1485話 豊穣祭五日目、何でもあり部門

朝か。私はすっきりと目覚めたがアレクは……


「カース……おはよう……」


「おはよ。気分はどう? 水飲む?」


「え、ええ……お願い……」


アレクったら最近飲みすぎることが多いよな。でも酔ったアレクがかわいいもんだから私もついつい飲ませてしまうんだよね。


喉を鳴らして水を飲むアレク。喉元がセクシーだぜ。アレクが禁欲ってことは必然的に私も禁欲生活なんだよな。やれやれ参ったな。




宿で朝食を済ませて闘技場へとやってきた。エントリーはすでに済ませているから、あとは開始を待つだけだ。魔力は四割とはいかないか……三割後半ってとこか。問題ない。


「じゃあカース、応援してるわね!」


「うん。今日は少し暴れるつもりだから。客席にいても警戒しててね。」


流れ弾が飛ぶことも考えられるからな。いくら客席には魔法防御が施してあるとはいえ、私から見れば紙のようなものだからな。




それにしても今日は人数が多いな。昨日まではそこまで窮屈に感じなかった武舞台周辺が結構混雑している。暑苦しい野郎ばかりでうっとおしいなぁ……と思えば女の子や妙齢の女性もいるのか。よく見りゃばあちゃんもいるな……大丈夫なのか? 大怪我しても知らないぞ?


『皆さんおはようございます! 豊穣祭もついに五日目です! 今日は何でもあり部門! 本当に何でもありなのです! デメテーラ様は血を欲しておいでです! ガンガン戦ってしっかり血を流してくださーーい!』


さてと……いくか。


『榴弾』

『榴弾』

『榴弾』


まだまだぁ!


『榴弾』

『散弾』

『徹甲連弾』


逃がすかよ!


『魔弾』

『徹甲弾』

『徹甲魔弾』


全てに衝撃貫通をたっぷり乗せてやった。まだ立ってる奴は……


『榴弾』


よし、終わりだ。


『はっ!? い、いったいなにが……ま、まさか……魔王選手の仕業ですか……な、何ということを……』


『今ここに立っているのは俺一人だ。よって五日目は俺の優勝でいいよな?』


司会の姉ちゃんの魔道具より三倍ぐらい大声で闘技場中に響かせてやった。


『い、いや、そ、それは……』


『文句がある奴は言え! いくらでも相手してやるぞ?』


『狙撃』


客席から降りてきた奴がいたので腹に穴を空けてやった。そのぐらいじゃあ死にはしないさ。


『他にはいないのか? 俺の首には二十億ナラーの賞金がかかってるそうだぜ? おまけに魔力庫にも現金で二十億ナラーは入ってるしな! おらどうした! お前らローランド王国のことを魔法しか使えないヒョロガリって思ってんだろ! だったら俺ごときにビビってんじゃねえぞ! かかってこいや!』


『や、やめてください! 観客の皆さんも冷静に! 挑発に乗らないでくだ……だめぇーー!』


姉ちゃんの制止も空しく、客席からは雪崩をうって暴徒が襲ってきた。もっとも民間人が三百いようが五百いようが敵ではない。


『散弾』


榴弾を使うまでもない。終わりだ。


「て、てめぇ……魔王ぉぉ……よくもやってくれやがったなぁ……」


「誰だお前?」


傷だらけじゃん。よく立ち上がれたな。


「一級闘士……光蜂みつばちヤリスだ……よくも……よくも俺らの大舞台を……ぶち壊してくれやが『狙撃』ったぐぶぅっ」


お前なんかに用はないんだよ。立ったからには攻撃するぜ?


『さあ! もういいだろ? まだやるのか?』


『い、いや、その……し、少々お待ちを!』


さすがに司会の姉ちゃんでは判断できないってのか?


周囲を見渡す。立っている者はいない。魔力の反応的には……『狙撃』


『寝たふりしてんじゃねぇぞ?』


横たわったまま、起死回生の一撃を狙ってる奴がいた。甘いな。魔力をじっくり練ろうとするからバレるんだよ。


よし。もういない。武舞台周辺も客席も物音一つないほど静かになった。観客が息をのむ音すら聴こえてくるようだ。


『魔王よ! いったいどうしたことだ!? 何か不満でもあるのか!?』


おおっと、領主の登場か。


『領主よ! あなたとの約束に不満はない! だが、いくらあなたが約束してくれても下々の者の意識までは変えることはできないだろう? だからこのような手段をとらせてもらった。ここで今一度宣言しておくぞ。よく聞けよテンモカの者ども!』


領主とは約束したし、恨みなどあるはずもない。だが、一般人のこいつらはそうもいかない。ローランドを舐めてる節があるし、ローランド人を解放しようとする私をよく思うはずもないからな。


『俺は、意に沿わぬ形でヒイズルに連行された全てのローランド人を解放する! そしてローランドに連れて帰るつもりだ! 中にはヒイズルが好きになり、このままここに骨を埋めたい者もいるだろう! そういった者は例外だ! さあ! 今なお奴隷として働かされているローランド人よ! 名乗り出てこい! これには領主シュナイザー・アラカワ閣下も賛同されている! 何の問題もないのだ! それだけではない! 闇ギルド蔓喰のヨーコ・ミナガワ会長も同じ考えなのだ! つまり! 今ローランド人を解放しなかった場合は! このローランドの魔王だけでなく! 閣下や会長まで敵にまわすことになる! 今ここに横たわっている奴らのようになりたくなければ! さっさと解放しろ! 分かったな!』


領主もヨーコちゃんも協力してくれることは分かってる。だが、それでも個人的に所有されてる場合は見つけようがないからな。名乗り出ろと言ったが契約魔法で縛られてる場合はどうにもできないだろう。こうやってしっかりプレッシャーをかけておく他ない。


『おっとそうだ。ローランド人奴隷を所有してない奴は情報でもいいぞ。正しいと確認できたらその奴隷の値段分を現金でくれてやる。ただし奴隷一人につき先着一人だけだからな。早い者勝ちだ!』


おっ、反応あり。やっぱみんな金は好きだよな。現金な奴らめ。


『魔王の言う通りだ! 最寄りの騎士団詰所まで知らせるがいい! 分かったな!』


領主も乗ってきた。乗るしかないもんな。この大波に。


『さて、それでは表彰式を始めたいところだが……準備が整っておらぬ! 明日の表彰式とまとめて行っても構わぬか?』


『ええ、構いませんよ。お騒がせしました!』


領主の顔も立てておかないとな。

さて、問題は重傷者の数だ。目算で三百ちょいか。容赦なく撃ちまくったからな。即死した奴だってかなりの数いるはずだ。治癒魔法使いのジジイも大変だ。少しぐらいなら協力してやってもいいがね。

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