1673話 いつもの出来事とキサダーニ

さーて、カムイのブラシを探すとするかねぇ。自分で素材を集めて作っても良さそうだけど、ちょっと無理かなー。素材集めはできても加工がなぁー。


「ぎゃははははぁ! あいつシュガーベイビーから出てきやがったぜぇ!」

「男のくせにだっせぇ奴ぅ! どうせ流行りのタピオカなんつーもんを飲んでんだぜ?」

「連れてる女もだっせぇなぁおい? つーかあれ女かぁ?」


なぜ店から出たタイミングでこうも絡まれるかねぇ。テンモカでも同じことがあった気がする。うーむ……


「ねー、ニンちゃん殺してもいーい?」


「やめとけ。さすがに今はまずい。ここは穏便に立ち去るぞ。」


これ以上クロミの腕を晒したくないし、予想外の出来事も起きて欲しくないんだよ。普通なら街の中で殺人したら騎士団がやって来るもんな。昨日の私は全てを一瞬で終わらせたからいいのだ。


「あ? 俺らに向かって殺すたら言うたか? お?」

「タピオカなんてもん食ってん軟弱ヤローが調子こいてんじゃねっぞ? おお?」

「おらてめぇ! 顔を見っしみろや! だせぇローブ着やがってよぉ?」


無駄に耳がいいな……おっと。


『風壁』


ふー。危ない危ない。もう少しでこいつら死ぬところだったぞ。クロミは私が止めても聞くとは限らないんだから。つーか、今こいつが指一本でも触れたら三人とも殺す気だったよな? 私より気が短いんだからさぁ……

あー違う。気が短いわけじゃないか。単に肌に止まった蚊を叩く程度の感覚だろ? 分かってるって。あーもークロミったら。


「んじゃこらぁ? なぁに生意気に魔法なんざ使ってやがんだぁ?」

「そんなしょべぇ魔法で俺らとやる気かぁこらぁ? おおこらぁ?」

「ぎゃはっはぁ! どうせ人前に出せらんねぇドブスなんだろがぁ? 見せてみろやぁ!」


いやーそれにしてもいつも通りとは言え、本当によくもまあこれ系の奴らってここまで調子に乗れるよなぁ。他人に絡まないと死ぬ病気か?


「おう、てめぇらどうした?」


あ、誰かと思えばキサダーニじゃん。昨日ぶりか。


「いやーちっと生意気なガキがいたもんで説教してやってたんすよぉ」

「この女なんか俺らに殺すとか言ったんすよぉ?」

「ドブスのくせに舐めてんすよ」


「また会ったな……こいつらが悪かった。勘弁してやってくれ。」


あら、今日はえらく素直だな。ははーん、昨日ドロガーと殴り合いしたもんで少し反省してんだな?


「お前がそう言うなら構わんぞ。それよりギルドに行ってみろ。またドロガーに会えるぞ。」


どうもドロガーの方もキサダーニに来て欲しくてギルドで飲んでる気がするんだよな。素直じゃない奴らだぜ。


「てめっ! なぁに舐めた口ぃきいてやがる! このお人ぁなぁ! あの伝説のパーティー、ブラッディロワイヤルの乱魔キサダーニさんだぞぉこらぁ!」

「てめぇみてぇなガキが対等な口ぃきけっと思うなやぁおらぁ!」

「いいんすかキサダーニさん! やっちまいましょうよ!」


こいつは……せっかくキサダーニが謝ってるのに。こいつも大変だねぇ。


「てめぇらなぁ……魔王の話ぃしたばっかだろうが……こいつがその魔王カースだぞ……ぜってぇ揉めるなって言っただろうが。ヒイズルでこんな服装してる奴なんか一人しかいねえってんだ。」


あーなんだ。教育済みだったのか。でも誰も聞いてなかったみたいね。キサダーニ先生ったら可哀想。


「えっ!? なっ!? ま、まじっすか!? こ、こんなガキがドロガーさんと……」

「シューホー大魔洞を踏破したって……」

「テンモカじゃあキサダーニさんも一撃だったって……」


おお、結構話してるじゃん。


「分かればいい。じゃあな。ドロガーと仲良くやれよ?」


「ああ。こいつらが悪かったな。」


事情は知らないだろうにこいつらの方が悪いと一方的に決めつけてるところを見ると、こいつらは普段からこうなんだろうな。はは、バカばっか。


「あ、そうそう。うちの狼ちゃんなんだけどさ。見ての通り、超きれいな毛並みしてるだろ? で、この子に合うブラシを探してんだけど、いい店知らない?」


「ブラシかぁ……まあ、そんなもん買うのは貴族ぐらいだろうからなぁ……つーかお前ら若草雲荘に泊まってんだよな? だったらあの周辺にゃあいい店が揃ってんぞ? 客室係とかに聞いたら一発だろ。」


「なるほど。そりゃそうだ。ありがとよ。じゃあな。」


「おう……」


そもそもあの宿は高級店だよな。周辺もいい立地だったし。そりゃあ近くにいい店があるわな。うーん、探し物は近くにあったんだね。それも探し物あるあるか。


キサダーニの舎弟らしき奴らは納得してないような顔をしていたが、私の知ったことではない。あれだけ傍若無人な真似をしておいて無傷で済んだことを喜ぶべきなんだけどなぁ。無理だろうねぇ。あの手の奴らって痛い目に遭わないと決して理解しないはずだもんね。いや、痛い目に遭っても理解しないんじゃないか?


さて、ならば帰ろうかな。


「ちょっとニンちゃんもう帰る気ぃー?」


「そうだけど。ブラシ買いに行こうぜ。」


「まだ早いしー! ブラシは夜でもいいじゃん! もっとウチとデートするし!」


んー、それもそうか。ここはフランティア領都ほどは広くないにしてもクタナツよりは圧倒的に広い。見て回るところなんていくらでもあるよな。アレクへのお土産もどこかで買いたいしね。


「じゃ、適当に歩いてみるか。」


「行こ行こーっ!」


「ガウガウ」


カムイは仕方ないからブラシはもう少し待ってやると言っている。聞き分けのいい子だ。

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