1532話 激闘! アイリックフェルムの軍団

たちまち取り囲まれたカドーデラとドロガー。カムイは素知らぬ顔して囲みを抜けてる。あっ、斬り合いが始まった。へー、ドロガーの奴も普通に剣を使うんだな。


うわぁ……ドロガーやるなぁ。縦横無尽に斬りまくるカドーデラを嫌そうな顔で見つつも、きっちり間合いをとって自分が担当するべき敵を的確に仕留めてやがる。やっぱ五等星は伊達じゃないね。


それより気になるのはそれ以外の奴らだ。畑の外での出来事とはいえ、これだけ人が争っているのに……ボロをまとった農奴らしき奴らは全く関心を示していない。まるでロボットのように自分の仕事に集中している。いや、ロボットってよりは夢遊病と言った方が近いだろうか。これだけの広さの農園だ。一体何百人いることやら……


おっと、狼煙発見。上げさせねーよ?

『水球』


おおっーと! 鳥もだ。どこにも行かせないぜ?

『狙撃』


農園は海からはだいぶ離れているが、それでも海方面の警戒は怠らない。小さい港ぐらいはあるらしいからな。


『ガウゥゥーー!』


あら、カムイの遠吠え。いや、魔声ませいか。私を呼んでいる。海の方をチェックするのに移動しちゃったからな。さては強敵が現れたな?


「じゃあアレク。ちょっと行ってくるね。昨日と同じように見張りを頼むね。」


「ええ、分かったわ。いってらっしゃい。」


くぅー! お約束のほっぺにチュ。気分は新婚さんだね。

コーちゃんもアレクを頼むね。


「ピュイピュイ」




あいつらは……あそこか。結構移動してんな。敵が多いから逃げながら戦ったんだろうなぁ。あっ、あれは……


「魔王さん! こいつら強え!」

「こいつらにぁ魔法が効かねぇぜ!」


「どいてろ。こいつら以外を片付けてな。」


白いフルプレートを纏った一団。五十人ってとこか。えらい戦力が偏ってんなぁ……


「逃がすな! 囲め!」


おっ、意外にまともな指示だ。いやいや、この程度でまともだと思ってしまうなんて……私ったらエチゴヤを舐めすぎてるな……


「カムイ!」


「ガウガウ」


私とカムイは以心伝心。楽でいいなぁ。


「カドーデラ! ドロガー! カムイと三人で固まってろ! 生き残ることだけ考えとけ!」


カムイは一人だけでも楽勝だが、さすがにこの二人は囲まれたらヤバいもんな。このアイリックフェルム軍団に。


「ようがす!」

「いいぜ!」


「慌てるな! もう逃げられん! 一匹ずつ始末しろ! いや、あの着流し野郎は蔓喰の人斬りカドーデラだ! あいつは生かしておけ! 貴重な情報源だからな!」


へー。やっぱカドーデラって有名なんだな。知名度的にはドロガーの方が上っぽいが顔が売れてないってことか。男前度なら断然カドーデラの方が上だもんな。細身でニヒルな伊達男って感じだし。


おかげで私の方も狙いが定まった。明らかに指示を出しているこいつ。他と鎧の見分けはつかないが、こいつさえ生かしておけば後はどうでもいいだろう。張り切るぜ!


金操きんくり


金操を使い必殺の首捩じ切り。本当は全員まとめてやってしまいたいが、それをやると一気に魔力がなくなりそうだからな。近付いた奴から丁寧に捩じ切ってやるぜ。今やアイリックフェルムなんぞ敵じゃないんだよ。マジでやればムラサキメタリックでさえ捩じ切れるんだからさ。


