1357話 クラヤ商会の二男オキマジ

ニヤニヤと私達に絡んできた三人組。服装からすると冒険者でも平民でもなさそうだ。一見すると貴族が着てそうな礼服だが、破れて汚いやつを上に一枚羽織っているだけ。その下は安そうなシャツ、または素肌だ。もう秋だってのに寒くないのか?


「当ててやろうか。お前ら闇ギルドのモンだな? 確かウワバミとかって言ったか?」


まるでコーちゃんみたいじゃないか。


「ああん? そんなチンピラどもと一緒にすんじゃねぇよ!」

「おおともよ! 俺らぁクラヤ商会の人足だあ! 舐めっだらねぇぞ?」

「それにウワバミじゃなくて蔓喰つるばみだぜ? なーんも知らねーでやんの」


人足? 下っ端じゃん……

それでもこの威勢。クラヤ商会ってのはよっぽど儲かってんだなぁ。


「お前らはツルバミと仲が悪いのか?」


「けっ! 知るかよ! あんな奴らいなくたって俺らがいりゃあよお! なあ?」

「おおよ! あんな口しか出さねえ奴らなんぞなぁ! クラヤぁ支えてんのぁ俺たちだぁなぁ!」

「まったくだ。おら、有り金全部とは言わねーよ。半分置いてけ。そしたら見逃してやる」


やっぱりいつものパターンだな。それなら……


「あ、あの……勘弁してもらえませんか……お金なら払いますから物陰に連れていくのだけは……」


必殺弱気。相手が弱いと見ればどこまでも付け入るのがこいつら系の定番だ。


「分かってるって。俺たちは魔物じゃねぇんだ。きっきり半分出したら許してやるさ」

「よかったな? 無傷で帰れるぜ?」

「これに懲りたらあんまり調子に乗るんじゃないぞ?」


あれ……? おかしい。予定と違う……うーん困ったな。せっかく下手に出たのに。なんか迷宮の中でも似たようなことがあった気がする。あのまま物陰に連行されたところで全員をいたぶって契約魔法をかけるつもりだったのに……


「んっ、んんっ。ごほんごほん。んんっ、えーと、やり直しな。金を払うから物陰に行こうぜ。ほら、これ見てみな?」


奴らを待たずに歩き出す私。もちろんアレクの手を引いて。そしてもう片方には小判をじゃらりと出して、見せびらかす。おまけに『風操』アレクのスカートを少しだけめくってみる。ほぉーら、来たくなっただろう?


「もうっ、カースのバカ……」


今日は爽やか青色だね。タイトなミニスカートだからな。そう簡単にはめくれてくれないが、そこは私の魔法の見せどころさ。


「なぁーるほどなぁ。お前らそーゆー趣味かよ?」

「げっへへへぇー若ぇのにいい趣味してんぜ? どこぞの変態領主も顔負けだなぁおい?」

「だから物陰に誘ってんだな。そこまで誘われちゃあ仕方ねえな。全員で相手してやんぜ」


あれ? 何やらめっちゃ勘違いされたぞ? でも構うことはない。物陰への誘導は成功した。人目につかない路地裏だぜ。




ここまで来ればこっちのもの。少々苦労したが、軽い拷問の末に契約魔法をかけることに成功した。内容はこっちの質問に正直に答えること。そして私達のことを誰にも伝えないことだ。でもあんまり聞きたいことなんてないんだよな。


「商会の二男、オキマジとその妻アユカはどのように過ごしてるの?」


おっと代わりにアレクが質問しちゃったよ。それって今朝客室係から聞いた話だよな。


「オキマジ様は……遊び呆けてる……アユカさんは一人で健気に子育てをしてる……」

「外に何人も女を囲ってやがる……仕事もしねぇでいい気なもんだ……」

「それに引き換えアユカさんは俺らみたいなもんにまで優しくしてくれて……でも寂しそうで……」


何だそれ? 夫婦仲良く暮らしてるって話じゃなかったのか。いくら客室係でもそこまで内部の情報は知らないってことか。


「オキマジはアユカに一目惚れしたって聞いたけど?」


「オキマジ様は惚れっぽいし飽きっぽいんだよ……」

「どうせたまには初心うぶな素人に手ぇ出してみたくなったんだろうぜ……結婚までするとは予想外だったがよ……」

「相手が畳屋だし気軽に手ぇ出しやすかったんだろうな……」


うーんクズだな。

普通同業者なら手なんて出しにくいにも程があると思うぞ……


「お前らは人足って言ったな? 普段は何を運んでる?」


「そりゃあやっぱりワラだったり、イグサだったり……」

「完成した畳の積み下ろしとか……」

「それから中身の分からん荷物か……」


ふーん。どうせ抜け荷とかやってんだろ。


「最後に、ツルバミのモンにはどこに行けば会える?」


「街外れの貧民窟の中心部あたりに、場違いないい建物がある……たぶん行けばすぐ分かる……」


まあ行かないけどね。特に用もないし。


「あ、ツルバミとエチゴヤは敵対関係なのか?」


「し、知らねえ……エチゴヤって闇ギルドのエチゴヤだよな……」

「たぶんエチゴヤはヒイズル南西部には手ぇ出さねえ……」

「理由は知らねえが昔からそうだ……」


ふーん。どうでもいいけど。えーっと、もう聞いておくことはないかな?


「コーザの親方は元気にしてるの?」


おお、フォルノがいた畳屋コーザの親方か。アレクは本当によく覚えているな。すごいぜ。


「聞いた話じゃあ……領主様んとこに連れてかれた後に反抗したってんで見せしめに惨たらしく殺されたって……」

「意味ねぇ時に反抗したもんだって少し話題になってた……」

「クラヤに娘ぇとられた時には抵抗しなかったくせにって……」


あー、なるほど。まあ親方も思うところがあったんだろうね。今となっては誰にも分からないけどさ。案外フォルノに対してずっと懺悔の気持ちでもあったのかねぇ。


「じゃあお前ら行っていいぞ。今日のことは内緒な?」


喋ろうとしても無理だけどさ。


「へ、へい……」

「お、おす……」

「はいす……」


「命があって良かったわね。今度から道の端を歩くことね?」


アレクの一言に奴らは顔を青くしながら去っていった。無傷でよかったね。

いや、違うか。拷問はしたけどポーション使ってやったんだった。最近の私ってマジで優しいなあ。

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