈴の魔道具を押した。

早朝にもかかわらず、いつもとは違う客室係がやってきた。


「ガウガウ」


カムイは前脚で散乱する皿や器を指し示した。


「えーっと、片付けろってことかな?」


「ガウガウ」


カムイが首を縦に振る。


「さすがにお貴族様はペットまで違うんだなぁ」


「ガウガウ」


今度は首を横に振った。客室係は見ていないようだが、ペットではないと言いたいのだろう。そしてさらに。


「ガウガウ」


一つの皿の端に前脚を乗せた。


「えーっと、もしかしてここに乗ってた料理が気に入ったとか?」


「ガウガウ」


首を縦に振り、床を二回叩いた。


「二回……もしかしてこれを二皿持ってこいってこと?」


「ガウガウ」


やはり首を縦に振るカムイ。


「ふへぇ……なんて頭のいいペットなんだ。こんなの初めて見たよ。お貴族様のペットって躾が酷いのばっかりなのに。すごいなぁ」


首を横に振るカムイだった。

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