「くっ! 隙を与えるな! かかれぇーーい!」


ついでに言えば私を囲んでも無駄だ。


浮身うきみ


ほぉーら。お前らそんな鎧着てるせいでロクに飛べないだろ? おっと、剣や槍を投げてもだめだめ。


風操かざくり


いくら魔法が効かない金属でも一度起こした風には影響を受ける。普段の風操より魔力は多めに込めないといけないけどさ。

そして改めて『金操』


少し離れてしまったので余計に魔力を込めないといけなくなってしまったが、やはりこいつらを一撃で殺すには兜ごと首を捩じ切るのが一番だもんな。


「この卑怯者があー!」

「俺らが怖いんかよ!」

「降りてきて戦えや!」


『狙撃』


こいつらバカだろ。そんなことを言うためにわざわざ兜を脱ぎやがった。

ちなみにどいつもこいつも髭面の汚い顔だった。やっぱ騎士がこんな島にいるわけないな。エチゴヤの下っ端、いや使い捨てるには惜しい道具程度の存在かな。


「待てぇ! やめろ! 降伏する! 助けてくれ!」


「いいぞ。今から三秒以内に鎧を脱ぎ捨てた奴だけ助けてやる。」


『三』




『二』




『一』




『狙撃』


「なっ!? 何をする! 貴様には血も涙もないのか!」


『狙撃』


「あぎゃっ!」


大腿部を貫通。


「誰が鎧を収納しろって言ったかよ。脱ぎ捨てろって言ったんだよ。お前は特別扱いだから命は助けてやるが、他の奴らは知らんぞ?」


「お、お前たち! すぐに鎧を外に捨てろおぉぉー!」


まったく。頭の悪い奴らだ。


「おーっとカドーデラ待て! 殺すなよ! ドロガーもだ!」


あいつらときたら鎧がなくなったからって嬉々として斬り殺そうとしやがった。まるで外道じゃないか。


「さすがぁ魔王さん。見事なお手並みでぇ。」

「ちっ、もっと聴きたかったぜ。こいつらの悲鳴をよぉ……」


ドロガーの奴、二、三人ぐらいしか仕留めてないくせに偉そうに。それにしてもこいつも反則だよな。かすり傷さえ付ければほぼ勝ちだもんな。激痛か……見たところアイリックフェルムを纏っていようとも体にどうにか傷さえ付ければ有効なようだが、ムラサキメタリックどもを相手にも効くんだろうか?


「とりあえずお前はこっちに来い。」


「くっ、貴様は何者だ!」


『解呪』


「なはっくぉ!?」


ほーらやっぱり。何かの契約魔法をかけられてやがった。


「ここの警備担当やエチゴヤの関係者を全員集めろ。」


「は、はへっ?」


『風斬』


頬を軽ぅーく切ってみた。鮮やかな痛みだろ?


「早くしろ。」


「はっ、はひぃぃーー!」


よし。


「カドーデラ、一応あいつを見張ってな。」


「へいっ!」


逃げようなんて気は起こさないとは思うがね。


「それからお前らはこっちだ。集まれ。」


『……………………』


私を睨む目、恐怖に慄く目、泣きそうな目に虚無な目。そして……殺意を孕んだ目。


ったらぁぁぁーーーー!


「甘ぇぜ?」


「ぼぎゃおおおぶらぁぁぁでぇぇぇんんんっっぅぅおおおおおーーーーーー!」


いかにも襲ってきそうな奴がいたから『伝言つてごと』でドロガーに指示をしておいた。襲ってきた奴がいたら心をぶち壊すぐらいの激痛を与えろってね。


「びぴっぽぉぉあごごがごぎごがぎぃーーーー!」


地べたを暴れまわる。仲間たちが取り押さえようとすると、まったくの無駄。全ての体の穴、九穴きゅうけつって言うんだっけな。そこから色んな液体を吹き出しながら絶命していった。

目と耳からは汚い赤、口と鼻からは黄土色。下の方からはほぼ黒の焦げ茶色と灰色の混ざり物……うげぇ……くっさ。『浄化』


うーん、ドロガーってえげつないなぁ……


「見た通りだ。逆らうとこうなる。次はお前か?」


「い! いやいやいや嫌だ! たすっ、たっ、助けてくっれぇろ!」


効果は抜群だ。


では、みんなまとめて『解呪』


よし……これでいいだろう……はぁ……はぁ……きっつ。


「ドロガー、後は任せた。反抗する奴には同じことをすればいい。」


「おうよ。」


『浮身』


急いでアレクのところへ戻って……


「おかえりなさい。」


「はあっ、はぁ……た、ただいま……」


魔力ポーションを一気飲み!




ふぅ……危なかった……

あの中に一人、強力な契約魔法をかけられてる奴が混ざってやがった……危うく魔力が切れるところだったじゃないか。

現在は残り四分ってとこかな。アイリックフェルムやムラサキメタリックが相手じゃなければこれでも楽勝なんだけどなぁ……


「少し寝るね。後をお願い。」


「いいわよ。いらっしゃい。」


アレクの膝枕は回復効果は五割増し(当社比)だ……ぐう……

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